不穏な狩猟大会②
よろしくお願いいたします。
無事開会式も終わりいよいよ狩猟が始まる。各国の脳筋たちが雄叫びを上げ森の奥へと走り出す。
「マーク兄ちゃん、張り切っているね?」
「ああ、大物の獲物を仕留める為気合を入れてきた(獲物は姫、お前だがな! 睡眠薬に拘束具、抜かりは無い!)」
マークはこの日を待っていた。単独行動必須の狩猟大会、姫がジンと離れる唯一の時間。この日の為着々と準備をしてきたのだ。
《独りになった姫を人知れず攫っちまおう計画》
エルフの森の近くに建てた監禁部屋付きの愛の巣。認識阻害の魔法をエルフを脅して掛けてある為誰にも見付けられない。
そして、どんな獣人も昏倒すると言われている睡眠薬に、どんな獣人も外す事の出来ない拘束具を準備していた。
「大物狩ると何か貰えるのか?」
「大きなトロフィーが授与されるらしいぞ?」
「心底要らないな! マーク兄さんに押し付けよう」
(俺だって要らねーよ! 欲しいのは姫だけ)
マークは担いでいたリュックを下ろし中から袋を取り出しリンカに差し出した。
「姫、弁当だ。久し振りに俺の料理食いたいだろう? (睡眠薬入り愛情弁当だ!)」
「自分で愛妻弁当作ってきたから要らない。はいダーリン」
「ブタの餌は食えない。マーク兄さんの貰う」
マークの自称完璧な計画が最初で頓挫した!
□□□
モンチことシノブがレンカから逃げ出したはいいが此処が無人島だった事を失念していた。どうやって獣人の大陸に戻ろうか? と頭を抱えている。
「他国に亡命を求める? 否、この世界では四種族以外は下に見られている。私がどうなろうと知った事では無いと一蹴されるだろう。
だったらペットを続けて機会を待つ。無理だ……私の精神が崩壊するか新しい世界の扉が開いてしまう」
(フン!逃げられねーよ! 一生アイツのペットさ)
(諦めないで! 諦めたらそこで人間終了だよ?)
(とっくに終了してんだよ! アイツの人としての尊厳の壊し方……どんな拷問よりもえげつねぇ!)
「何だろう? 心の中で勝手に会話が始まっているぞ?」
既にそうとう病んでいたらしいシノブがブツブツと呟いていた。
(僕に良い考えが有るんだけど……聞きたい?)
「ひとり増えた。これはアレかな? 人格が分裂した瞬間に遭遇したのかな?」
(ナニナニ? 聞かせて?)
(くだらない考えだとブッ飛ばすぞ!)
「どうやってブッ飛ばすんだろうか?」
(ジンを殺した後、多分アイツは妹の泣き顔を見て悦に浸る……すると当然隙が出来る。そこを後ろからグサリさ)
(中々やるじゃねーか)
(うんうん、良い考えだね!)
(話が纏まったところで早速行動に移そう)
(((オーー!!)))
「オーー! って私が行動するんだね?」
□□□
「ペッ! 矢張りブタの餌だ、捨ててしまおう」
大会の規則で単独行動していたジンがリンカの作った弁当を広げて一口食べた後、吐き出した。
「うわっ……マークの弁当キャラ弁かよ? 顔に似合わず器用だな! ん? ペッ! 睡眠薬か? 薬に耐性のある俺でも飲み込んだらアウトだったな。そこまでしてトロフィーが欲しいのかよ?」
ジンは急いで水で口をすすぎ吐き出した。すると前方からガサガサと枯草を踏みしめる音が聞こえて身構える。
「誰だ?」
「お久しぶりです、ジン」
(コイツは確か……リンカの兄が飼っているペットの……)
「モンタ」
「モンチだ! って違う! シノブだ! 倉庫で会ったでしょう?」
暫く考えを巡らせていたジンが、ボヤ~っと浮かび上がって来た人物に辿り着いた。
「ああ……あの忍者のコスプレ男。イーリンの仲間が何故此処に?」
「巻き込まれ事故ですよ」
「そうか、気の毒に……」
異世界転移に対しての「気の毒に」ではなく、レンカのペットにされてしまっての「気の毒に」だった。
「そんな事よりシノブ、ひとつお前に訊きたい事がある」
「何でしょう?」
「忍者の格好して恥ずかしくなかったのか?」
「殺す!」
シノブの投げたナイフがジンの顔を掠める。右頬に一本の赤い線が走りタラリと血が流れた。
(マズい……痺れ薬か。そう言えば、油断していたとはいえマンションでもコイツに眠らされたんだったな)
霞む目でジンはすかさず反撃に出る。太い毒針をシノブに向かって放つと同時に後方へ下がり、今度はナイフを投げる。だが痺れた手ではコントロールが上手くいかずかわされた。
(一旦逃げるか……)
踵を返し走り去ろうとした瞬間、ジンの目の前に大きなライオンが現れた。初めて近くで見たライオンに驚愕するジンにライオンが圧し掛かってきて首元に牙を立てた。
「くっそ……なんて力だ……」
必死にライオンを押しのけ立ち上がるが何故かジンの身体がグラッと傾いた。
(フラフラする、何かおかしい…)
実は今になってマークの睡眠薬が効いてきたのだ。ジンは己の足をナイフで切りつけ睡魔を払い必死に目を開け辺りを窺う。
シノブが何故かライオンを見て興奮していた。多分、生まれて初めてライオンを見たのだろう。キャッキャと喜ぶシノブの姿にライオンも引き気味だ。
(今の内に……)
ジンは身を隠そうと歩き出した。
「あっ……」
しかし意識が朦朧としていたジンは気が付かなかった。そこが崖の上で近くから滝の音が聞こえていた事に。
ヌルついて滑りやすくなった岩に足を滑らせたジンはそのまま滝壺へと落ちていった。
ジンは逆さまに落ちながら思った。
(このままだと確実に死ぬ)
失われる意識の中でリンカの顔がぼんやりと浮かび上がる。
(早く殺しておけば良かった)
心を占める後悔と焦燥感。
(リンカ……もう一度……君の荒ぶる姿が見たかった……)
「リンカ………」
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