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貴具とサーカス団

「さて、どうしたものかな」

 貴具(きぐ)は神戸の人工島の倉庫の前で思案していた。

「とりあえず、宝蔵院の坊やに相談してみるか」

 真っ黒なバンに乗り込み去っていった。


 魔法を発動した日から宝蔵院は三日ほど寝込んでいた。丈夫とは言えない体にかなりの負担となったのだろう。レオタード姿のヤーシャは懸命に看病していた。

「すみません、僕なんかのために。ヤーシャさん」

「なによこのくらい、いつでも何かあったら私に言うのよ」

 母親のようにやさしく語りかけた。

「ヤーシャちょっと来てくれ、宝蔵院の知り合いだというやつが来ているんだ」

 貴具とインターホン越しに話をしていたようだ。

 中に招き入れられた貴具は

「あなたたちは何者だ。宝蔵院はどうした」

 貴具は二人を観察するようにじっと眺めた。

「君の方こそ何者何んだ。名を名乗りなさい」

 軽足は不審者を見るように対応した。

「これはすまなかった。特務捜査課零係の同僚の貴具(きぐ)(すなお)というものだ。わけあって警察手帳は持っていない」

「あゝ、君がやっぱり問題児の貴具君か、軽足団十郎だ。こちらもわけあって宝蔵院君のところに居候している。こっちは娘のヤーシャだ」

 ヤーシャは先ほどと打って変わって冷たい目で貴具を睨んでいた。

「宝蔵院の坊やはどこにいるんだ」

「あの子は休んでいるわ。何の用なの」

「それはまいったなぁ。ところであんたたちただものじゃない雰囲気があるな。もしかして教団がらみの関係者じゃないか」

「さあ元サーカス団員だが腕にはちょっと覚えがあるがな」

「ちょうどよかった、人手がいるんだ。久遠じゃちょっと頼りないもんでな」

「なぜ、舎利弗のおやっさんに相談しないんだ。わけありなんだな」

「あの堅物に言うとややこしくなりそうなんで、シンプルにやりたいだけなんだ」

 軽足はしばし思案して何かを察したように答えた。

「手伝ってやろうじゃないか。体がなまってきたところだ。ヤーシャいいな」

 ヤーシャは頷いた。

「そうこなくっちゃ。作戦はこうだ」

 貴具はこれからの行動を説明した。

「わかった、暴れていいんだな」

 ヤーシャはそう言って、宝蔵院の寝室へ行った。

「ちょっと出かけてくるから、大人しく寝ているんだぞ。すぐに戻る」

 何かを感づいたのか

「ヤーシャさん、そこの引き出しの通信用のインカムを持って行ってください。それと時計もありますから団長に渡してください」

「わかったわ。心配しないで寝ていなさいね」

 三人が出かけようとしていると、フーがやってきた。

「あれ、どこかへお出かけ、ついていっていいかにゃ」

「フーさんは天鼓君の様子を見ていてくれないか」

「しかたないにゃ、いってらっしゃいにゃ」

 寂しそうに見送った。


「あの姉さんも元サーカス団員なのか」

 ハンドルを握る貴具が尋ねた。

「そんなところだ。言っといてやるが怒らせないほうがいいぞ。おまえさんはどうやら人をイライラさせる名人のようだから」

「この車にある武器は使っていいのか」

 ヤーシャは尋ねた。貴具の車の中は武器庫のようになっていた。

「ああ好きなものを使ってくれ」

 レオタードにジャケットを羽織っただけのヤーシャはマカロフPM、銃を手に取った。そばにあったレッグホルダーを装着すると、くるりとマカロフを回しホルダーに収めた。

「なかなか堂に入ってるな。怖いくらいだ。で親父さんの方はどんなエモノを選ぶんだ」

「そうだな」

 AK-47自動小銃、カラシニコフを手に取った。

 どう見ても、これから行なわれる作戦は舎利弗が許可をすることもないものだと物語っていた。


 父の本を発見してから三日間、夢中でその内容を読み解いた晴海はミシエルに相談したくなった。久遠にメールをしたが返事が来ない。


「もう、久太郎たら学校終わたら迎えに来てもらおうと思ったのに、仕方ないわ。奥の手を使って学校をさぼるか。ぬっぺふほふ君」

 妙な名前を呼んだ。すると珍妙な姿の妖怪があらわれた。

「ぬっぺふほふ君、いつものように学校行ってくれる」

 ぬっぺふほふは顔も判別つかない肉の塊のような姿をしている妖怪である。

「ぼっふ!」

 と空気の抜けるような声で答えると、体中が脈打ち始めた。そして人の形になって、みるみる姿を変えていくと制服を着た晴海へと変化した。

「これでどう、晴海ちゃん」

 ぬっぺふほふはしゃべった。

「オーケイ、いつもながら完璧ね。じゃあ学校行って授業うけてきてね。あっあんまりしゃべらないようにしておいてね」

「任せておいてね」

 そう答えて晴海のカバンを持って出て行ってしまった。

 晴海は普段着に着替えなおして帽子を深々と被ってそのあとをついていった。

 電車を乗り継ぎ、新神戸駅のミシエルのいる神社へとたどり着いた。


「オン サンマヤ サトバン!」

 普賢菩薩の真言で扉を開いて

「ミシエル師匠!」

 と叫ぶとミシエルが現れた。

「やあ、おはよう」

「おはようございます。師匠、今日は教えてほしいことがあってきました」

「魔法のことだね」

「この本に書かれてある魔法について教えてほしいんです」

 父の本を取り出した。

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