【番外編】異世界十日間の旅 前編
本編にチラッと出たリンカの同級生の視点です。
よろしくお願いいたします。
カラン、カラン、カラン。
「大~あ~た~り~」
「はっ? 此処何処?」
「おめでとう! 異世界10日間の旅だぞ、喜べ!」
「はぁ? アンタ誰?」
「オイオイ! 神様に向かってアンタは良くないなぁ?」
私の名前は、サヤカ。今をトキメク女子大生よ。
昨日の夜、チョット夜更かしをして寝落ち……気付いたら真っ白な広い空間に立っていて、目の前には胡散臭いイケメンが大きなベルを鳴らしていた。
「夢かな?」
「夢じゃ無いよ? 夢のような体験は出来るけどね!」
「まさか……寝てる間に拉致監禁!?」
「拉致っては来たけど監禁はしないよ?」
いやあああ! 自白したよ、この犯人!
「ウチに帰してよ~!」
「ええええ! 折角当選したのに帰るの? 勿体無い」
「はあああ? 何その当選って?」
「だ~か~ら~異世界の旅行だって!」
「意味分かんない」
私は出口を探して辺りを見回した。何も無い……。マジで何処なの~!!!
「説明しま~す。私は神です」
はい、もうこの時点で本能がコイツを拒否してます。
「サヤカちんは今『ヤンデル獣人王子の危険な甘噛み』って言う乙女ゲームやってるよね?」
「……何で知ってるの?」
「神だもん」
いやいやいや、神が居たとしても「だもん」は言わないでしょう?
「あのゲームは私が趣味で作ってバラまいたんだけど、まさかのベストセラー! もうガッポリ儲かっちゃって。だからプレイヤーの皆さんに還元しようと思ったんだ」
神ゲーってよく聞くけど、それの類い?
「で、色々考えた結果、限定一名にゲームの世界を10日間生体験させちゃうぞって事になりました~。ドンドンパフパフ!」
「えっ? マジ?」
「当選者は君だ!」
『ヤンデル獣人王子の危険な甘噛み』は、昨日寝落ちするまでやっていたイケメン獣人と恋をする乙女ゲーム。攻略対象は皆何故か病んでいて主人公の愛の力で正気に戻すって言うゲームなの。ひとつ選択を間違えただけで即デッドエンド。
だけど、好感度を上げると甘々のベストエンドが待っているのよ。
俺様だけど繊細、狼のクウガ王子。
麗しの貴公子、虎のコクト王子。
女嫌いで硬派、獅子のジュオ王子。
ドSなシスコン、狐のレンカ王子。
「マジだとしても、即デッドエンドな世界になんか行きたく無いわよ!」
「大丈夫だよ~殺されそうになったら直ぐに助けに行くから」
殺されるの前提に有るんだ。
「モフモフイケメンと恋、したくな~い?」
うっ……したい。だって私、ケモ耳キャラが大好きなんだもの! 尻尾に包まってモフモフしたい! 野性的な身体に抱きしめられたい。
「本当に危なく無いのね?」
「勿論! 神を信じなさ~い」
多少の胡散臭さは否めないけど……断る選択肢は無いわ。攻略キャラも大方把握してるし、デッドエンドは回避出来る筈。
「異世界、行くわ」
「よし決まり! 早速獣人に変身しちゃおう! 何が良い?」
このゲームの主人公は獣人の女の子。選択肢が三つ有って好きな獣人を選べるの。スチルも各三種類。全部集めるとコンプリート特典スチルが解放されるのよ。スチル見たさに頑張って夜更かししたわよ。
さて、猫に兎に犬……何にしようかな~。
「当選者特典で猪と牛も選べるよ?」
「特典の意味分かってる?」
「可愛く仕上げたのに~」
猫耳は定番すぎるからウサ耳にしようかな? キュートな尻尾が魅力よね!
「兎で!」
「はあぁぁ……遊び心無いね~。猪の獣臭とか牛の鼻輪とか考えたのに~」
「乙女ゲームの世界に獣臭も鼻輪も要らんわ!」
「分かったよ! はい、変身」
キラキラと光る粒子が私の身体を包み込んで、あっという間に兎の獣人に変身出来た。ちょっとこれ可愛くない? 逆ハーいけるんじゃない?
「サヤカちんは誰推し?」
「出来れば全員と会いたいな」
「成る程……残念! 今の時期、全員集まるイベント無いんだよね~」
製作者だろう作っとけよ! 猪と牛作る前にさ!
「じゃあジュオ様で」
獅子の獣人……ジュオ王子。私のイチオシ!
幼い頃、占い師から《女難の相》が出ていると言われる。後日、侍女に襲われそうになり、その現場を仲の良かった姉に目撃され「不潔よ!」と罵られ不仲に。
時は過ぎイケメンになったジュオを同世代の女性達が私こそがジュオの恋人だと騒ぎ始める。結果、誠意の無いプレイボーイと囁かれ、女性不審になった。
そんなジュオは幼い頃から飼っているライオンのジョンだけが心の支えだったのだが、野生のライオンと間違えられ殺されたジョンを嘆き闇落ちするのだ。
そこで主人公の登場! 死にそうなジョンに回復薬を使い助け、主人公の優しさに触れたジュオが心を開いていく。
「ジュオか~丁度、ジョンイベントが始まりそうだぞ?」
「獅子に擁かれてくるわ」
「おっと、割り切ったらイケイケの娘だったね……」
神は指で大きな円を描くと虹色の空洞を出現させた。その空洞に促され手を繋ぎ足を踏み入れた途端、景色が変わった。どうやら森の中らしい。
「此処を真っ直ぐ行くとジュオが居るよ」
「帰る時はどうするの?」
「10日経てば勝手にサヤカちんの部屋に戻るよ? 時間も止めてあるから行方不明って事にはならないから安心して」
「万が一殺されかけたらチャント助けてよ!」
「任せなさい! 万が一がチョコチョコ有るかもしれないからね? 気を付けておくよ」
ん? チョコチョコ?
「此処はゲームの題材にした場所ってだけでゲームの世界じゃ無いから!」
何故・今・言う?
「これ回復薬、楽しんでおいで~! バイバ~イ」
神は私に回復薬を渡すと満面の笑みで帰って行った。不安は残ったものの生ジュオ見たさに恐る恐る前に進む。すると奥から獣の呻き声が聞こえてきた。
怪我で苦しむジョンを前に項垂れるジュオが、私に気付き振り返る。
ジョンイベント突入!
「誰だ?」
「心配いらないわ、私が助ける!」
回復薬の蓋を開けジョンの傷にふり掛ける。徐々に傷が塞がっていった。
「おい! 何をする! 余計な事はするな!」
私の行動に怒りを露わにするジュオ。分かっているわ、私がジョンに何か良からぬ事をしたと思っているのね?
「大丈夫、この子は死んだりしないから安心して」
安心させようと微笑みながら振り返る。目と鼻の先には剣先、見上げると絶対零度なジュオが見下ろしていた。
「余計な事はするなと言っている、死にたいのか?」
「ヒイイイ!」
「忌々しい姉上のペットを始末しようとしたのに……よくも邪魔してくれたな」
「ま、ま、待って! この子貴方のペットじゃ無いの?」
「自分のペットを殺そうとする愚か者に見えるのか?」
「へっ? ジュオが殺そうとしてたの?」
「貴様に呼び捨てにされる謂れは無い! 死ね!」
「神――――!!!」
ジュオの剣が私の首をチョンするギリギリの所で神が元の場所に引き戻してくれた。
「油断したよ~まさか開始五分で殺されそうになるなんてね~」
「死ぬかと思った……」
「ね~チャント助けたでしょう? あ~危なかった」
危なかった? それが本音だな!
「もういい! 元の世界に帰して」
「駄目駄目、あっちの世界は時間が止まってるんだから誰も動かないぞ」
むしろそっちが面白そう……。
「さあさあ、次は……コクトが良いかな? 丁度お茶会してるよ」
「嫌だ、帰る~!」
「大丈夫! お茶会だから危険は無いよ?」
神に無理矢理押し込まれ再び獣人の世界に落とされた。
虎の獣人…コクト王子。
女性よりも美しい容姿で、幼い頃からモテモテ。物腰も柔らかで何時も微笑みを絶やさない麗しの王子。しかしコクトは外見だけを見て纏わりついてくる女達を煩わしく思っていた。この顔に傷でもあれば言い寄っては来ないだろうにと何時しか自分の顔を嫌悪するようになる。
そんなある日、茶会で出会った主人公が全く靡かない事に興味を持つが、無視をされ続け怒ったコクトが無理矢理キスを迫り主人公に平手打ちをされ爪で顔を引っ掻かれた。この女は僕の顔を傷付けても構わないんだと思ったコクトは、その日から主人公を口説き落とす。
ブハッ! 神め、蹴り落としたな! 口に泥と芝生が入ったじゃない! 口に異物なんてカナブン以来だわ!
「おや? どうしたんだい兎のお嬢さん。そんな所で這いつくばって」
顔を上げると奇麗な獣人の女を何人も侍らせたコクトが見下ろしていた。
笑顔で話し掛けているけど目が笑って無いわよ? 分かっているわ。顔だけしか興味を持たない女達に辟易してるんでしょう?
私は見惚れたりしないから……ツン!
「草なんか食べてないで向こうでお菓子食べない?」
ツン!
「おい!僕が話しかけているのに無視するのか?」
ツン!
「美しい僕が居るっていうのに、よそ見するな!」
いきなり顎を掴まれ前を向かされる。こ……これは……顎クイ?
もうキスなの? 心の準備が! 目を瞑って……違う! 此処では平手打ち!
バシーーン!
会場がシンと静まり返る。あらまあ! コクトが感動に打ち震えているわ。
「僕のこの美しい顔に手を挙げた奴は居ない……」
うんうん。
「父上にもぶたれた事無いのに……」
うんうん。
「貴様……この顔に傷が残ったらどうしてくれる!」
うんうん。うん? 貴様?
「おい! 護衛! こいつを叩き切れ!」
「神――――!!!」
読んでいただきありがとうございます。
後半に続く。




