一つ目入道のメダル
「もう、どうしてるのあの人たちは」
晴海はいら立ちを隠しきれなかった。
「呼びかけてみますね」
通信装置をバイブした。
「天か、もう大丈夫なのか」
ヤーシャが答えた。
「どうなっているんですか。そちらの状況を教えてください」
「妖怪と交戦中だ。倉庫に閉じ込められた」
後ろでは銃撃の音が鳴り響いていた。軽足はヤーシャに近づいて
「天ちゃんか。この時計に武器はついていないのかい。銃弾が切れちまった」
「手榴弾になっています。リューズを引き抜くと三秒で閃光とともに爆発します」
「それはありがたい。貴具さんよお祓いはできるのかい」
一つ目入道の棍棒をよけながら貴具は答えた。
「ああ、お札はある。それよりあいつの動きを止めてくれ」
ヤーシャは床体操のように回転しながら妖怪に近づきナイフで切りかかった。
アキレスけんを切り裂き転倒させると喉笛を切り裂いた。
一つ目入道は傷口を押さえながら片手で棍棒を振り回した。
「目をそらしてくれよ」
と言いリューズを引きぬた時計を妖怪の目の前に放り投げた。
強烈な閃光と共に小さな爆発が起こり妖怪の胸板を黒焦げにした。
貴具が胸板に飛び乗りお祓いの呪符を貼り付けた。
「オンキリキリバザラウンバッタ!」
呪符は閃光と共に灰になった。転がり落ちる銀のメダル、変化した男は気を失っていた。
「逃げるぞ」
「天、脱出経路を教えて」
宝蔵院は前に集めた資料から建物の設計図を映し出した。
「まっすぐ進んだドアをヤーシャさんのナイフでくりぬけば外に出れます」
「行くぞ、貴具、長居は無用だ」
ヤーシャは駆けだした。
表に出ると貴具は爆破スイッチを押した。建物内部で爆発音が鳴った。
駆けだす貴具の車とすれ違うように倉庫へ向かう車があった。
車は倉庫の前に止まると二人の男が降りてきた。
根角と猫田であった。そして建物に入っていった。
「おい、崔、なんてざまだ」
猫田は傷だらけの男を抱き上げた。一つ目入道に変化していた。倉庫の責任者崔九朗であった。
「おいおい、せっかく移設したクローン施設がお釈迦じゃないか」
根角は崔を蹴り上げ起こした。
「うっ・・・遅かったぜ。吐夢とむと滋襟じえり」
「誰にやられたんだ」
「覆面を被っていたから何者かわからん、ただ手口は傭兵のようだった」
ふらふらの崔が答えた。
「傭兵だってどうしたことだ」
三人は考え込んでいた。
「貴具さん、また勝手なことをして、軽足さんも付いていながら」
久遠は貴具に噛みついた。
「あいつらには誰かわからないよう証拠も残さず襲撃したから問題ないさ」
「そんなことを言っているんじゃないですよ。法治国家ですよ日本は、めちゃくちゃですよ」
「奴らはテロ組織だ。そんな甘ちょろいことを言っていては出し抜かれるぞ」
「わしも、舎利弗の旦那のやり方じゃ生ぬるいと提言しておくよ。奴らはまともじゃない」
心ならずも久遠もそう思っていたから返答に困ってしまった。
「でも舎利弗のおじさまは相手のやっていることと同じことをするのはだめだと行ってらっしゃるのよ」
「甘いなお嬢ちゃん、俺はここらで失礼するぜ。ありがとよ軽足さんとヤーシャさん」
貴具は去っていってしまった。
「天、これを」
ヤーシャは銀メダルを宝蔵院に渡した。
「ええ、銀メダルの妖怪だったんですか。よく倒せましたね。これは大事な研究材料になります」
晴海も驚きヤーシャを見つめた。いつも通り涼しい顔のヤーシャだった。
「やっぱり舎利弗本部長の言うとおりだ。警察官として僕は行動していきます」
「よく言った。久太郎、じゃあ家まで送ってね」
満腹寺まで戻った久遠はお茶をごちそうになって晴海と話をしていた。
そこへ
「ただいまー」
晴海が戻ってきた。
「えっ?」
台所には二人の晴海。
「どうなっているんですか晴海様」
二人を見比べる久遠。
「ぬっぺふほふ君もういいわよ」
片方の晴海がどろどろと溶けていった。
「なんだ、お友達妖怪だったんですか。でも便利そうですね」
今度はぬっぺふほふは久遠に化けていった。
「晴海様、今回の件で本部長に怒られるときに代わってもらえませんか」
「だめよ。ちゃんと怒られなさい」
しょぼくれる久遠を見て晴海は笑っていた。




