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プロローグ①

以前、一人称で書いていたものを書きなおした小説です。


よろしくお願いいたします。

 

「リンカ愛しているわ……必ず迎えに来るから此処で待っているのよ」


 女はそう言い残すと娘のリンカを置いて去って行った。


 町外れにある小さな養護施設。院長はリンカの手を取り冷たい目で見下ろしていた。

 中に入ると彼女と同じ年頃の子供が十人程と職員とみられる大人が数人居た。獲物を見つけた獣の如くその目はギラリと怪しく光る。



 彼女はその日から地獄を見る事となる。



 戦闘ごっこと言う名の暴力。教育的指導と言う名の虐待。殴られ、蹴られ、踏みつけられ、虐げられる毎日。


「母さん……いつ迎えに来てくれるの?」


 彼女の悲痛な叫びは誰にも届く事は無く月日は流れていく。そして理解する。


 母は最初から迎えになど来ないのだと……。

 私は捨てられたのだと……。



 学校へ通うようになっても彼女は虐められた。

 養護施設の子供達とはまた違う、言葉の暴力だった。


「ブスのくせに生意気なんだよ!」

「陰気な空気がうっとうしい!」

「地味がうつるわ!近寄らないで!」


 彼女は成長するにつれ《地味》《陰気》《ブス》と言われ貶された。

 手入れされてないボサボサの髪、荒れた肌、一重瞼の細い目とへの字に曲がったぶ厚い唇。身体はガリガリに痩せていた。


 そして何時しか罵倒の言葉すら掛けられなくなり彼女は狐独な学生生活を送る事になる。




 数年後、彼女は養護施設を出た。結局母親は迎えに来なかった。

 彼女は働いた。昼は小さな工場で流れ作業、夜はビルの警備員。出来るだけ人と関わらず生きてきた。


 そんな彼女に工場で働く男が声を掛けてきた。


「ねえ、一緒にご飯食べに行かない?」


 自分に掛けられた言葉とは思わず男の横を通り過ぎると腕を掴まれた。一瞬自分の身に何が起こったのか分からず怪訝な目を向けてしまったリンカ。


「つれないな~リンカちゃんだっけ? 俺、君を誘っているんだけど」


 彼女は耳を疑った。それはそうだろう……今まで彼女に浴びせられた言葉はどれも彼女を貶める言葉ばかり……信じられるはずが無い。それでも男は「行くよ」と彼女の肩を抱きスタスタと歩き出す。


「この唐揚げスンゲー旨いよ、リンカも食べな」


 無理矢理連れてこられたファミレスで、向かい合わせに座らされ箸に刺さった唐揚げが彼女の口へと突っ込まれる。その熱さにハフハフと咀嚼し水を急いで流し込む。


「アハハ! リンカ可愛い!」


 その一言にリンカは固まった。


(私が可愛い? そんな筈は無い。私は信じない)


 だがその後もこの男からの誘いは途絶えることが無く続いた。愚かな彼女はいつの間にか男を信じてしまった。


 リンカは男の言動の意味に気付くべきだった。食事代が全て彼女持ちだった事を……笑顔でお金の無心をして来た事を……その笑顔は目が全く笑っていなかった事を……。


「放せよブス! 一文無しのお前には用はねえよ!」


 男は彼女を蹴り倒し奇麗な女の肩を抱き去って行く。


(信じた私が馬鹿だった。また私は捨てられてしまった……)


 その後彼女は工場を辞め繁華街の飲食店で働きだした。早朝はビルの掃除、夜は変わらず警備員の仕事をした。


 そして繰り返す。


「リンカちゃんて言うの? ホストクラブ初めてなんだ~? 俺たちの出会いに乾杯したいから、お酒入れちゃっていい?」


 店の客を食い物にするホストに入れ揚げるリンカ。


「その顔で愛されてるとか思うなよ! 金が無いなら店に来るな!」


 突き飛ばされた勢いで看板の角で額を切った。膝も擦り切れていた。


(ああ、まただ……私はまた捨てられてしまった)


 彼女は立ち上がる気力も無いまま人通りの少ない裏路地の点滅するネオンの灯りを呆然と眺めていた。そしてふと視線を感じる。


 女性と見紛う程の美しい男が彼女を見ていた。


 彼の香りだろうか甘く爽やかな香りが漂う。脳まで溶かされそうなその香りに誘われるように、彼女は思わず声を出していた。


 助けて……。


「大丈夫ですか?」


 声まで美しい男は彼女に手を差し立ち上がらせる。そして近くの公園のベンチに座らせると彼女の話を黙って聞いてくれた。


「さっきの男に有り金全部取られたんですね?」

「アパートを追い出されたんですか? 困りましたね」

「俺も天涯狐独なんです、一緒ですね」


 男の声がリンカの心に優しく響く。


「仕方ないですね……」


 男は彼女を自分の住むマンションへと連れて行った。お金にしか興味を示さなかった数々の男達。でも男は一文無しの彼女を受け入れようとしている。リンカの頬を涙が落ちる……そっと彼がハンカチで拭ってくれた。


 その瞬間、リンカは恋に落ちた。彼女にとっての初恋だった。




 その日からリンカと彼……ジンの同棲生活は始まった。彼女は母に置き去りにされてから初めて幸せを感じていた。


 だが暫くすると気付いてしまう。


(何時からだろう? ジンの帰りが遅くなったのは)

(何時からだろう? ジンの態度が冷たくなったのは)


 忍び寄る不安から逃げ出すようにリンカは外へと飛び出していた。


 そして見てしまう。


 美しい女性の肩を抱きホテルに入っていくジンの姿を。


(また捨てられる?)

(いいえ! ジンは裏切らない!)

(男は皆一緒よ)

(いいえ! ジンは違うわ!)


 ふたつの心が彼女の中でせめぎ合う。


 その後もジンを尾行する日々が続いた。そこには数日おきに違う女を侍らせるジンが居た。女達は皆、美しかった。


 そんな中、彼女は驚愕する。


 女装をしたジンが厳つい男とホテルに入って行く所を見てしまったからだ。


(あんな男にも負けるなんて!)

(私の初恋は終わった……此処を出て行こう)


 荷物を纏め玄関のドアを開けると驚いた顔のジンが立っていた。彼女は美しい顔も見納めとばかり別れの言葉を紡ぐ。


 さようなら……女装した貴方も美しかったわ……。


「何故……? 待て! 行かせない!」


 強引に腕を引かれドアが閉まる。彼の両手がリンカの首に掛かる。


(えっ? 行かせないってどうゆう事? ああ……もしかして私は勘違いをしていたの? さよならと言った後の彼の悲壮な表情、行かせないと言う言葉、引き戻された私)


(やっぱり私は愛されていたんだ!)


(でも待って。何故首を絞められているの? このままじゃ私酸欠になるわよ? 殺してでも引き留めたいと言う事なの? ああ……大変! 貴方を人殺しにしてしまう。でも声が出ない……意識が……遠のく……ああ……)




 そして彼女は暗い土の中で意識を取り戻した。ブルーシートを引き裂き固められた土を掻き分け地上に這い出る。


(何処よ此処?)


 キョロキョロと辺りを見回すリンカの目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。


(ジンはきっと私が死んだと思って嘆き悲しんでいる。早くジンの下へ!)


(はっ! 駄目よ! それは出来ない。殺してしまったと思っている私がジンの下へと戻ったら、きっと心優しいジンは良心の呵責に苛まれ私の前から去ってしまうかもしれない)


 そして彼女はとんでもない決断をしてしまう。別人として会いに行けば良いのでは? と。


(よし! 整形してそっと近付き心を許した後私だと打ち明けよう。待っていてジン! 貴方が愛したリンカは生きているわ!)



読んでいただきありがとうございます。


5万文字程の中編です。


ブクマ、評価、よろしくお願いいたします。



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