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◆◆◆◇◇ 転

「カバンは量販店で販売されているもので、購入者の特定は無理ですがナイフが突き刺さていた本はS大学の図書館の本でした。白鳥道真作の恋愛小説です」

「あら、先生の本が命を救ったのね。さすが先生」

 白鳥の話になると晴海の目は乙女になっていた。

「こじつけ過ぎだよ。でナイフは」

「ナイフも量販店で売っている果物ナイフで指紋は検出できなかったのですがナイフの切っ先に血液が付着しておりDNAが検出されました。背中に少し届いていたんでしょう」

「宝蔵院君ありがとう。この分厚い本を突き抜けるなんて強い殺意を感じるね。S大学へ行って調べてくるよ。それで防犯カメラの解析はどうだった」

「鍵を開けてスマートフォンを取り出してまた閉じて鍵をかけただけですね。スマホを操作しながら満腹寺の方へ進みだしています。別角度のカメラにそれの後をつける男の人が映っていました」

 プリントアウトされた写真を置いた。ニット帽に白いダウンジャケットを着た男であった。

「あれは彼女のスマホじゃなかったんだ。男の顔が見えないわね。若そうだし同じ大学の人間かしら。そういえばその大学の寮が進行方向にあったわ」

「とりあえず大学に行ってみます」

「ちょっと待ってください。久遠さん、DNAに妖怪メダルを使った形跡がありましたよ」

「え、大学生たちにまで流布されていたのか。わかったよ宝蔵院君気を付けて捜査するよ。晴海様はここで待っていて一人で行くから」

「久太郎、一人で大丈夫」

「特訓で力をつけてますよ。それに聞き込みだけだから。何かつかんだらすぐに戻ってきます」

 と出かけていった久遠だが、その日戻ってこなかった。


「勝手にそんな事件を捜査しおって、宝蔵院君、GPSで行方は分からんのか」

 舎利弗に報告しに来た晴海も驚くほどの剣幕だった。

「スマホは切られているようですがS大学の敷地内に捕らえられているようです。僕との通信眼鏡の情報です」

「舎利弗のおじさま、私が行ってきます」

「待ちなさい。私も一緒に行こう。それと御堂と貴具を呼んでおく」

 二人に電話をして、車で大学まで行った。


 車中では「メダルが絡む事件だそうだな」

「ええ、背中を刺された女の人はメダルを使用した痕跡がありました」

「うむ、教団は壊滅へと追い込んだがメダルがそんなに流通してるとは」

「メダル使用時の快楽は中毒症状を引き起こすそうです。天鼓君がそう言っていました」「一種の麻薬だな。そんな目論みも教団にはあったかもしれん」

「メダルを使った支配を視野に入れてたのかしら。酷い人たちね」

「大学生たちが面白半分で手を出したのか、いずれにせよその女を確保せんことには解明できないな。さあ着いたぞ、まずは図書館をあたろう」


 図書館で被害者の持っていた本の借主を聞いてみた。

「昨日も刑事さんが来て聞かれていきましたよ。えーとメモがこの辺に」

 図書館の職員が机の上を探し始めた。

「久太郎は何をつかんだのかしら」

「同じ道のりを進めば久遠の居場所もわかるだろう」

「あっありました。工学部の四回生の鈴木みどりさんですね」

「ありがとう学生課はどこにありますか」

 舎利弗と晴海は学生課で鈴木みどりについて話を聞いた。

「昨日も調べに来た刑事さんにも伝えましたけどまたですか」

「いや何度も同じ話を聞くのも捜査ということでもう一度話くれませんか」

「鈴木さんは百目(どうめ)冴子(さえこ)教授のゼミでして、教授に話を聞いてくださいとお願いしたんですがね」

「百目教授は今、在校していますか」

「えーと、ええ研究室にいらっしゃると思いますよ」

「あのう、そのゼミの生徒で寮住いの学生はいますか」

 晴海は事務職員に聞いた。

「ちょっと待ってください」

 パソコンで調べ始めた。

「いますね。斎藤健司という学生が」

 事務職員に聞いた研究室の扉をノックした。

「はい、どうぞ」

 百目教授は二人を部屋に招き入れた。

「あら、また刑事さん」

 警察手帳を見せる舎利弗に向かって痩せて眼鏡をかけた。白い腕が長く見える教授が言った。

「すみませんね。何度も同じ話を聞くというのが捜査でして昨日来た刑事と同じ話を聞かせてもらえませんか」

「鈴木さんのことですね。昨日から出席していませんね。就職も決まったので旅行にでも行っているんじゃないですか」

「あのう、斎藤健司さんは」晴海の問いかけに一瞬教授の顔色が変わった気がした。

「そうね、彼もしばらくゼミに顔を出していないわね」

 晴海は舎利弗に耳打ちをした。

「お忙しいところ申し訳ありませんでした。ご協力ありがとうございました」

 二人は部屋を出た。

「晴海さん、その話は本当かね」

「ええ見間違えるはずはないわ。でも久太郎の救助が先ですよね。この建物のどこかの部屋にいるはずですわ」

「宝蔵院君ガイドをしてくれ」

「今の現在地からまっすぐ廊下を進んで用具入れから信号があります」

 宝蔵院は大学の地図を手に入れガイドをしているようだ。

「この部屋か」

 鍵がかかっていたが、舎利弗が体当たりするとドアが壊れた。

「おじさますごい力ね」

「火事場の馬鹿力というか気合を入れるとこんなことができるんだ」

 猿ぐつわをされロープで縛られた久遠ともう一人女性がそこにいた。

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