◆◆◆◆◆ 結
「県警の久遠と言います。この本の借主は誰かわかりますか」
メモを見せて大学の図書館の受付の女性に聞き込みをする久遠、この時はまだ自分が捕らえられるとは思いもよらないことだった。
「百目教授、ありがとうございました。鈴木みどりさんのことがわかりましたら、またご連絡するかもわかりませんが今日はこの辺で失礼たします」
「いつでもご協力させていただきますわ。久遠刑事」
手帳を閉じて立ち去る準備をした久遠だが百目ことが気になって
「ところで教授は何をご研究されているんですか」
「分子工学でナノテクノロジーについてですわ」
「難しそうな分野ですね。具体的にどんなことに役立つんですか」
「ご興味がおありなんですか」
「いえ、知り合いの宝蔵院君がメダルを研究しながらナノテクノロジーとかなんとか言っていたこと聞きかじりしただけで難しいことはわかりません」
「宝蔵院博士をご存じなんですか。どこにいらっしゃるんです」
「いや、それはちょっとお話しできないんです」
宝蔵院の情報は秘匿された事案であった。彼と契約するにあたって厳重に注意されていたことだった。
「あら、お話ししていただきたいですわ。お聞きしたいことがたくさんありまして。お茶でも入れますね」
百目は立ち上がり給湯室へ向かって行った。
「困ったな。どうごまかそうかな」
「お紅茶でよろしかったかしら」
久遠の目にカップを置いた。
「じゃあ遠慮なく」
一口飲むと久遠は意識が遠のいてしまった。百目は久遠の携帯を奪い取ってしまった。
「久太郎、大丈夫、聴こえる」
猿ぐつわを取り揺さぶった。目を覚ました久遠は
「百目教授に気を付けてください!」
「わかってるよ久遠くん」
隣に縛られていた女性にも声をかけた。
「助けていただきありがとうございます」
「あなた、お名前は」
「鈴木みどりです」
「やっぱり、本当の鈴木さんね。舎利弗のおじさま、教授の部屋に戻りましょう」
「うむ、久遠くん、彼女を頼む」
部屋はもぬけの殻であった。
「御堂くん、今どこにいる」
「仰せの通り大学の入り口を見張っています」
「出ていこうとする女を止めるんだ」
「了解」
「晴海さん、驚いたよ。あの被害者の女性が百目教授だったとはな」
「ええ、私もびっくりしました。だって、あの夜見た女性が目の前にいたんですもの」
「本部長、鈴木さんは医務室に連れて行きました。斎藤さんを守ってといっていました」
久遠が鈴木からの伝言を伝えた。
「とりあえずは百目の確保だ。行くぞ校内を探すんだ」
「まって、おじさま。メダルホルダーなら気配で探れるわ」
晴海は目を閉じて集中した。
「わかったわ。この建物の上の方にいる。屋上かしら」
「よし、久遠いくぞ」
階段を駆け上っていく三人、屋上に出ると百目がそこにいた。
「百目教授、大人しく我々についてきてもらおう」
「ばれては仕方ない。私は逃げさせてもらうわ」
銀のメダルを取り出し胸に取り込むと細い腕には無数の目が現れ魔性の姿へと変化した。
「百々目鬼だったのね」
「逃走している教団幹部だったのか」
「水無瀬晴海!妖怪お祓いしちゃうわよ!」
地面から塗壁がせりあがり錫杖を晴海は取り出した。
三回地面を叩き、遊環を揺り鳴らした。
髪はもり盛り上げられリボン、フリルのあるゴスロリの法衣へ厚底の編み込みブーツ姿へとキラキラと晴海が輝きだす。錫杖は小さな黒い日傘へ、遊環の四つが離れ手足に巻き付き、晴海を変えた。
「日輪、月光、いくわよ」
二体の鬼も召喚して百々目鬼に向かって行く。
「あなたが噂に聞く水無瀬ね」
百々目鬼はそう言うと腕にある無数の目を見開いた。
まばゆい光で晴海は目がくらんだ。気が付くとは影も形もなかった。
「逃げられた」
晴海は悔しそうに言った。
「仕方がない。正体がわかっただけでも今日は収穫があった。医務室の鈴木さんに詳しい話を聴取しよう」
屋上から医務室に三人は向かった。
「健司くんは」
「まだ確保できていないんだが、詳しく経緯を話してもらえるかな」
久遠がメモを取りながら質問をする。
「百目教授の研究室に、世間を騒がしている教団の指名手配になっている男がやってきていたんです」
「どの男かな」
久遠は教団の幹部の写真を見せた。
「この人です。怖くなってどうしようかと思ったんですけどとりあえずスマホで写真を撮ったんです」
猫田を指さしそう答えた。
教団幹部で指名手配されているものは四名、教祖の南風野天風、火車の根角滋襟、鉄鼠の猫田吐夢、一つ目入道の崔九朗だ。あと二名コードネーム、毛羽毛現と百々目鬼と呼ばれる女性幹部は名前と姿を確認できず、指名手配から外れていたが百々目鬼は判明した。百目冴子はこれから指名手配になるだろう。
「健司君に相談すると、教授を脅迫して単位をもらおうといいだしたんです」
「まったく馬鹿な真似をしたもんだな。それで」
「スマホを健司君に預けたんです。そのあと教授に呼び出されて道具置き場に監禁されたんです」
舎利弗の携帯が鳴り何やら報告を受けたようだ。
「安心しなさい、鈴木さん、斎藤健司君は教授を殺してしまったと出頭してきた。君を殺されたと思い犯行に及んだそうだ」
「健司さん…」
「詳しくは署で話をしよう」
久遠は鈴木を連れていった。
「舎利弗のおじさま、百目はどこに逃げたのでしょう」
「御堂と貴具が後をつけているだろう。私たちも署に戻ろう」
学生たちの愚かな行動が幹部の判明となった。




