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炎を喰らう犬

「懐かしいなぁ。永晴(えいせい)が僕の講義をまとめた本じゃないかい。彼は魔法の発動ができなかったけれどね。どういったことが聞きたいのかな」

「この本の通り、魔法が発動するのですがどれもたいした威力がないんです。どうすれば天鼓君やヤーシャさんのようにできるんですか」

 ミシエルは晴海をじっと見つめた。

「魔法力の蓄積容量は十分あるけど魔法力の回復スピードが極端に遅いみたいだ。一か月ぐらい待てば何とかなると思うよう。それより、その魔法力を呪符に少しでも乗せれば威力は倍増すると思うよ。用は使い方を考えればいいのさ」

 晴海は爆裂呪符を取り出して

火球(ボイデ)付与(エンチャント)!」

 今までより高速で大きな炎の塊が飛んでいった。

「なるほど、こういうことね」

「私のあげた弓矢にもエンチャントして使用すればいいよ」

「ありがとうございました師匠、何か引け目を感じてたんですけど吹っ切れました」

「そうだ来てくれてちょうどよかった。頼まれごとを聞いてくれるかな」

「ええ、なんですか」

「フーも天鼓君のところへ引越ししたみたいだから、ペット飼えるだろう。連れて行ってくれないか」

 黒猫を晴海に渡した。

「まあ、かわいい猫ちゃん。名前はなんていうのかしら」

「ミケーレだよ。とても便利な猫なんだよ」

「ふーん、わかりました。おいでミケーレ」

 ミケーレを抱き上げると竜宮を出ていった」


「でも困ったわ。どうやって天鼓君のところへ行こうかしら」

 彼の研究所は交通機関から遠く離れていた。と思案しているところへ久遠からメールが入っていることに気が付いた。

「遅いわよ、久太郎」

 久遠に電話をして神社まで来てもらうことにした。

「晴海様、学校はどうしたんだい。授業中じゃないのかい」

「それは問題ないのちゃんと手配したから」

「よくわからないけれど、その猫ちゃんを宝蔵院君の研究所まで運べばいいんだね」

「そう、フーさんの大事な猫ちゃんなの」

 久遠の車で研究所まで向かった。


「こんにちは、フーさん、ハイ」

 ミケーレはフーに飛びついた。

「ながいことほっといてごめんねミケちゃん」

 フーはミケーレを撫でまわしていた。

「ところで、誰もほかにいないようだけどどうしたの」

「天ちゃんは魔法を使ったせいで寝込んでいるの。団長とヤーシャちゃんは太った眼つきの悪い人と出ていっちゃたにゃ」

「貴具だわ。どこに行ったの」

「さあ、わからないにゃ」

「まずいな。本部長に連絡しなきゃ」

 久遠は電話を始めた。

「だいじょうぶですよ連絡はつくようにしておきましたから」

 ミシエルからもらった杖をつきながら宝蔵院がやってきた。

「天鼓君、大丈夫なの」

「ええ。だいぶ楽になりましたから。それよりヤーシャさんたちの居場所ですね」

 四人はコントロールルームに移動した。

 モニターに三人の位置がGPSによって映し出された。

「ポートアイランドか。ここは前に確認していた教団の施設ですね」

 宝蔵院は彼らの居場所を特定して近くの防犯カメラの映像を映し出した。

「ちょっと今は通信はできない様子だな。軽足さんの持っているのはマシンガンじゃないのか」

 久遠は頭痛を感じた。舎利弗からの大目玉の予感だ。

「まったく、また問題を引き起こしてるわ。あの人ダメじゃん」

「ヤーシャさんからの通信を待ちましょう」

「天鼓君、あそこにはなにがあるの」

「ハッキングシステムはすべて解除されてしまいましたので正確にはわかりませんが、特に何もなかった倉庫だったんですが」

「また、貴具さんが単独で調べた情報で辺りをつけたんだろう」

 みんなが見守る中、三人は倉庫へ侵入していった。


 三人は黒い覆面で顔を隠していた。

 貴具は入ってすぐの受付をしている男へ催眠スプレーを吹き付けた。

「な、なにもの・・・」

 倒れながらも警報のボタンを押されてしまった。警戒音が鳴る中を三人は奥へ進んでいった。

「貴具、へまをしたな」

「計画の範囲内だ。この廊下を抜けた正面の部屋だ」

 廊下を走り抜けた三人は目的の部屋のドアを開けた。

「やっぱりここにゴブリンのクローン場を移設していたか」

「これは晴海ちゃんが闘っていたモンスターじゃないか」

 部屋の奥のドアが開くと番犬が十数頭あらわれた。

「おい、これも範囲内か」

「そうだな。禍斗(かと)は想定外だ」

 禍斗(かと)は炎を喰らう獰猛な犬の妖怪である。

 軽足はAK-47自動小銃を速射するが禍斗は右へ左に巧みによけた。

 ヤーシャのマカロフが一匹の眉間を打ち抜いた。死体からメダルが転げ出てくると禍斗はドーベルマンへと戻った。

「貴具、私と父さんが援護するから早く爆弾をセットして」

「任せたぞ」

 リュックから爆弾を取り出してクローン装置に取り付けだした。

 軽足の連射をすり抜けた禍斗を一匹づつヤーシャが打ち抜いていく。

「タマ切れだ。あとはこのナイフで始末する」

 というと両手にナイフを持ったサーシャは素早く禍斗に近づき喉笛を切り裂いていった。

「爆薬のセットは終わった。脱出するぞ」

 貴具が言ったがドアにはロックがかかってしまっていた。

「禍斗が来た奥へ進むしかないな。貴具、これも想定内か」

「まっ、こういうこともあるだろう」

 通り抜けようとしたドアから大男が現れた。

「派手に暴れてくれたな。許さんぞ」

 というと銀のメダルを飲み込んだ。

 どんどんと巨大化していく謎の男は一つ目入道へと変化した。

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