フィラデルフィアの夜に ぬいぐるみ
フィラデルフィアの夜に、針金が護ります。
多くのプレゼントがまだ開けられず積み重なり、壁に装飾、ツリーが光る誰もが寝静まったクリスマス前の夜。
誰にも気づかれる事なく、窓が割られました。
一切の音もなく、破片が雪と部屋の中に散らばり、男が入り込みます。
夜に輝く、刃物を携えて。
ゆっくりと足音。
気づかれる事なく歩む。
気配。何かいる。
目の前。
ただ、突き当りにぬいぐるみが転がっているだけ。
男は再度歩き出す。
気配。
気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配気配
ばっと男は振り向く。
そこにはぬいぐるみ。男のすぐ後ろに鎮座している。
見渡す。何もいない。このぬいぐるみ以外、何も。
音もない。
ただ街灯の明かりが反射した。
ぬいぐるみが細い光を照射した。
絡みつく光。
男の腕に刃物に。
光輝く細い何かが、男に絡みつく。
針金。
それがぬいぐるみから伸びて、男を締め付ける。
伸びる針金、さらに男を縛り上げようと侵食する。
もがく男。暴れる腕。振り回す刃物。
針金の侵食は止まらない。
声をこらえ、残ったもう一方の腕で殴りつける。
感触、それは針の山。
柔らかに見えた、ぬいぐるみ。その体毛。
固い短い、針となって突き刺さる。
ぎゃあ、と声を挙げようにも。
針金が口にまで伸ばし、声を押し留める。
縛り上げられ拘束されていく。目の前のぬいぐるみに。
渾身の力を、全身の体重を、右手の刃物に込めて、振り下ろす。
ぬいぐるみは、真っ二つに切られた。
針金の力が弱まる。
拘束が緩んでいく。
男は逃れようとする。
でも辺り一面、ぬいぐるみが。
壁も床も天井も。かわいらしいぬいぐるみが男を睨みつけている。
伸びる針金。
四方八方から、光り輝く。
気を失う寸前。
男は最初のぬいぐるみが、傷を針金で縫い付け、何事もなかったかのように鎮座しているのを見ました。
悪鬼を睨みつける、守護神の如く。
朝、クリスマスツリーの電飾が絡まった男が家の中で転がっていました。
男は意味の分からない事ばかり口走り、酒に酔って入り込んだようでした。
ぬいぐるみたちは自分たちの定位置で、かわいらしく鎮座している。
それだけでした。