すきやき
「ただいま、白鳥先生、おじいちゃん、私すごいことできるようになったんだよ」
寺に帰るなり二人のところへかけて行った。白鳥は本堂で天井を飾る龍の絵を描いていた。それを見守る祖父の晴山は
「こら、騒々しいぞ晴海、なにをあわてているんじゃ」
晴海は錫杖を取り出して庭の灯篭に向かって
「火球!」
小さな火球を放った。まだ魔法力が溜まっていなかったのか軽く焦げを作った。
「こら!大切な石灯篭に何をすんじゃ」
「それは火球の呪文だね。永晴の本に書いてあったよ。すごいじゃないか」
「えっお父さんのそんな本があるの」
「書斎のどこかにあるはずだよ。僕は返したはずだから」
「晴海、本を探すのは飯を食ってからだぞ。お腹がペコペコじゃ。先生も待たせていたんだから」
「はーい、急いですき焼の準備するから、久太郎も手伝って」
エプロンを渡した。
「はいはい、晴海様」
二人は夕食の支度を始めた。
「久太郎、慣れた手つきね」
「まあ、一人暮らしで自炊してますから」
「大変そうね。久太郎も天鼓君のところに居候させてもらったらいいのに、家賃も浮くし仕事もすぐできるでしょ」
「ヤーシャさんもいるしいいかもしれないなぁ。いやいや、プライベートも大切ですよ」
「ふふっ冗談よ。お野菜も切れたし後はご飯が炊けるの待つだけね。先生、おビールだしますわ」
「晴山さんと呑もうと持ってきた。伏見の日本酒があるから今は大丈夫だよ。久太郎君もどうだい」
一升瓶を机の上に置いた。
「小さな酒蔵だが古くから造り酒屋の銘酒だよ」
「美味しそうなお酒ですね。車ですから遠慮しておきます」
「檀家の人からもらったお漬物でも出しますね」
晴海は冷蔵庫から漬物を出すとお惣菜を作り始めた。
「久遠くん、一体どういう経緯で魔法なんて話になったんだ」
久遠は謎の書籍と研究所での出来事を白鳥に説明した。
「チャクラか、面白い話だな。でもそれだけで魔法が使えたら魔法使いだらけになってしまうな。もっと他に要素があるんじゃないかな」
「そうですよね。やはり特別な人しか使えないじゃないかと思います」
「私って、特別なのかな」
手早く菜っ葉と厚揚げの煮物を作って持ってきた晴海が言った。
「それはそうだよ。半分は異世界人なんだからね。しかし宝蔵院君とヤーシャさんも何か秘密があるんだろうな」
「二人ともなにかと常人離れしていますからね」
そんな会話が続けられた。
「もうすぐご飯も炊きあがるし、お肉焼きましょう」
牛脂のいい匂いが食堂に広がった。
「今日はすっかりごちそうになった。それじゃあいつもの宿に帰るよ」
「先生、お送りします」
二人は去り、祖父と二人となった。
「大人数で食事をすると楽しいな晴海」
「早く、お父さんたちが戻ってくればいいのにね」
テーブルの片づけと洗い物を始めた。
後始末を終えてふと見ると酒に酔った晴山は眠っていた。
「もう、風邪ひくわよ。そうだ父さんの本」
書斎に向かい。本棚をくまなく探した。
「あった、これだ。『魔法の種類とその研究』お風呂に入ってから後で読みましょう」
シャワーを浴びる晴海の背中、心臓の裏に当たる部分いいままで無かった刻印があらわれていた。




