◆◆◆◆◆◆◆ 結
「えぇえー!晴海ちゃんが変身!」
驚く久遠にかまいもせずに、蜘蛛女にけりを入れる晴海だが
「あれ?そんなに強くなってないじゃん」
そんなに都合よく簡単に強くなれるわけはないのであった。
「これってただのコスプレ?」
「とりあえず防御力と基礎体力は上がっているでやんす」
手に持った日傘がしゃべりだした。
「なにあなた?」
「とりあえず取説ってやつでやんす。鳥じゃなくて蝙蝠でやんすけど」
「で、どうやって戦えっていうの」
「お嬢ちゃんの場合は呪術で戦うのがベストでやんす。リボンが呪符になってるでやんす」
リボンを一枚引きはがす晴海
「で、どうするの?」
「軍荼利明王の真言唱えて投げるだけでやんす」
「オンキリキリバザラウンバッタ、えい!」
呪符は蜘蛛女目がけ飛んでいき破裂した。
「なるほど、手榴弾みたいなものね」
何度も爆裂呪符を投げた。
「とどめはどうやってするの?」
「お嬢ちゃんのいつもの呪符でメダルに戻すでやんす。腰のポシェットに各種呪符が入っているでやんす」
「でもなかなか弱らないよ」
「ごちゃごちゃと小うるさい娘だよ」
蜘蛛女は糸を吐き出したが、晴海は敏捷によけていく。
「仕方ないでやんす。戦闘鬼を召還するでやんす」
「なに、戦闘機?どこに飛ばすの」
「鬼でやんす。教えてもらってるでやんすでしょ」
「あゝ、先生の!」
日傘の手元を口に寄せ
「オンキリキリバザラウンバッタ、チュッ」
キスをすると二つの遊環が外れ宙に舞い大きくなるとその中から二体の鬼が召喚された。
「赤鬼が日輪と青鬼が月光でやんす。命令してやるでやんす」
「ん-とりあえずあの蜘蛛女を押さえつけて」
無言で二体は蜘蛛女に向かっていった。左右に分かれ押さえつけた。
「OK」
蜘蛛女の口に向かって爆裂呪符を投げつけ、ひるんだ瞬間に額に封印呪符を張った。
「オンキリキリバザラウンバッタ!お祓いいたし候」
決めことばと共にメダルがころりと落ち、樺木が人間に戻り倒れた。警察官が詰め寄り捕獲した。
「樺木小町、20時05分確保!窃盗及び誘拐で逮捕する」
久遠は腕時計を見て手錠をかけた。
日傘を閉じた晴海は元の姿へと戻った。二体の鬼も消えていった。
手に錫杖を持った晴海の周りを蝙蝠が飛んでいた。
「あら、あなたアクセサリーじゃなかったのね。お嬢ちゃんじゃなく晴海って呼んでよね」
「晴海、僕はバットリ、よろしくでやんす」
錫杖の遊環にさかさまに止まった。
「晴海ちゃんやったね。今連絡があって矢板さん目を覚ましたようだ。しばらくお店を休むことになるが回復に向かっている」
「よかったわ。ちょっと馬場!馬鹿男」
「なんですか」
「あんた矢板さんが元気になるまで店を手伝いなさい。もう一度性根を入れて修行するのよ。わかった」
晴海の気迫に押され
「はいがんばります」
と答えてしまった。
「久太郎、帰るわ。送って」
「いや、取り調べがこれから」
「つべこべ言わない、あんたは運転手」
仕方なく久遠はほかの刑事に任せて満腹寺まで晴海を送った。
「しかし晴海ちゃん、あれはいったい何だったんだい」
返事がないと後ろを見ると眠っていた。
「やっぱりつかれたんだろうな。こうしてみるとただのかわいい女の子なんだけどな」
そして満腹寺にたどり着いた。
「さ、晴海ちゃん家に着いたよ」
目をこすりながら目覚めたが寝ぼけているようだった。
「久太郎、ありがとう。お茶でも飲んでいきなさいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて、先生にもお礼を」
「ただいま、お祓い完了したよ」
「おかえり、怪我はしなかったか」
「おじいちゃん心配しなくてもいいよ。完璧」
「よくやったな。晴海ちゃん、で錫杖の使い心地はどうだった」
「もうサイコー、ストレスも吹っ飛ぶよ。でも白鳥先生どうして樺木小町が蜘蛛に憑かれていることを見抜いたの?」
「まずは名前だな。カバキコマチグモって毒蜘蛛がいるんだ。名につられて悪霊が憑依する場合もある。それと洗濯板という店名、これも名は体を表してるんじゃないかと思ったんだ」
「洗濯板ってなあに?」
晴山が納戸に行って戻ってきた。
「これじゃよ晴海、昔はこれで洗濯物をしたもんじゃ」
木の板にギザギザの溝が彫られているおろし金のようなものを見せた。
「これがどう体をあらわしてるの?」
久遠がそれを持って胸に当てた。
「晴海ちゃんならすぐわかると思ったのに胸がこうということだよ」
「久太郎それを貸して」
洗濯板を取り上げるとそれで思い切り久遠の尻を叩いた。
「ご、ごめんなさい」
尻を押さえて悶絶している。
「二度とそんなこと言った秒で殺ス!」
それは恐ろしい目で睨んだ。
「晴海様、二度と言いません。おゆるしを」
「先生それで、樺木があのそのぺちゃぱいだからどうして?」
「きっと大きな胸の女の人に嫉妬して腹いせに下着を盗んだんだろう。まあ実家がクリーニング屋だから洗濯板と名付けたのかもしれないが」
「あの二人姉弟だったのね」
「姉に逆らえなくてどんぶり勘定な予算管理を許してしまったんだろう会長も」
「どんぶり勘定って?」
「あゝ、それなら僕も知ってます。細かく会計をしないで、おおざっぱに金の出し入れをすることだよ。市場の人の腹掛け知ってるだろ。そのポケットをどんぶりっていうんだよ。そこから無造作に金を出し入れして使ったことからいうんだよ」
「ふん、久太郎、偉そうに解説しないでよ調べればすぐわかるわよ」
まだまだ怒りは収まりそうになかった。
「ところで今回の事件の解決に謝礼は出るのかのう」
晴山が久遠に聞いた。
「いや、感謝状くらいしか用意できません。すいません」
土下座をする久遠
「いいわよ、久太郎、結構楽しいし事件を解決していくとお父さんとお母さんに会える気がするの、仲良くやっていきましょう」
晴海は握手を求めた。その手をつかみ
「ありがとうございます。晴海様、久遠久太郎お供させていただきます」
晴海と久太郎の最初の事件簿は終わった。
次はどんな事件が待ち受けているのであろう。