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工作員の過去

「お前たちの見立て通りネオベゼルは組織犯罪集団だ。しかし巧妙にその足跡を隠している。俺はその捜査でこのシニアハウスを揺さぶっているんだ。詳しい話はついて来い」

 貴具(きぐ)は周りを確かめ晴海と久遠を近くにとめた真っ黒なバンのところまで連れてきた。

「車に入るんだ」

 言われるままに二人は車の後部に入ると

「機械だらけね」

「車は偽造ナンバーですね登録はありません。どうやら盗聴装置とハッキング用のコンピュータが搭載されてます。舎利弗(とどろき)本部長に連絡を入れておきますね」

 宝蔵院は二人に伝えた。舎利弗に連絡がいっていれば大丈夫だろう。

 晴海と久遠は頷きあった。

「連絡は済んだようだな。手短に済ますぞ」

 貴具には宝蔵院と連絡を取り合っていることまでばれているようだ。

「あの施設にどんな呪詛をかけようとしていたの」

 晴海はずばり核心を聞いた。

「そこまで知っていたのか。なに軽い食中毒を起こして保健所の立ち入り調査をさせる算段だ」

「そんなひどいことをするの相手は老人たちよ。軽い食中毒だって命にかかわることもあるのよ」

「あそこの老人体は身寄りのない資産家たちだ。その遺産をむしり取ろうとしているんだ奴らは。入院させれば助けることになるんだよ。人助けさ」

「なんて人なの、ほかにも方法があるでしょ。そんなコト絶対許さない!」

「もう遅いよ。君が剥がした呪符はダミーだよ。今頃発動している」

「僕たちを現場から引き離すためにここに連れてきたのか。なんて人だ」

「久太郎!こんなとこでグズグズしてる暇はないわ。老人ホームへ向かいましょう」

「おいおい、なんて説明するんだよ。ここの食事は呪われています。食べないで下さいとか言うのかい」

 晴海は貴具を睨みつけた。

 貴具はスピーカーのスイッチを入れた。

「119ですか。職員が食中毒のようなんです。10人ほどが吐き気と腹痛で苦しんでいます。救急車お願いします」

「この時間は職員が食事をとっているんだよ。お嬢ちゃん、まあ入所者が遅れて食べていた可能性もあったけど、こういうことさ」


「これが公安の捜査方法なんですか。非合法すぎますよ」

「それが俺たちの流儀だ。さあ下りてくれ。これから保健所職員に変装してネオベゼル配食センターに向かわないといけないんでね」

「そっちがターゲットだったのか。回りくどいが周到だな」

「まあ、仲良くやっていこうや。またな」

 ドアをバッタンと閉められ、車は急発進していった。


「久太郎、あれでも警察なの」

「公安には公安のやり方があるんだろ。僕には許せないけどね。県警に戻って本部長に報告に行くよ」


 特務捜査課零係に部屋はない、直接本部著の部屋に二人は向かった。

「ご苦労だった。宝蔵院君からすべて聞いている。しかし公安がしゃしゃり出てきているとはやりにくくなるな。しかしあの貴具(きぐ)が生きていたとは」

「どういうことですか本部長」

 久遠は驚いて聞き返した。

「あいつは俺が捜査一課にいたときの部下だ。優秀なやつだった。警察をある日突然に辞職したと思ったら山岳事故で死んでしまったと聞いていたが、公安に引き抜かれていたんだな」

「ねえ久太郎どういうことなの」

「公安の捜査官はすべての身分を隠すためそんな工作をするとか聞いたことがあるよ」

「でもなんで呪術を使えるの」

「それはわからんな。とにかくあんな体型だが運動神経もよくて頭も東京のあの大学を出ていたからな」

 本部長室のモニターに宝蔵院が映った。

「本部長から調査を依頼された貴具の経歴を調べてみると、昔から貴具家(きぐけ)陰陽寮(おんようりょう)に仕えていた一族のようです。何らかの訓練は幼いころから伝授されていたのではないでしょうか」

「陰陽寮ってなに?」

 晴海は聞きなれない言葉を聞いた。

「平安のころから今も続いていると言われている機関のひとつですよ。占いや暦の編纂を担当する部署ですけども色んな呪術にも精通しているらしいです」

「秘密組織なのね。白鳥先生なら何か知ってるかもしれないわね。久太郎、先生の予定は」

「僕は白鳥先生の秘書じゃないですよ。わかりませんよ」

「もう、役に立たないわね」

「仕方がないな。わしが連絡を取ってやろう」

「先生は携帯も何もお持ちになられない主義なんですよ。どうするんですか」

「京都のラジオ番組にある曲をリクエストとして流してもらうんだ。するとわしのところに電話が来るんだ」

「なんだかどこかの殺し屋に依頼するみたいですね」

「おじさま、お願い、先生と相談したいの」

「わかったよ晴海くん、明日まで待ってくれるかい」

「ありがとうございます。ところでネオベゼル・シニアハウスはどうしたらいいんですか」

「その件は今のところはここまでとしよう。上層部と相談をするから、久遠くん家まで送ってあげなさい」

「じゃあ、おじさま、さようなら、久太郎スーパーに寄ってから帰るわよ」


 車でスーパーに向かう二人に

「あのう、僕なりに作戦を思いついたんですけど研究所まで来てもらえますか」

 宝蔵院から二人に要請があった。

「久太郎、天鼓君のお城に行って」

「本部長に言わなくていいかな」

「あとで言えばいいじゃない。天鼓君の話を聞きに行きましょう」


 急遽、宝蔵院の研究所に向かう晴海と久遠であった。

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