特訓のメリークリスマス
真っ赤なサンタクロースの衣装を着た舎利弗がやってきた。
「今日が特訓最終日だったな。成果を見せてくれ」
「はい、舎利弗本部長、見てください」
久遠は真っ先に手を挙げた。
シューティングレンジに案内した。次々に現れる的を久遠はことごとく命中させた。
「すごいじゃないか。もともと射撃の腕前は定評があったがオリンピックに出れそうだな」
「先生がよかったんです。ありがとうヤーシャさん」
「礼を言われる筋合いはないぞ。自分自身が努力した結果だ。スナイパーとしての力も見せてやればどうだ」
ライフルに持ち替えた久遠はメタバースモードに変化したシューティングレンジに立った。三宮の街が再現されていた。久遠はビルの上にいる設定だ。
ゴーグルをつけて舎利弗は見学することになった。
久遠は800メートル離れた的を狙っていた。
「あんな遠くの的を当てることができるのかい」
舎利弗は不安そうに久遠の手つきを見つめている。
五カ所の妖怪の標的を一発も外さず打ち抜いた。
「これはたまげた。こんな才能があるなんて見直したぞ」
頭を掻いて恐縮する久遠だった。
「次は私」
晴海は青龍の弓をかまえ同じく標的に命中させた。
「久太郎にできて私にできないとかっこが付かないわ」
久遠を睨みつけて胸を張っていた。
「二人ともいいじゃないか。予想以上だよ」
「舎利弗本部長、僕の発明品も見てください。久遠さん用意をしてください」
「あれをまた着るんですか。ちょっと勘弁させてもらいたいんだけど」
「久太郎、グズグズ言わない。おじさまに見てもらうのよ」
宝蔵院は妙な鎧のようなものを運び込んだ。
「久遠さん行きますよ」
「やってください」
久遠は目をつぶって答えた。
宝蔵院は久遠にベルトをつけるとリモコンを押した。
鎧がパーツに分かれて久遠目がけて飛んでいった。
久遠は埴輪の挂甲武人のような姿になった。
「水無瀬さん、ヤーシャさん攻撃してみてください」
二人は久遠に向かって攻撃を仕掛けた。
やられるがままに転び飛んでいく久遠、
「おいおい、久遠くんは大丈夫なのかい」
宝蔵院がリモコンを操作すると鎧は元の姿へ戻った。
「だいじょうぶですよ。本部長、少しは衝撃を感じますけど」
けっろとした様子で答えるが攻撃を受けるのは怖かったらしい。
「今のは防御モードでご覧の通り大抵の物理攻撃にはびくともしません。もう一つバーサーカーモードというのもありまして、自動で敵を攻撃するんですが装着者の体力を著しく消費するので久遠さんのことを考えると使うに堪えないんです」
「宝蔵院くんそれでいい、封印しておいて専守防衛に使うようにしておいてくれ」
「わかりました。これもあの書物から得た知識で開発したんですが、使う人のことを考えない設計だったんです」
「それを天鼓君が手を加えて改造したのよ」
「この奠胡という人は憎しみしかなかったようで手記を読むと悲しくなってきました。こんなすごいことを考えられるのに読んで涙が止まりませんでした。読み続けると僕もこんな人になりそうで怖くなりました」
宝蔵院はつらそうな顔で説明した。
「朱に交われば赤くなる。宝蔵院君はこんないい仲間に囲まれている限り鬼の奠胡みたいにはならないよ。安心しなよ」
久遠は宝蔵院の肩を叩いて励ました。
「そうよ、天鼓君は奠胡には絶対ならないよ」
「さっ、クリスマスパティ―でぱっと明るくやなろうじゃないか」
「いいね。舎利弗の旦那、腕によりをかけて料理を作るよ」
「僕も手伝いますよ」
「貴具よたまにはこういのもいいな」
「世を捨てた我々には無縁な世界だと思ってました師匠」
「天よ、今宵くらいは楽しくやろう。読書は禁止だ」
食卓には豪華な料理が並んだ。
「メリークリスマス!チーム舎利弗がんばるわよ。乾杯!」
晴海が宴会の開始を告げた。




