大晦日
「舎利弗本部長、すみません。ロストしました」
御堂から百目を見失ったと連絡があった。
「仕方ない、突然のことでこちらも万全の体制が取れなかったからな」
「でも、久太郎が無事でよかった。心配なんてしていないからね」
久太郎が帰らなかったとき必死に探しに行こうとしたくせにそのそぶりを隠すように強がった。
「心配かけてごめんね晴海様、いや油断しましたよ。まさか教団関係者だったなんて、もしかしたら毛羽毛現も市井に紛れて、堂々と活動しているんでしょうかね」
「百目は天鼓君を知っていたみたいだけど」
「彼の頭脳は世界中から注目を集まっている。政府や企業から引っ張りだこだよ。おまけに誘拐など物騒なことにもよく巻き込まれている。だから彼がここにいることは秘密にせにゃならんのだよ」
「教団幹部に知られてしまいましたが、すいません不注意でした」
頭を深々と下げる久遠であった。
「宝蔵院君にも連絡しておこう」
「でも不思議ね。そんなに優秀な天鼓君が私たちのところへ来るなんて」
「彼は小学校時代の友人のためにも日本へ帰ってきたんだよ」
「八雲っていう子ね。よく知らないけど今度お話ししてみるわ。あなたは世界を救ったのよって」
「オーバーだな晴海様は、しかし宝蔵院君ならその気になれば世界征服もできるかもしれないな。僕も興味があるなその子に」
「今年の師走は忙しかったな。明日は大みそかだ。今年最後の事件も解決したし今日はここらで解散しよう」
「そうだ久太郎、年越しはうちのお寺においでよ。どうせ一人で寂しくカップ麺でもすするんでしょ」
「いいのかい、どうせテレビでも見ておっしゃる通りカップの蕎麦で過ごして、新年は実家に帰るだけだから」
「よかった」
晴海は何か企んでいるかのようににやりと笑った。
大晦日の夜、久遠は晴山と呑むための日本酒を手土産に満腹寺にやってきた。
「こんばんは、お邪魔します」
勝手知ったる我が家のような万福寺の食堂へ向かった。
「久太郎、こんばんは、今日はカニ鍋よ」
「こんばんは、僕も手伝うよ」
「いいのよ野菜を切るだけだから」
「若夫婦のようじゃなふほっほっほ」
「いやだわ、おじいちゃん、私の旦那様は白鳥先生みたいな人なのよ」
「先生は定宿の温泉旅館にいらっしゃいますよご夫婦で、毎年の恒例で親友の旅館の主人と呑んで年越しされてますよ」
「奥さんがいるんじゃお邪魔よね。私が会いに行くとでも思った」
「いえ、参考までにと」
「くだらんこと言ってないで鍋が煮えたぞ」
「おじいさんどうぞ」
手土産の日本酒を傾けた。
「しかし今年は色んなことがあって大変じゃったな。まさか晴海が警察のお手伝いをするなんて永晴えいせいや百花ももかさんが知ったら驚くじゃろな」
「晴海様がいなければ解決できない事件ばっかりでしたよ。晴海様もこの一年、ご苦労さんでした」
盃を持ち上げ労をねぎらった。
ワイワイと鍋をつつきこの一年の思い出を語り合った。
「さて、そろそろね、久太郎、頼んだわよ」
「えっなんなんだい?」
「ふっほっほっほ、豪華なカニ鍋を食べさせたのはこのためじゃ」
「そうよ、除夜の鐘お願いね。108回しっかりついてきてね。おじいちゃんも歳で大変なのよ」
「えーそんなー、日輪と月光に頼んでよ」
「あら、その手もあったね。でもカニの分はついてきてね」
寒空、久遠は追い出されるかのように鐘の所に向かわされた。
ゴーン
除夜の鐘が響き渡る。
「いいもんじゃのこうしてコタツに入りながら鐘を聞くのも」
晴山はミカンを食べながらしみじみつぶやいた。
「でも今日は寒いからかわいそうね」
と言うと錫杖を取り出すと日輪と月光を召還した。
「今年一年ご苦労でやんした」
錫杖の取扱説明書、バットリも現れた。
「日輪と月光も今年一年よく働いたから合体させてやるでやんす」
「そうよね。そんなことができるって言ってたわよね。どうするの?」
「文殊菩薩の真言を二体に唱えるでやんす」
晴海は二体に手のひらを向け
「オン ア・ラ・ハ・シャ ノウ!」
パシリと手を閉じた。二体が重なったと思うと一本の角をはやした少年のような鬼が現れた。
「やっと呼び出してくれたな。おいらは月輪」
「あら喋れるの、驚いた。月輪君っていうのね。よろしくね。さっそく出なんだけど鐘ついてきてくれる」
「あゝいいよ。その代わりその鍋の雑炊食べてからだよ」
残っていた雑炊を食べ始めた。晴海は目を見開き驚いていた。ツキノワは食べながら、
「日輪と月光に分かれている時は食事がいらないけど元の姿に戻るとお腹がすくんだよね」
「普段は力と技の精霊になるでやんす。合体した月輪は普通の鬼でやんす」
「あの二人は力と技なの、闘い方変えなくちゃ」
「ごちそうさま、美味しかったよ。行ってくるよ」
久遠と交代に鐘の所へ向かって行った。
「元気な坊主じゃの」
「よくわからないけどあの子はまた妖怪なのかい>」
久遠が戻ると月輪のことを聞いたので晴海は答えてあげた。
「へーあの日輪と月光が合体するとあの子になるのか。でも強そうじゃないね」
「なにをいってるでやんす。力と技を備えた最強の剣士になるでやんす」
「頼もしいわね。それに明るくていい子じゃない。たまにはご飯のとき呼んであげましょう」
除夜の鐘を突き終わり、月輪がもどってくると
「さあ、みんなで年越しそば食べましょ」
新たな珍客と共に年が明けていった。




