晦日の事件 起
クリスマスパティ―から三日後の晦日前
「ギャー」
闇夜に悲鳴が轟いた。
大晦日を控え晴海は黒豆を炊いていた。
「おじいちゃん、見てきて、またうちの妖怪見た人が叫んでいるわ」
「やれやれ、晴海、ちゃんとしつけておきなさい。夜は勝手にウロウロ出歩かないと」
祖父の晴山は慌てた様子はない。妖怪寺と呼ばれた満腹寺では日常茶飯事のようだった。特に師走皆が忙しく出かけている時期の恒例行事のようだった。
晴山が慌てて戻ってきた。
「晴海、救急車と警察に電話じゃ」
「どうしたのおじいちゃん、うちの子たちが何かしでかしたの」
「いや、女の人がナイフで刺されておるんじゃ」
「大変、死んじゃってるの」
「いや背中のバッグに刺さって気を失ってるいるだけじゃった」
「よかった」安堵の晴海だが一体何が起こっているのか不安がよぎっていた。
サイレンの音とともに救急車とパトカーがすぐさまやってきた。
襲われた女性は救急車で運ばれていったが警察官による事情聴取が始まった。
「もう、おせちの準備もしないといけないのに」
警察手帳を出すのも手だが厄介なことになり、舎利弗に迷惑がかかるかもしれないと思うと素直に聴取を受けることにした。
「それで発見したのは晴山さんですね」
「孫が悲鳴を聞いたというので外に飛び出したんじゃ」
「誰かほかに人はいなかったですか」
「倒れている女の人に駆け寄った時は周りには誰もおらんだよ」
「そうですか。このお寺の門前には防犯カメラとかはないんですか」
「町内会で設置しようと話は出たんじゃが助成金待ちだったんじゃ」
「もう、おじいちゃん関係ないことは言わないの。ごめんなさいね」
「いえ、貴重なご意見です。聴取はこれくらいです。被害者から何か聞ければまたお邪魔することがあると思いますのでその際はよろしくお願いします」
警察官たちは寺を出ていき現場の見聞に向かった。
「やっと終わったわ。被害者の女の人も心配だけど我が家のおせちも大変よ」
「こんばんは」
久遠がやってきた。
「表の警察官に聞いたんですけど女の人が襲われたそうですね」
「あれ、久太郎も臨場したの」
「いえ、舎利弗本部長に頼まれて数の子をお届けに来たんです」
「まあ、うれしい。さっそく塩抜きしなくっちゃ、間に合わないわ」
「何か手伝いましょうか」
「よかった。この豆のアクをすくておいて、私もちょっと捜査をしてくるから」
ジャケットを羽織り寺の外へ出ていった。警察官たちはすでに姿を消していた。
「鳴釜くん、いる?」
毛むくじゃらで頭に釜を被った子供が座っていた。
座り込み目線を合わせ「やっぱりここに座っていたのね。女の人が襲われるところ見てたわよね」
鳴釜は頷いて、晴海の耳元でごにょごにょとしゃべり始めた。
「なるほど、スマホを見ながら駅の方から来た女の人に後ろから走ってきた男の人がナイフを刺して落としたスマホを持ってこの先に逃げていったのね」
男が走っていったほうを見つめていた。鳴釜が晴海のジャケットの裾を引っ張る。
「これはなに」
コインロッカーのカギを渡してきた。
「その男が落としていったのね。よく見つけたわねありがとう」
寺に戻ると久遠に
「この事件、水無瀬晴海が解決するわよ」
「どうしたんだい晴海様、灰汁はきれいに取れたけど」
「事件の糸口をつかんだわ。この事件、特務捜査課零係が解決するわよ」
久遠に知りえた情報を話し始め、ロッカーのカギを渡した。




