不穏な狩猟大会①
よろしくお願いいたします。
此処は獣人界のとある無人島。
今日は獣人以外の動物が生息しているこの島で四国合同狩猟大会が行われる。
四国の王族と国代表の猛者達が集まっているのだ。
その中のひとりに黒狼一家のガロの姿があった。人狼王国の一員として大会に参加している。暗闇に紛れて暗躍する一家の息子が真っ昼間に開催される大会に参加するのは、ひとえに兄のロウを人狐王国から奪還する為に他ならない。
(狩りは単身で行わなければいけない……その隙を突き兄さんを救出するのだ! そろそろ皆集まる時間だ。フフフ……居た、暴力姫)
「ガロ君、おはよう! 来ていたんだ」
「ああ……王子に誘われた」
「ウゲッ! 変態来てるの? 帰ろうかな」
「ところで……兄さんは何処に……?」
「ロウ君? 留守番よ? 血を見ると気分悪くなるんだって」
「……」
「盲点だったーーーー!!!」
無人島にガロの悲痛な叫び声がこだました。
同じ頃、シノブを連れたレンカがリンカ達の後方で待機していた。シノブは首輪を付けられレンカの足元に正座させられている。
それは数日前の事だった。
「君ってもしかして異世界の人? リンカが連れて来たアレと同じだよね?」
「おっしゃる通りで御座います、ご主人様。私は以前アレの命を奪うべく放たれた隠密に御座います(あの~出来れば首輪外してください。服も着たいです)」
「へぇ命を狙っていたんだ~丁度いいね」
「丁度いいとは?(嫌な予感が津波のように押し寄せてきます。笑顔が怖い)」
「チョット行って殺してきてくれない?」
「(お遣い頼むノリで言わないで貰えますかね?)しかしアレは妹君の婚約者様では?」
レンカがイーリン達を消し炭にした人狐の兄だとシノブが知ったのは狩られて直ぐの事だった。王宮に連行され通された部屋にリンカ達がいたからだ。
しかし誰もシノブとは気付かなかった。元々目以外は黒装束で隠れていたし面識もない。まあ、一番の理由はマッパに首輪に猿ぐつわのシノブを見た瞬間、全員がそっと目を逸らしたからだ。
「だからだよ、モンチ! 妹の泣き顔が見たいのさ」
「(あ~歪んでいますね……知ってた)アレとは五分五分ですが、妹様が近くに居ては手も足も出ません(後、服を着なきゃ人前に出れません)」
「大丈夫。持って来いの催しがあるんだ」
それがこの催しだった。シノブは必死に懇願して服を着る事が出来た。何故か猫耳ならぬ猿耳も装着させられているが。
「モンチ、頼んだよ?」
「御意(逃げるチャンス到来です)」
もうお分かりだと思うがモンチとはレンカがシノブに付けたペット名である。
□□□
四国合同狩猟大会。年に数回行われる異種族同士の親睦を深める催しのひとつ。クウガはこの大会でリンカと親睦を深めようと思っていた。
(俺のモノにならないのなら殺してしまおうと思っていた時期もあったが、美しく可憐に成長したリンカをこの目で見てしまった後では愚かな考えだったと反省した。殺すなんて勿体無い! ずっと愛でていたい)
彼は一時期、変態だのロリコンだのと言うレッテルが貼られ、クウガを見たら幼児が逃げ出していくと言う風評被害を受けていた。
だから大人なリンカと仲の良さそうな姿をここで見せればロリコン疑惑も払拭出来ると踏んでいた。
「よう、リンカ。今日はお前に一番の大物を捧げてやるぜ」
「要らない! 近寄るな変態! 殺すわよ」
クウガの姑息な計画は秒で粉砕された。
「おや~? 可愛い狐のお嬢さんが居るね? 初めましてかな?」
そこに狩猟大会にはそぐわないチャラい恰好をした人虎族の男が声を掛けてきた。それを見たクウガが眉間に皺を寄せ舌打ちした。
(チッ! 人虎族の第二王子コクト……ナルシストの軟派野郎め!
俺の嫁(仮)に近寄るんじゃない! 良かったガン無視してる、流石俺の嫁(仮))
「無視するなんて不敬にあたるよ? 僕を誰だと思っているんだい?」
「知らない……ちょっと触らないで! 殺すわよ」
(『殺すわよ』仲間が居た~! 嬉しくは無いがな)
「人虎族の第二王子コクトだよ! 知らないなんて何処の田舎者だよ」
「人虎のダニ王子?」
(よし! 『ダニ王子』頂きました……定着させよう!)
『ロリコン変態王子』が定着させられていたクウガは心で暗躍する。
「第二王子! 僕に対しての無礼な態度……その身体に教えてあげようか?」
「止めておけ、教えられるのは貴様の方だぞ」
クウガが止めに入ると同時に腹に響く重低音な声が辺りに響いた。
「我が娘に何用だ? 人虎のダニ王子」
その声の主はレンカの父親で人狐族の国王ギンカ。若き頃、獣人界最強と言われた男だ。
『好戦的で娘を溺愛している』と言う噂が獣人界に広まっていた。娘に手を出せばどうなるか……ロリコン変態王子のレッテルを貼られたクウガは身をもって知っている。
今後コクトはダニ王子と言うレッテルを貼られる事だろう。もう彼方此方からダニダニ聞こえてきている。おそらく彼も風評被害に遭うだろう。
「人狐の王? 娘? 成る程、行方不明だった王女様だったんですね? この僕が手を出してない美女なんて皆無ですから」
(ゲス発言お疲れ! 手を出されていない女獣人が睨んでいるぞ)
次々と自滅の道を歩んでいくコクトにクウガはご機嫌だ。
「どうでしょう? 御父上。僕と姫の婚姻を結んで確固たる絆を深めませんか?」
「それは娘が決める事、我は娘の意志を尊重している」
(嘘を吐け! 秘密裏にジンを排除しようとしていると聞いたぞ?)
「私が欲しいのならダーリンを倒してから来なさい?」
「俺を巻き込むな!」
「ダーリン? この脆弱な猿が君の思い人なの?」
「そうよ? 強く気高く美しい彼は護衛として何時も私を守ってくれているわ」
ジンの腕にしがみ付きながら『べーー!』と舌を出すリンカ。コクトのこめかみに血管が浮き出ている。
「ほう……面白い。ならばこの僕がその猿を倒し君を奪おう」
ビシッと人差し指をジンに向け突き出し宣言するコクト。それを聞いたリンカが手袋を外しコクトの顔面に投げつけた。
「ダーリンに挑むと言うなら先ずは私を倒してからよ!」
「……本末転倒だな」
ジンの呟きは開会式のサイレンによって掻き消えた。
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