魔導書
晴海は銭形から本を借り受けて宝蔵院の研究所に向かった。
「団長、お久しぶりです。びっくりしました。本当に天鼓君と一緒に住んでるんですってね」
「晴海ちゃん、こんにちは、そう言うことだよ。何から何まで天ちゃんにお世話になってる。これでいつでもお手伝いできるよ」
「僕もとっても助かってます。軽足さんは料理がとっても上手で一人で食事するよりみんなで楽しくて美味しくてうれしいです」
「ヤーシャさんがいるしね。そう、この本を調べてほしいの南風野の所有物らしいの」
ニコニコしている宝蔵院に手渡した。
「これは、この世界のものじゃないかもしれませんね。見たこともない文字で書かれています」
本を開こうとするが固く閉じられたままであった。
「不思議なの私にしか開けないの」
晴海が本を開いて見せた。
「興味深いですね。どうして水無瀬さんだけがこの本を開けるのか。1ページづつ開いていってもらえますか。撮影します」
晴海と宝蔵院は本の撮影にかかった。
久遠は軽足と話をしている。
「軽足さん良かったんですか。サーカスを手放してしまってあんなに人気だったのに」
「まあこれも運命ってやつじゃないかな。わしら親子にとってネオベゼルは仇なんだ。それに永晴の旦那は恩人、ここまで揃っていればやることは決まってるよな」
「ヤーシャさんとあのしゃべるホワイトタイガーはどこにいるんです」
「ああ、あの子たちはトレーニングルームだ。会いに行ってみるかい」
「ええ」
二人は城の中のトレーニングルームへ行った。
そこには二人の女性が素手で組み合っていた。
「ヤーシャさんとあの女の人は?」
「久遠くんは知らなかったかね。フーさんだよ」
「えっあの虎は人間の姿になれるんですか。驚いた」
二人は高速で動き組み合っていた。久遠は唖然とただ見つめていた。
「おーい、ちょっと休憩しないか、お客さんが見えているぞ」
タオルで汗を拭きながら久遠の方へ近づいてきた。
色気たっぷりの二人の汗ばんだ姿に久遠はドキドキしてしまった。
「確か久遠とかいう刑事だな。何か用か」
ヤーシャは冷たく言った。
「宝蔵院君に調査を依頼に来たんです」
「そうか、天は優秀な子だからな。あまり便利に使い過ぎるなよ」
ヤーシャは宝蔵院に対してかなり友好的な関係が出来上がっているようだ。
「天ちゃんはああ見えて優しい子だにゃ。もっとはずかしがらずに子供らしくすればいいのににゃ」
「あのう、本当にあの虎さんなんですか。信じられないんですが」
「そうだにゃ、サーカスも終わったし、この姿の方が都合いいようなんだにゃ」
「なんか宝蔵院君がうらやましいな。こんな素敵な二人と一緒に住めて」
本音が漏れてしまう久遠だった。
「さあ、ダイニングでお茶でもしようじゃないか」
久遠たちはダイニングへ移動していった。
しばしコーヒーを飲みながら城での話を聞いていた。サーカスにいたギアーレという魔物もこの城で飼われているとのことだった。
「あら、私もコーヒーいただこうかしら」
晴海は宝蔵院と共にダイニングにやってきた。
「僕が煎れますね」
宝蔵院は豆を挽きだした。
「作業の方はどうなんだい。宝蔵院君何かわかったかな」
「ええ、今、僕のコンピューターが文字を解析しています。トンパ文字に近い感じがします。30分もあれば翻訳できるでしょう」
「どうして晴海様だけが本を開けたのかもわかったのかな」
「推論でしかないのですが、おそらく異世界人しか開けない魔法がほどこされているんじゃないでしょうか」
「私が異世界人とのハーフだからなの」
「百花さんて異世界人だったのかい。聞いてなかったな」
「そうみたいなの何の実感もなかったけどこんなことがあるのね」
「ユートガルト人なのにゃ」
「フーさんも知ってるの異世界の人」
「大昔にゃ、大親友だったけど大きな戦いで死んじゃったのにゃ。タマちゃん・・」
フーは少し悲しい顔をした。
「ミシエルさんといいフーさんまで、そんな大昔から異世界人ってこちらに来ていたんだ」
「神隠しとかいうのも案外、異世界に移送してしまったこととかね」
久遠もいろいろ考えをめぐらした。
「私が感じたのはあの本は魔導書のようなものじゃないかしら、異世界へ行く魔法とかが書かれてるんじゃない」
「面白い推論だね。どうしてそう思ったのですか水無瀬さん」
「胸の奥に湧き上がってきたの不思議な感覚がこれって魔力とかいうんじゃないかな」
「ちょっと待って!」
宝蔵院はあわててダイニングを出ていったと思うとへんてこな計測器のようなものを持って戻ってきた。
「魔術とか魔法を調べていて僕なりの考察で測定器を作ってみたんだ。でも魔法が使える人がいなかったので実証できなかったんだ」
晴海に機械を向けていた。
「おお!メータが上昇していく!!水無瀬瀬さん!魔法力があるみたいだ」
宝蔵院は歓喜の表情を見せた。
「ええ、どうすれば魔法が使えるの」
「あの本の解析ができれば何かわかるかも」
全員、時計を見つめた。




