教団物流倉庫
ゴスロリ姿の戦闘服に変身した晴海は遊環から召喚した日輪と月光と共に怪物たちと交戦中だった。
新学期が始まり九月も終わろうとしていたころ、久遠に呼び出され神戸の山奥の教団の物流倉庫へと向かっていた。
「貴具さんと宝蔵院君ががメダルの保管倉庫を発見したんだ。破壊工作は貴具さんが、何かの時の援護に出動要請されたんだよ。何事もないといいんだけど」
久遠のハンドルをにぎった手は緊張で汗ばんでいた。事前の行動予定を聞き、かなり大きな捕り物が待ち構えていると感じ取っていた。
「顔が引きつってるわよ。久太郎、ビビっているんじゃない」
「そりゃちょっと怖いですよ。貴具さんによると数千万個のメダルが保管されているそうなんですよ。必ず妖怪が警護してますよ。あの根角や猫田がまたいるかもしれないんですよ」
銀メダルの妖怪、火車と鉄鼠が待ち構えているかもしれないと思うと久遠は不安でいっぱいだった。
「しかし貴具さんの捜査方法はめちゃくちゃですよ。宝蔵院君の作ったスパイウェアを教団関連施設にばらまいて違法な情報収集しているんですよ」
「よく天鼓君が手伝ったわね」
「賄賂ですよ。貴具さんに買収されたんですよ」
「なによそれ」
「貴具さんの特技ですよ。ヤーシャさんのフィギュアをプレゼントしたんですよ」
宝蔵院はあれから何度もユニバーサル・サーカスのトップスター猛獣使いのヤーシャを見に通っていた。
「そんなに彼女に夢中なの」
「ええ、このあいだ研究所に行ったら部屋中にヤーシャさんのポスターでいっぱいで楽しそうにフィギュアに見入って悦にってましたから」
「天鼓君もこうしてみるとただの男の子ね。安心したわ」
ナビを見ながら車を走らせていた久遠は通信眼鏡を装着した。
「着きました。宝蔵院君、貴具さんはどうしてる?」
「すでにスタンバイして倉庫の中にいます」
「久太郎、私はどうすればいいの」
「車の中で待機です。貴具さんを順調にいけばピックアップして作戦終了です」
倉庫の方から小さな爆発音が鳴った。窓から煙が出ている。
倉庫から貴具が走り出してきたと思うと後から数多の餓鬼が追いかけてきた。
「なにあれ!天鼓君あれはどういう妖怪なの」
「あれはゴブリンというモンスターですね。おそらくメダルで操られているのでしょう。遠慮なく倒してください」
貴具は拳銃を打ちながらこちらに向かってくるが餓鬼の勢いは止まらない。
「出番ね。秒で始末するわ」
晴海は車から飛び出すと錫杖を三回地面に打ち付けた。
キラキラと晴海が輝きだす。錫杖は小さな黒い日傘へ、遊環ゆかんの四つが離れ手足に巻き付き、髪はこんもり盛り上げられリボン、フリルのあるゴスロリの法衣へ厚底の編み込みブーツ姿へと晴海を変えた。
「水無瀬晴海!ちょっと気に入らないけど貴具、助けてあげるわ」
バサバサと蝙蝠のようなバットリ、彼女の装備の取説妖魔が言った。
「今日はまた盛況でやんすね。はりきっていくでやんす」
晴海は錫杖の先についた輪っか、遊環ゆかんにキスをして
「オンキリキリバザラウンバッタ」
二体の鬼を召還した。赤鬼と青鬼は餓鬼に向かって行った。
続けて青龍の弓を召還して、次々と矢を打ち放っていった。
貴具の鼻先を矢が通り抜けていった。
「危ないじゃないか!ちゃんと狙えよ」
悪態をつきながらこちらに走ってくる。
時折振り返り拳銃を打っているが餓鬼には効かない。
久遠も銃を構えて正確に餓鬼の額を打ち抜いていく。
「久太郎、なかなかの腕前じゃない」
「天鼓君の弾丸が補正してくれているんです」
貴具は晴海たちのところへやっとたどり着いた。
「奴らのメダルは宝蔵院の特製爆弾で全部破壊した。逃げるぞ」
「もうちょっと聞いてないわよ。爆弾まで使うなんて、あと少しで餓鬼たちを退治できるから」
晴海は青龍の弓を空に向けた。
「ノウマク サンマンダ バザラ ダン センダ マカシャダ ソウワカ ウンタラタカマク」
不動明王の真言を唱えると弓を放った。
矢は天空で分裂して雨のように降り注いだ。
くるりとふりむき
「お祓い完了!さあ、帰りましょう」
日輪と月光を収納して変身を解き車に乗り込んだ。
「ちょっとバタついたが作戦成功だな」
「何が成功よ。すました顔でいわないでね」
「ありがとよ。助かったぜ」
以外に素直に貴具は礼を言った。
「早く逃げましょう。さらに追手が出てくるかもしれません」
久遠は急いで車を走らせてゆく。その後方から先ほどとは比べ物にならない爆発音が鳴った。
倉庫は大炎上していた。
「貴具さん、あんな爆弾までセットしてたんですか」
「あれはやつらが証拠隠滅のため自爆したんだろう。俺とは関係ない」
「県警に戻って本部長に報告に行きますよ」
「怒るだろうな。舎利弗のおやっさん」




