消えたジン
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グサッ!
リンカは虎の心臓を一突きして息の根を止めた。今日、仕留めたのは狼三匹と虎五匹。何故か変態王子とダニ王子に見えて気付いたら仕留めていたのだ。
「ん? また来た!」
「チョットお嬢さん! 僕は狩りの対象じゃ無いよ!」
(本人か。ついでに仕留めようかな?)
「凄い量だね? やり過ぎじゃない?」
「何か用なの?」
「つれないな~この大会は親睦を深める為にあるんだよ?」
「私が聞いたのは血の気の多い獣人のガス抜きって事だったけど?」
獣人達の小競り合いは多い。何時も何処かで決闘が行われている。
特に四国の獣人同士では一触即発の場面も珍しくない。だから戦争に発展しないようにこういった催しが行われているのだ。
「ふ~ん。じゃあ僕の血の気をお嬢さんが抜いてくれないかな?」
「良いわよ? 心臓はこの辺りね」
「待って! そう言う意味じゃ無いから! それだと魂抜かれるから」
「どう言う事?」
「こう言う事」
リンカはコクトに後ろから抱きすくめられ、そのまま地面に押し倒された。
「何を……っ」
「動くな! 死んじゃうよ?」
リンカの喉元には冷たいナイフの感触。チリッと痛みが走る。
「ダーリンに会えなくなるのは嫌だろう?」
後ろ手に拘束具を装着されコクトの身体が覆い被さってくる。リンカは鋭い爪を出し拘束具を引っ掻いたり、力任せに引き千切ろうとしても無駄だった。
「大人しくしてたら直ぐに済むからさ」
「殺してやる!」
パーンと頬を打たれリンカの脳が揺れた。抵抗できなくなったリンカの服のボタンがひとつひとつコクトのナイフで切り外される。晒された肌に生温かな息が掛かった。
「止め……」
「僕はね~今まで女に無下にされた事が無いんだ。みんな僕に群がって愛を求めて来るんだ。鬱陶しいくらいにね。だから許せないんだ……僕に靡かない女が居る事がさっ!」
乱暴に髪を引っ張られ頭を持ち上げられる。耳に吐息がかかり舌が首筋を這う。リンカはゾクリと身震いし小さな声を漏らした。
「感じてるの? 此処弱いんだ?」
「私にこんな事したら……父上がアンタを殺すわよ」
「言えるの? ダーリンに知られても良いんだ?」
「腐れ外道が!」
「何とでも言いなよ……どうせ僕に蹂躙されて泣き寝入りするしか無いんだから」
執拗に舐め回され激しく吸われた胸元に赤い痣が出来る。コクトはズボンのベルトに手を掛かけた。リンカは必死に抵抗するがビクともしない。
「いや……っ」
ジンに捧げる為守ってきた純潔が他の誰かに散らされようとしている。怒りと焦りで冷静さを欠いてしまった。
(黙って奪われるくらいなら……いっそ此処で……)
リンカは舌を噛み切ろうとした。しかしそこへ……。
「その汚いモノをリンカに晒すな!」
グフッという声を残してコクトがリンカの上から忽然と消えた。見上げた先には怒りを顔に貼りつけたクウガが居た。
「もう大丈夫だ」
「変態……」
「クウガだ……そろそろ名前で呼んでくれ!」
「ありがとう……クウガ」
「ああ……」
クウガはリンカに自分の着ていた軍服を掛けて拘束具を外してくれた。鍵は木の根元で伸びているコクトが持っていた。
「この拘束具はどんな獣人にも外せない物らしい」
「そうなんだ。だから引き千切れなかったのね」
勿論リンカはその拘束具でコクトを拘束し、鍵は川に捨てた。
「そろそろ俺の誤解を解いてくれないか?」
「もうロリコンとは思ってないよ、ただの変態だった」
「変態でも無いーー!!」
「そうなの?」
クウガの目がリンカの胸元に落とされる。ボタンが切り落とされた服ははだけていて白い胸元が見えていた。
「俺はただ……リンカと……仲良くなって……ハアハア……喋ったり……遊んだり……ハアハア……触れ合ったり……キスしたり……ハアハア……」
リンカーー! っと飛び掛かて来たクウガの鳩尾にリンカの拳が食い込む。グフッと崩れ落ちたクウガを更に蹴り上げる。
「やっぱり変態だった」
その時、風が吹きザザッーーと木の葉の擦れる音がした。
(リンカ……)
ジンの声が聞こえた気がした。何故か胸騒ぎがする。リンカは駆け足でジンの匂いを辿った。鬱蒼とする森を抜け開けた場所に滝が流れていた。
(血の匂い……!?)
急いで滝壺へと駆け下りるリンカ、だが暫くするとその匂いも薄れてやがて消えてしまった。
(匂いが消えている! 流された!)
川沿いを海に向かって走る。だがいくら探してもジンの姿も身に着けた軍服も微かな匂いさえも消えてなくなってしまっていた。
(まさか……死……。ううん、そんな筈は無い!)
(何処に居るのダーリン……!)
(私のジン……)
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