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教団の災禍

 日本を震撼するウィルスが蔓延しだした。感染症法上の「2類相当」とされ、国民の生活が大きく変わっていった。教団所有の豪華客船ベルゼビュート号の乗客から最初に検出されたことにより最初ベルゼビュートウィルスと命名された。高熱と肺炎を引き起こし、重傷者は死へ至る恐ろしい感染症を起こした。インフルエンザとは異なりワクチンもいまだ開発されていなかった。

 各国の政府は国際社会から日本を隔離した。しかしそのウィルスは着々と世界へと広がっていった。

「おじいちゃん、ちゃんとうがいした。手もしっかり洗うのよ」

 マスクをした晴海は晴山(せいざん)に注意をしていた。

「やれやれ大変な世の中になったものだな。これから先どうなんじゃろうな」

「天鼓君がワクチンと治療薬の開発しているからだいじょうぶよ」

 学校どころか捜査も中断していた。貴具が引き起こした倉庫襲撃も今はそれどころではないとうやむやのままとなっていた。

 晴海はタブレットを取り出し宝蔵院とチャットを始めた。防護服を着た宝蔵院が映し出されていた。

「久太郎の容態はどうなの、苦しんでいない」

 久遠が新型ウィルスに感染してしまったのだ。病院ではなく宝蔵院の研究所で闘病していた。何かの役に立てばと自ら志願したのだった。

「なんとか熱も下がって小康を保ってます。抗体ができてきたのかもしれません。データを取らせてもらってます」

「このウィルス、教団が作ったものに間違いないのね」

「ウィルスのDNAが奴らの作ったクローンモンスターと同じなんです。おそらく手違いでバイオハザードを起こしたんじゃないかと思います」

「めちゃくちゃなやつらね。これで本格的に捜査のメスが入れることができるのかしら」

「舎利弗本部長が動いているみたいです。その前にワクチンを早く作らないと」

「くれぐれも体に気をつけて頑張ってね」

 今度は舎利弗とチャットつないだ。

「やあ、晴海さん、晴山さんともども元気でやっているかな」

「はい、おじいちゃんは大丈夫です。私も元気ですよ」

 十代の若者や子供たちに感染者出ていなかった。

「ついに上が動いたよ。ただし自衛隊の特殊部隊との連携で動くことになった。災害派遣要請が発動された」

「もしかして軽足さんがいた部署ですか」

「そうだ、自衛隊情報保全隊呪術班と連携だ」

「なんだかいやだわ。また貴具さんみたいな人が来たら」

 舎利弗とのチャットに軽足が割って入ってきた。

「呪術班が来るのか、おそらく俺の知っている男だろう。陰陽師の家系の御堂(みどう)だろう。滅魔専属の剣士だ。物静かなやつだ。貴具ののように擦れてはいないから安心しな」

「舎利弗部長、二、三週間で第一弾のワクチンの試作が出来上がります」

「天鼓君、君のやることなら間違いはないだろう。年末には作戦を開始する。頼んだぞ」

「まったくどういうことなのよ。猫田、根角!まだワクチンもできてなかったあのウィルスを外に出すなんて」

 南風野(はえの)天風(あまかぜ)鉄鼠(てっそ)火車(かしゃ)の姿の二人を怒っていた。

「すみません、教祖様、客船内の研究所員が感染してしまって」

 猫田は言い訳をしていた。

「メダル使いには感染しませんから教祖様もなるべくメダルを装着してください」

「そんな必要はないわ。蠅の王の恩恵に守られているわよ。一刻も早くワクチン製造をするのよ。そのワクチンを使って政府と交渉するから、民自党のやつらがざわついてぼろを出さないうちに」


 舎利弗たちとの会議を終えた晴海はアールグレイを飲んでいたが、宝蔵院からのプライベート通信が入った。

「どうしたの天鼓君、なにか言い忘れたの」

「いや、みんなに聞かれてはと思って、実は銀のメダルのことなんですが、DNAが検出されたんですが・・・」

 口ごもっていた。

「なに、聞かせてよ。もったいぶらないで」

「じつは水無瀬さんと同じ型のDNAが含まれていたんです。おそらくはお母さんのものだと思います」

「私のお母さんが、なんで・・」

「通常のメダルから銀のメダルを精製する際に血液か何かを使用したんだと」

「奴らにつかまっている時に実験体にされてたということ、やっぱり許せない」

「ウィルスに関しても水無瀬さんは抗体を保有しています。軽足さんを迎えにやりますから研究所まで来てもらえますか」

「わかったわ。何か役に立ちたかったの、喜んで」


 研究所に着いた晴海は久遠を見舞った。

「久太郎、待っててね。私が治してあげるから」

 眠っている久遠を見つめていった。

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