プロローグ③
ちょっと短めです。
よろしくお願いいたします。
「ロウ喜べ、ターゲットが見付かった」
暗殺一家【黒狼】の頭ことロウの父親は舎弟達を集めニヤリと笑う。
ロウと呼ばれた彼は頭の息子で一家の跡取りだ。
だが彼は父親の言葉に少しも喜べなかった。何故ならロウは家業を継ぎたいとはこれっぽっちも思っていなかったからだ。
何故家業を継ぎたくないか? 実は彼、一家の長男としてそれはもうデロデロに甘やかされ育ってしまったからなのだ。
「ぼっちゃま! 刃物は危険でございます!」
「若! 暗くなる前に帰るんですよ!」
「ロウ様! 毒を仕込む時は防御服と手袋、マスクとゴーグル着用です!」
ロウは今までの生い立ちを思い浮かべながら心で溜息を吐く。
(ねえ? これで暗殺者になれると思う? 僕悪く無いよね? 恐らく暗殺の〈あ〉の字も教わってないよ? 血を見ると気分悪くなるし、マグカップより重い物持ったこと無い! これで仕事出来るって本気で思ってるの?)
だが彼の心情とは裏腹に話が進む。
「ターゲット……すなわち狐の姫は此処に居る」
父親は地図を広げ東を指差す。舎弟達がオオーっと雄叫びを上げる。ロウの「僕行かないよ?」と言う言葉は雄叫びに掻き消えた。
「あのお方の憂いを取り除き褒美を貰えるチャンスだぞ? ロウ」
(何で僕に言うのかな? 嫌な予感しかしない。こっち見るな! 微笑むな!)
「お前が彼の地へ赴き見事ターゲットを葬り去るのだ」
(うん。僕死ぬよね? 返り討ちだよね? 何か後ろでドタバタ煩い! 血気盛んな舎弟が俺が俺がと騒いでいるのかな? そりゃあ褒美欲しいよね? どうぞ、お譲りしますよ?)
ロウの心の叫びが皆に届くはずも無く舎弟に連行された彼は彼の地へと赴いた。
「ロウ様、あれがターゲットです」
舎弟が指差す方を見ると一組のカップルが腕を組んで歩いていた。
(女が男を引き摺って歩いている! と言うか遠すぎて顔見えないし)
「上手く化けてはいますけど匂いで分かりますよね~?」
(へぇーそうなんだー初耳。勿論僕は匂いとか分かりませんよ? 鼻炎だし。お前達でタマ取ってこいや~! それが早いって! えっ? 頭の命令で手が出せない? 手柄は僕に取らせるって? ハハハ……迷惑な親心!)
「チョット用を足しに行って来ます」
「分かりますよロウ様、初仕事に緊張しているんですね?」
(舎弟がバカで助かった。このままトンズラしまーす。目指せ、転職!)
□□□
《マークよく聞け、潜伏先がバレて姫に刺客が放たれた》
盗聴防止機能付きの通信機から少し焦った声が聞こえてきた。
ボスの声を聴いたマークは心の中で舌打ちをする。
(冷静沈着なオヤジが珍しい……これは由々しき事態なのだろう。とうとう来たか!? 刺客はおそらく【黒狼】一家)
《マークの力が必要だ! 姫の護衛を頼む》
「ああ、任せろオヤジ!」
マークは静かに通信を切った。
(アイツが小さい頃少しの間だけ鍛えてやった事がある。何度投げ飛ばしても食らいついて来る根性は見上げたものだった。その後、本格的な訓練を受け血筋なのか持って生まれた才能なのかメキメキと頭角を現したアイツに敵う相手は居なくなった。陰ながら見守っていた俺は自分の事のように誇らしく思ったものだ)
マークは当時を思い浮かべ薄く微笑んだ。そして己の中に芽生えてしまった許されない感情に胸を焦がす。
(ああああ姫! その身体を抱き締めたい! その肌に触れたい!その唇を貪りたい! 閉じ込めて俺だけのモノにしたい! 許されない想いだとは分かっているさ。だが俺は諦めない! 姫を守り抜いた暁には……この熱い思いをアイツに!)
――今この地で、狐と狼の戦いが始まろうとしている。
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