◆◆◇◇◇◇◇ 承
「あのう・・晴海さん、あの防犯カメラあのままにしておくんですか」
「あっいけない忘れてた。どっかで脚立借りてこの呪符貼り付けなさい」
「僕がですか」
「当たり前よ。私はスカートなんだから。それともみたいの」
久遠はハシゴを借りて防犯カメラに呪符を貼り付けようとした。
「なんか怖いんですけど。大丈夫ですか触って」
「いくじなしね。さっさと張って」
「えい!」久遠は顔をできるだけ背け腕を伸ばして呪符を貼り付けた。
「それでいいわ。オンキリキリバザラウンバッタ」
落ちてきたメダルを受け取った晴海は
「容疑者のところへいくわよ」
「ハシゴ帰してきます。待ってください」
二人は商店街の入り口からやや離れたところに立っていた。
「成層軒の主人、矢板鯛太、31才が襲われたのは昨日午前10時頃、仕込み作業中の出来事です。金庫とレジのお金には手をつけられておりませんでした。隣の不動産屋が発見して通報されました」
「物取りの犯行じゃないってことね」
「そこで容疑者ですが、クリーニング屋の花田玲、同じく31才の幼馴染ですが昨夜この商店街にあるスナック・洗濯板で激しい争いをしていたとのスナックのママ、樺木小町が証言しております」
「まずはその花田が容疑者その一、それで次は」
「八百屋の配達員、味岡実太20才です。朝一番で成層軒に配達にいったまま消息不明です」
「味岡、容疑者その二、怪しいわね行方不明なんて」
「最後は成層軒の元従業員、馬場鹿男、25才ですがこの商店街で今は大気軒という餃子専門店を出店しておりますが経営がはかばかしくなくて、矢板から餃子のレシピを聞き出そうとしつこく毎日訪れていたようです」
「どの人も怪しいけど味岡ね。行方不明だし、とりあえず花田の話を聞きに行きましょ」
「捜査は警察に任せてくださいよ」
「実際にその人を見なくちゃダメなの、後ろで大人しくしてるから聞き込みしてよ」
「絶対にですよ」
いささか久遠は不安を持ちながらクリーニング屋を訪問した。
「刑事さんまたですか。昨日お話したことが全部ですよ」
晴海は久遠を肘でつついて小さな声で
「喧嘩の理由」
「スナック・洗濯板で言い争いをしていたそうですがどんな理由でですか」
「そ、それは商店街の運営のことでだ。詳しくは話せない」
「困りましたね。ちょっとでいいですから話してください」
「もう忙しいから帰ってくれ!」
店を追い出されてしまった。
「もう、食いつきが足りないわね久太郎、次」
そして二軒先の大気軒を訪れた。客が全くいなくて店主は競馬新聞を読んでいた。
「刑事さん疑ってるんですか。僕は昨日は親父さんの店には行ってませんよ。元町に馬券買いに行っていたんですから」
またも肘でつつく晴海
「なんで成層軒やめたか聞いて」
「差しさわりなければ成層軒をやめた理由を教えてもらえませんか」
「あの親父三ヶ月も勤めたのに餃子のレシピを教えてくれないんだよ。見て盗めってそれでだいたいの作り方まねてこの店を出したんだよ」
突然仕事を始め、白菜を刻み始めた。
「忙しいから帰ってくれよ」
またも店を追い出された。
「あいつ根性なってないね。餃子を甘く見過ぎだよ」
最後に八百屋を訪問したときに雨が降り始めた。
「雨がどんどん漏れてるじゃないアーケード意味なし」
頭にしずくが落ちてきていた。
八百屋では店主の安岡が忙しそうにしていた。
「安岡さん、味岡さんとまだ連絡はとれませんか」
「刑事さん、早く実太の野郎を見つけてくださいよ。手が足りなくて大変だ」
「あの日のこともう一度お聞かせしてもらえませんか」
肘でつつかれなくても聞き込みができたぞとばかりに晴海をちらっと見た。
「もう一度ですか」
面倒くさそうな顔をして答えだした。
「普通にいつもの野菜をそろえて成層軒に配達行っただけだよ。それ以外は何もないよ。あっ小町さん、こないだはどうも」
スナック・洗濯板のママ、樺木小町が会釈をして通っていった。化粧をしていない彼女は貧そな三十路女だった。
「あゝ、そうだ!配達に向かったあと、矢板さんが餃子に使うキャベツが足りないとママが言って来たな。代わりに持って行ってあげるとキャベツを一個持って行ってもらたんだ」
久遠はメモを取る手を止めて
「樺木さんも成層軒へ行ったということですか」
「ちくしょう雨が持ってきやがった。高いアーケード維持費払ってるのにどうなってるんだ。会長に文句言わないと、刑事さん配達手伝ってくれないか。忙しくてよ」
「ここで失礼いたします。お忙しいところ捜査協力ありがとうございます」
八百屋から逃げるように引き上げた。
「この商店街の理事長って誰なの」
パラパラとメモ帳を見て
「クリーニング屋の花田ですね。副会長が被疑者の矢板、会計がスナック・洗濯板の樺木です」
「あら、スナックで昨夜いた人たちって理事ばかりじゃない」
「そうですね。樺木にも聞き込みしましょうか」
「もういいわ、雨も降ってきたし満腹寺に帰るわよ。白鳥先生に報告よ」
満腹寺に戻る頃には雨がやんでいた。
白鳥はアールグレイを飲み待っていた。
「どうだった晴海」
「白鳥先生、やっぱり妖気が商店街に漂っていました。憑人がいます」
「久遠くん、捜査メモを見せてくれ」
手帳を受け取り考え事をするように読んでいる。
「きれいな字だ。読みやすいよ。大体の筋書きは読めてきた。悪いがもう一度戻って商店街の決算報告書とアーケードについての書類を持って帰ってきてくれ。一人行方不明だということだ急いで」
「はいわかりました」
白鳥は出ていこうとする久遠を追いかけて何事か耳打ちをした。
「白鳥先生、誰が犯人かわかったの」
「わかったよ。久遠くんが戻ってきたらもう一度商店街に行ってもらうからご飯を食べて用意しておきなさい」
「先生も食べってもらえます。はりきってハンバーグ作りますから」
「もちろん、晴海ちゃんは料理上手だからね」
そして夕食を取りながら久遠の帰りを待った。
「先生!おっしゃる通りでした」
そう言って書類を白鳥に手渡した。それを読んだ後、晴海に耳打ちをした。
「まあ、そういうことだったの!久太郎行くわよ!秒で片づけるから」
「はい、行ってきます。ところで先生はご一緒されないのですか」
「晴海ちゃんだけで問題ない。それと晴海、困ったときは錫杖の遊環に真言を唱えキスしなさい」
「なんだかわかんないけど、行ってきます」
再び商店街へと向かっていった。