人を呪わば穴二つ
「最初に謝らせてください。僕のアシスト不足でした。貴具さんの目的を見誤っていました。もっと術そのものの内容を調べ上げておくべきでした」
「天鼓君は謝る必要はないわ。私たちが先に放火現場をよく調べていればもっと情報が天鼓君にあげれたのに」
「二人とも自分のせいにするんじゃないよ。諦めは心の養生というよ。失敗をくよくよ悩まないで切り替えていこうじゃないか」
「さすがよく失敗している久太郎にしてはいいこと言うじゃない」
「僕は少しネガティブになる傾向があるので久遠さんを見習させてもらいます」
「ところで宝蔵院君、作戦てなんなんだい」
「作戦というか仕返しなんです。水無瀬さんたちをからかうあの態度はちょっと我慢なりません。貴具さんの使った北斗七星の呪詛をハッキングして呪詛返しを仕掛けてみたいのですがどうですか」
「呪詛返し?そんなことができるの」
宝蔵院は七枚のメダルを机の上に並べた。
「これは呪符のメダルです。僕が発明した技術で呪符を濃縮して作っています。これを彼が術を施した放火現場に置いて、水無瀬さんの真言で発動させます」
「呪詛返しというからには彼も食中毒にかかるのかい」
「それはそれは倍返しで、ひっひっひっひ」
口に手を当てて薄気味悪い声で笑った。
「天鼓君、怖い」
「あっすみません」
慌てて手を振りながら晴海に謝った。
「よし、さっそく現場に戻って一泡吹かせてやろうか」
前と同じ場所に車を止めて現場を回りメダルをセットした。
「じゃあ、やるわよ」
晴海は印を結び。
「オンキリキリバザラウンバッタ!えい!」
目の前のメダルがハネ上がりくるくる回ると霧散した。ほかのメダルにも連鎖していった。
「なんだかあんまり気分のいいもんじゃないわ」
「貴具さんも僕はそんなに悪い人じゃないように思えるんだ。少しひねくれているだけのような気がするけど、これで術がかかったのかな。次はいつ会えるんだろうね」
「事件を追ってればすぐに会える気がするわ。それよりテーマパークはいつ行くのよー」
「明後日、舎利弗本部長の娘さんがこちらに戻ってくるのでお孫さんと一緒にとお誘いです。晴海様は本部長のお孫さんと同い年なんで同伴をと考えたみたいですよ」
「楽しみね。確か若菜ちゃんっていうのよね。おじいちゃんがお腹を空かせてるわ。スーパー寄って帰りましょ」
久遠は晴海を家まで送っていった。
久遠は自分の車で迎えにやってきた。RV車だった。
「久太郎、いい車を持っているのね」
「ソロキャンプが趣味で買ったんですけどなかなか暇がなくてね。まだ行けてないんですよ」
「キャンプかそれもいいな。天鼓君も誘って次はキャンプね」
「彼、アウトドアなんて興味あるかな。チームの親睦も兼ねていいかもしれないね」
そうこう話すうちに酒蔵のある町の舎利弗の家に着いた。
インターフォンを鳴らすと玄関口まで娘と母親が出てきた。
「すみませんね。久遠さん、じいじ、早く準備してよ」
家の中へ声をかけた。
ゴルフにでも行くような姿で舎利弗が出てきた。
「晴海さん、すまんな、付き合わせてしまって、孫の若菜だ。水無瀬晴海さんだ。挨拶しなさい」
「こんにちは、若菜です。今日はよろしくね」
「初めまして、晴海です。こちらこそ」
大人しく育ちの良さがにじみ出る少女であった。どうやら仲良くなれそうな気持が晴海には感じ取れた。
「じいじ、若菜をあまり甘やかせちゃだめよ」
「わかっているよ。心配するな」
とはいっても孫がかわいい舎利弗であった。
「久遠くん、ポートアイランドまで送ってくれ」
「あれ、大阪じゃないんですか?」
テーマパークと聞いていた晴海は聞き返した。
「ユニバーサル・サーカスのテントはポートアイランドだよ。久遠、ちゃんと言っておいただろ」
「すみません、本部長、勘違いしてました。ごめんね晴海様、サーカスでもいいかな」
「いいわ、サーカスなんて初めて、楽しそう。若菜ちゃんはどう?」
「わたしも、初めて楽しみだね。晴海ちゃん」
にっこりと笑いあう二人の娘を
「わしも楽しみだ。かわいいのう、二人とも」
スマートフォンで写真を撮りまくっている舎利弗だった。
「まったく、じいじったら、久遠さんよろしく面倒頼みますよ」
日本初のダブルデッキアーチ型鋼橋の神戸大橋を渡ると大きなテントが見えてきた。
「ほら、若菜ちゃんあれ、とっても大きなテント」
「素敵、どんなサーカスなのかな」
「空中ブランコとホワイトタイガーの猛獣ショーが売りらしい。ほらチラシを見なさい」
舎利弗は二人にサーカスのチラシを渡した。
「わあ、きれいな人、少し冷たい感じがするけどスタイル抜群ね」
「この人が空中ブランコと猛獣使いをするみたいよ」
「さあ着きましたよ。上演まであと少ししか時間がないので急いでください」
久遠は先頭を歩いてみんなを急かした。テントの中に入ると満員の観客で埋め尽くされていた。晴海たちは前の方の座席であった。
上演開始のアナウンスが流れた。山高帽のでっぷり太った座長らしき人物が口上を述べる。
「ご来場の皆さん!とっておきのショーをご覧ください」
ロープでつられて演者たちが降りてきた。
くるくると華麗なダンスで観客たちを魅了する。
道化師が現れ玉乗りをしながらジャグリングをしている。ピエロが出てきて邪魔をしようとするが巧みによけて玉乗りをつづけた。
道化師は飛び上がり、ダブダブの衣装を脱ぎ捨てた。
すると美しい女性が現れ挨拶をした。
客たちに挨拶をしてポールをよじ登っていく空中ブランコが始まった。
ハラハラドキドキさせながら美しく宙を舞った。
晴海と若菜は手を取り合ってキラキラした目で見つめていた。
最後は落下してトランポリンに着地をしてくるりと回るといつの間にか居た象に飛び乗って退場していった。
休憩の時間になった。
晴海と若菜は興奮して上気した表情で感想を言い合っていた。
そこに久遠がジュースを買ってきて二人に渡した。
「喉が渇いたんじゃないか。それにしてもこんなにサーカスが面白いものとは思わなかったよ」
「おじさま、ありがとうございます。とっても楽しいですわ。ねえ若菜ちゃん」
「おじい様、私もとっても楽しいです。晴海ちゃんが一緒にいるからかな」
舎利弗も孫と晴海が喜ぶ様子を見てご満悦だった。
後半のプログラムが始まり、空中ブランコを演じた女性が鞭を持って現れた。
「おじい様、あとであの人のプロマイド買って頂戴ね」
「うんうん、何枚でも買ってやるぞ」
晴海が急に鋭い目になった。
現れた獣がギアーレだったのだ。異界に住む猪に似た魔獣である。
「あれは・・・」
「どうしたの晴海ちゃん」
ギアーレは飛び跳ね輪っかくぐりをしている。
晴海は青龍の祠で何度も目にしていたギアーレだ。
「猪に衣装を着せているのかな。それにしても大きな猪だな」
久遠はのんきなことを言っていた。
「久太郎、天鼓君の眼鏡、持ってきている」
「ええ、内ポケットにいれてますけど?どうしたんですか」
「あの猪を天鼓君に解析してもらって」
久遠は宝蔵院との回線をオープンした。
「なんですか。久遠さん」
「ちょっとこの映像を見てほしいんだ。特にあの猪」
飛び跳ねるギアーレを送信した。
「こ、これはこの世界の生物じゃないですね。どこにいるんですか」
「晴海ちゃん、これはどういうことなんだ」
久遠は晴海に聞いた。
「あれはギアーレという異世界生物よ」
サーカスのショーは続いているが事件の匂いを晴海は感じ取った。




