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過去の記憶

 八月も終わろうとしていた。

「晴海、明日から新学期だぞ用意はできているのか」

 祖父の晴山(せいざん)が朝ごはんを食べながら言った。

「ちゃんと宿題はできてるわよ。天鼓君にも手伝ってもらったし、彼、教え方がめっちゃくちゃ上手なのよ。成績上がるかも。それよりおじいちゃん、思い出さないの父さんと母さんがいなくなった日のこと」

永晴(えいせい)はいつもふらっと出て行ってはいつの間にか帰ってくるような生活だったから、いつがその時だったか全くわかんのじゃ」

「もうだめね。何か失踪のヒントになればと思ったんだけど。まあお母さんの素性も知らなかったんだもんね」

「あんなべっぴんさんが永晴の奥さんになるだけで十分じゃないか。それに良くできたいい娘さんだったぞ」

「もう、おじいちゃんたら。今日はやっと白鳥先生に会えるからいいけど五年前の出来事ちゃんと思い出してよ」

 久しぶりに満腹寺に白鳥がやってくる。それだけで晴海は機嫌がよくなっていたのだ。 そこへ晴海の携帯が鳴った。

「久太郎なに、えっこれから捜査なの。もう白鳥先生に会えるのに秒で終わらせて帰れるかな」



15年前へ


「もうすぐ30歳になるんだから早く満腹寺を継がんか。檀家のものも心配しているぞ。ハリソン何とかという役者に似てるからと言ってそんな恰好でいつまでぶらぶらとしておるから、まったく何を考えておるんじゃ」

 革ジャンにフェルト帽の男が答えた。

「うちの保育園の園長をしている妹の晴子に婿をもらえよ。そいつに継がせたらいいだろ。俺には研究があるんだ」

 と言って男は大きなバイクにまたがり出ていった。それが晴海の父となる永晴であった。


「解読した文献通りならこのあたりなんだがな。しかしこんなに結界を張られた山奥とはな」

 けもの道を進んでいく永晴の前に岩山がそびえたっていた。

 開けた場所に出るとその岩山にはくりぬかれ神殿のように装飾された壁面が現れた。

「やはりな、迷いの結界が張られて普通の人間にはたどり着けないこんな場所にまるでペトラ遺跡のようだな。大発見だ」

 神殿は銀羽(ぎんぱ)教の遺物だ。現在のネオベゼルの家の母体である。

 永晴はポケットから研究が(したた)められた革の手帳を取り出して中を確認した。

「このあたりかな」

 神殿の壁を撫でるように探って出っ張った岩を中に押し込んだ。地鳴りのような音がして扉が開いた。

「この通路を通れば罠がないはずだが」

 たすき掛けにかけた小さなカバンから術符を取り出して真言を唱えるとネズミに変化した。

「先導しておくれチュー太くん」

 式神を放ちマグライト片手に追従した。

 換気口くらいの複雑な通路は式神によって正しい順路で進んでいった。

 式神が引き返して何かを告げた。

「まだこの遺跡は使われていたということか」

 注意深く通路の出口の扉を少し開いて中をうかがった。

 ランプに照らされたその部屋には鎖につながれた美しい女が横たわっていた。

「おいおい、なんてこった」

 永晴は警戒もせずに飛び出していった。

「だいじょうぶか。どうしてこんなところに囚われているんだ」

 抱き上げて声をかけた瞬間、首元に噛みつかれた。

「うっ、ご丁寧とは言い難いご挨拶だな。気が済んだか。俺は水無瀬永晴という探検家だ。助け出してややるぞ」

 女は口元に着いた永晴の血をなめて

「ここは危ないわ、早く逃げなさい」

「どういうことなんだ。説明してくれお嬢さん」

「奴らに見つかると命はないわよ。私のことは放っておいて」

「バカを言うんじゃないよ。こんな状況に目をつぶっておけるかよ。さあ俺と逃げるんだ」

 鎖をはずそうと手をかけた。

「だいじょうぶよ」

 と女は言うと鎖がはじけ飛んだ。

「あなたの血のおかげで力が少し戻ったわ。私はモモ」

「モモさんか、どういうことがわからんがここを出よう」

 部屋の出入り口の外が騒がしくなった。扉の鍵を開けようとしているようだ。

 永晴は部屋にあった家具で扉にバリケードを作って、モモの手を握り引っ張った。

「この通路から外へ出れる。一緒に行こう」

「強引な方ね。嫌いじゃないわ。一緒に行くわ覚悟してね」

 モモを通路に押し込むと大急ぎで外へと向かった。

 神殿を出ると永晴はモモを背負ってもときた道を駆けだした。

「モモさんよ。どうしてあんなところに閉じ込められていたんだ」

「さあ、やつらの目的はわからないけど、しきりに鍵の女と行ってたわ」

「そうかい、辛かっただろ。あんなところに閉じ込められて」

「あなたはとんでもないお人よしね。こんなわけもわからない女に関わるなんて」

「俺は謎が大好きなんだよ。そのために一生を費やしているからな」

「面白い人」

 今度は首筋にキスをした。

「ごめんなさいね。勝手に血を吸って」

「献血は趣味で毎月やってるからな」

「あら、もったいない」

 バイクのところにたどり着くと後ろにモモを乗せて猛スピードで走りだした。

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