異世界は危険がいっぱい
短めです。
よろしくお願いいたします。
「此処は異世界? 私はファンタジーの世界に来たのか!?」
彼の名前はシノブ……忍者の末裔だ。と言うキャラを作っているただのオタクだ。シノブと言う名も勿論偽名。
幼少の頃よりファンタジーの世界に憧れていた彼は方向性を間違って暗殺組織ウルフの隠密になったが、本当は勇者になって冒険がしたかったのだ。それが現実となった今、歓喜に震えている。
「勇者の剣は存在するのだろうか?」
何故彼が此処に居るのかと言うと、ただ単に巻き込まれただけだった。
『リンちゃん逃げて!』
『えっ? 何?』
『マズい! 転移魔法だ!』
『ファンタジーかよ?』
『……』←これがシノブだ。
倉庫でリンカに襲われた時、イーリンを盾にして命拾いしたのだ。その後こっそり後を付けてカウンター裏に隠れ気付いた時は……彼にとっての夢の世界に到着していた。
視界いっぱいの草原、鬱蒼とした森、魚が透けて見える川、遠くに見える城。
「右を見ればケモ耳、左を見れば尻尾! 萌える……萌えーー!」
シノブは叫んでいた。自称忍者だと言うのに忍んでいない。半端ない程の浮かれっぷりだった。
「さあ! 冒険の始まりだ! 魔王って何処に居るんだろう? 先ずはギルドで冒険者登録かな?」
「へぇ~珍しい……人猿族の亜種かな?」
シノブの行く手を白い影が塞ぐ。白い影は人狐だった。
(立ち塞がる獣人……人狐か? 中ボスクラスだな。勝てない相手ではないが今の私には武器が無い。此処は逃げた方が無難だ! 自慢だが逃げるのは得意だ)
明らかに只者ではない雰囲気を感じた丸腰のシノブは逃げる選択をする。
「逃がさないよ?」
「グッ……」
放たれた細い鞭がシノブの首に食い込む。藻掻けば藻掻くほど締め付けられ意識が途絶えそうになっていた。
(馬鹿な……この私が逃げきれないなんて!)
「通算千匹目の猿のペット君、君はどんな声で哭くのかな?」
ラスボスだった……と薄れゆく意識の中でそう思うシノブだった。
シノブを捕獲した人狐の名前はレンカ、何を隠そうリンカの兄で人狐族の王子だ。
「レンカ、貴方の妹リンカよ」
レンカが3歳の時リンカが生まれた。
(くしゃくしゃで猿みたいだ……狐なのに。もっと可愛いかと思っていたのにガッカリだ)
生まれたばかりのリンカを見た彼は心の中でそう呟いた。レンカは可愛い物大好きの幼児だったのだ。その後も何かと纏わりつくリンカをやんわりと避けつつ可愛い物見付けに精を出した。
そんなある日、追い掛けてきたリンカを振り切ろうと払った手が思いがけずリンカの頬を叩いてしまった。
「うわーーん! お兄ちゃまがリンカをぶったーー!」
知らぬ間に猿から狐に進化していたリンカ(その時のレンカの心の声)の大きな目が大量の涙を流している。小さな口が嗚咽を漏らし、時より眉間に皺をよせレンカを睨んでいた。
その顔をみた瞬間、ゾクゾクとした泡立つ感覚が彼の身体を駆け抜けた。
(なんて可愛い生き物なんだ! もっとその泣き顔を見せておくれ)
歪んだブラコン愛と言う名の性癖が爆誕した瞬間だった。
その後もリンカのおやつを横取りしたり、リンカの縫いぐるみの首をもいだり、崖から突き落としたりして泣き顔を堪能したレンカだった。
(ああ……リンカ愛しているよ。もっと声を荒げてごらん、もっと顔を歪めてごらん、もっと、もっと、もっと哭いて見せてごらん)
しかし、彼の至福の時は人狼族のアホ王子の所為で終焉を迎える。
「リンカを異世界に避難させる」
「父上、僕も一緒に……」
「これは、お前の性癖を治す措置でもある」
レンカの性癖は父にはバレていたようだ。
その後の十数年リンカロスを回避する為、色々な獣人を狩ってはペットとして飼っていた。
しかし、彼の心にポッカリ空いた穴は埋まる事は無かった。
そして現在、レンカの目の前には異世界から帰って来たリンカが居る。
「兄さん、ただいま」
「お帰りリンカ。ずっと待っていたよ」
「紹介するわ、私のダーリンのジンよ」
「初めまして、ジンです」
美しく成長したリンカは幸せそうに微笑む。
(そう……それが今のリンカの大切なモノなんだね?)
(それが壊された時、リンカ……君はどんな顔で哭くのかな?)
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