晴明の両親との対面
久遠に連れ出され宝蔵院の研究所に晴海はいた。
「指名手配の教団の幹部が三人も捕まったんだよ」
「よかったわね久太郎、でもあの妖怪たちをどうやって私たち抜きで捕まえたの」
「匿名の通報があって駆けつけたら、この近所の小屋に気を失い縛られた崔と百目と羽田の三人がいたんだよ」
「メダルは押収できたの」
「それが持っていなかったんだ」
「その通報者が持ち去ったてことなの」
「その人物は新たな脅威なのか、味方なのかが問題ですね。興味深いですけれど」
「三人から話は聞けたの」
「ひどい怪我をしていて入院しているけどキツネの親子とかなんとかうわごとのようにしゃべっていたらしい」
「狐?化かされたってこと」
「狐か」
「御堂さん何か心当たりがあるの」
「昔な、十五年前ほど前だが女性の陰陽師がキツネの獣人を使役して妖怪をお祓いしてメダル狩りしていたな」
「その人はどうしているの」
「ある日突然、引退したようだ。それ以降は噂を聞かないな」
「まあ、回復を待ってからだな真実がわかるのは、あとの手配者を探すことが優先だな」
「遅くなった。宝蔵院君報告を聞こうか」
少し遅れて舎利弗がやってきた。
「教団も探している。空間のゆがみ、異世界ゲートなんですが探知機がこの前からくり兵が逃走した日に最大値の探知をしたんです。大きすぎて場所を特定できなかったのですが」
「まさか、残りの逃走犯たちが異世界へ渡ってしまったということではないだろうな」
「それはないと思いますが、やつらはまだ異世界へ渡る場所も鍵も知りえていないからです」
「進展はないということか。しかしあの三人をとらえた人物も探し出す必要があるな」
会議は終わり晴海はヤーシャとトレーニングをして寺に帰っていった。
「さあ、今日こそこの本を持って晴明君の所へ行っちゃおう」
紙袋に十冊ほどの本を詰め込み温泉旅館へ向かって行った。
「正面から入るのだめよね。裏口とかはどこなのかしら」
宿の前でうろうろと様子をうかがっている晴海に
「あら、晴ちゃんにご用事」
と声をかけられた。きれいでスタイルのいい人だなと晴海は思った。
「はい、同級生の水無瀬です。約束していた本を持ってきたんです」
「やっぱりそうね。晴海ちゃんだったかな。こっちへいらしゃい」
裏口に案内された。やば!お母さんだ。と思うと緊張してしまった。
「お母さんですよね。初めまして水無瀬晴海です」
「まあこちらこそ、上がって頂戴」
「お邪魔します」
「晴ちゃーん、彼女がお見えよ」
彼女だなんて、晴海はちょっと恥ずかしくなった。
「あっ水無瀬さん、母さん彼女だなんて水無瀬さんに悪いよ」
「私は別に構わないわ。これ約束の本」
紙袋を手渡した。
「上がってお茶でも飲んでいきなさいよ」
食堂に案内されてお茶を出された。テーブルに着く二人のそばにタマモは座って眺めていた。
「母さん、向こうへ行ってよ。水無瀬さんもしゃべりにくいじゃない」
「はい、はい、ごゆっくり」
そう言って母屋の方へ去っていった。
「ごめんね水無瀬さん、母さん好奇心旺盛なところがあるから」
「いいのよ。きれいなお母さんね。それより本を見てみて」
晴明は紙袋から本を取り出して鳥山石燕の画集『百器徒然袋』という本をパラパラと読みだした。
「へえ、鳴釜っていうんだ」
ぽつりと小声でつぶやいた。
「見たことあるの晴明君!」
今日は連れてきていないが晴海のお付きの妖怪だ。
「あんまり記憶はないんだけど、気のせいかもしれないけど見たような気がしたんだ」
能力が覚醒する前に晴海についてきた様子を覚えていたのかもしれない。
「晴明君、本当にそんなお化けがいたら驚く?怖い?」
晴海は晴明がどう思っているのかを聞きたくなった。
「別に驚かないけどそういう類のものの存在は否定しないよ」
昔から山ほどその類と戦ってきていたのだった。
「鳴釜君はいい妖怪なのよ」
「水無瀬さんだって見てきたようなことを言うんだね」
しまった。変な能力があると晴明に嫌われてしまうかと思ってしまった。
「ううん。本に書いてあったかなと思ったの」
誰かが食堂に入ってきたと思ったら父の晴人であった。
「悪い悪い、お客さんだったか、邪魔したな」
「父さん、母さんに言われて見に来たんでしょ。もうやめてよ」
晴海は立ち上がり、ぺこりと頭を下げて
「水無瀬晴海です。お邪魔してます。白鳥先生とお親しいんですよね」
「道真か、学生時代からの親友だ。よくそちらの寺に行っているみたいだな」
「はい、仲良くさせてもらってます」
「それはよかった。ゆっくりしていってよ」
と言って去っていった。
「晴明君にやっぱり似てるのね」
「あんなに太らないよ。ほんと困った両親でごめんね」
「いいのよ。楽しそうね。私はお父さんもお母さんもいないから」
「え、そうなの」
晴明は悪いことをしてしまったと思ったが
「五年前に行方不明になったの、晴明君が気にすることはないわよ」
「早く見つかるといいね。父さん占いが得意なんで今度占ってもらおうか」
「占いだなて晴明君も変なこというのね」
くすりと笑う笑顔を見て晴明はどきりとした。
そしてしばらく一緒に本を見ながら過ごした。
「じゃあ水無瀬さん、さよなら」
「水無瀬さんじゃなく晴海って呼んでよ。晴明!」
そう言って帰っていった。
「晴明、あの子のステータス見たか」
後ろから晴人がやってきていた。
「そんなプライバシーを侵害するようなことしちゃだめだよ父さん」
「やばいぞ、相当」
「どういうことなの父さん」
「戦闘力が半端じゃなかったぞ。しかもジョブが妖怪始末人だぞ」
「ええ!本当なの」
「いいじゃないか、お前にぴったりの恋人だよ」
笑いながら家に入っていった。
呆然と去っていく晴海の姿を見つめた。




