下着泥棒蜘蛛男 起
「出版社の方に聞いていつものお宿にお泊りと聞き尋ね、またそこでこちらにいらっしゃると教えてもらいました」
「よく僕を見つけたものだな。その能力を捜査に使いたまえ」
「編集の方から〆切をよろしく頼みますとの伝言もあります」
「だから電話を持たないんだよ。〆切〆切とうるさいからね。で、なんなんだい。興味を引きそうなことかな」
「じつは下着泥棒なんですが」
「下世話なことには興味がないな却下」
「下着泥棒なんて女性の敵よ!先生聞いてあげてよ」
そう言う晴海を久遠刑事はちらっと見て
「大人の下着専門です。狙うのはセクシーな」
「ちょっと、どういうことよ!あなた失礼な人ね」
晴海はそっぽを向いてしまった。
「それのどこに私が協力する意味合いがあるんだね。久遠くん」
「じつは犯人が壁に張り付きよじ登り犯行を行うんですよ」
「なんだい赤と青のコスプレでもしてるっていうんじゃないだろうね。くだらん」
「いえ目撃者によると」
メモ帳を繰りながら話をつづけた。
「顔には複眼らしきもの、昆虫みたいなですね。口から糸を吐いたというんですよ」
「あゝそっちか。宿の主人が好きなほうだな」
「鑑識で調べると本当に蜘蛛の糸だったんです」
「それでそれで」
首を突っ込む晴海は興味がわいたようだ。
「先生なんですこの子は」
「侮っちゃいけないよ。この子もスペシャリストだ」
「じゃあ、続けますけど、ほのぼの商店街周辺で犯行は行われ商店街方向に逃げる容疑者が発見されたんです。捜査本部ではエロ蜘蛛男と名付けてますが、なんと傷害事件が起こってしまいました」
「それで本格的に捜査となったんだね。その傷害事件もエロ蜘蛛男の仕業とどうしてわかったんだ」
さらにメモ帳のページを繰る。
「商店街の中華料理屋”成層軒”の店主が頭を殴打され」
晴海の胸元をちらっと見る久遠
「粉々に割れたキャベツと蜘蛛の糸のついた大きなブラジャーが落ちておりました。店主は意識不明で入院中です」
「あんた!いちいちムカつくわね」
「そんなつもりは・・聞いていただいているかなと思って」
「うるさい!続けて」
「はい、それで容疑者は三人まで絞り込んでいます」
「もういい大体の事情は呑み込めた。久遠くん、その子を連れて現場を見せてやってくれ」
「えーこんな子供をですか」
「何言ってんのよ。先生もおっしゃったでしょ。私もスペシャリストなの!」
「白鳥先生がそうおっしゃるんなら」
しぶしぶ晴海を車に乗せてほのぼの商店街まで向かっていった。
後部座席にふんぞり返り座る晴海は
「あんた、何て名前なの」
「私は久遠久太郎であります」
「わたしは水無瀬晴海、あの寺の子よ。久太郎よろしくな」
「あのう晴海ちゃんはいくつかな」
「レディに歳を聞くもんじゃないよ。まっ中学一年生になったとこ」
こないだまで小学生と変わりないじゃないか。こんな子供に何ができるという目でルームミラーで晴海を観察していた。
「なんだこの子供もはって目で見るんじゃないわよ。少しわからせてやろうか」
というと久遠の頭のうしろに呪符を貼り付けた。
「なにするんですか」
「ルームミラーみなよ」
ミラーを覗き込んだ久遠はぎょっとした。
「だ、誰なんですか、その隣に座っている人というか?」
「鳴釜くんだよ。私のお友達」
毛むくじゃらで頭に釜を被った子供が座っていた。
そして呪符をはがした。
「あっ消えた。なんなんですあれは」
「妖怪だよ。何かあると警報を鳴らしてくれるの私専用の防犯ブザーよ」
「これは失礼いたしました。捜査協力あらためてお願いいたします」
「ふっふふ、いいわよ。久太郎」
にっこり笑った晴海はすっかり主導権を握ってしまった。
「ここが現場のほのぼの商店街です」
「ずいぶんさびれた商店街ね。駅から近いのにアーケードもボロボロでこれじゃ雨漏りするんじゃない。防犯カメラはあるのね」
「それで久太郎、被害にあった人たちの家は?」
久遠はメモ帳を開きへたくそな地図を見せた。
五件ほどの現場を指さした。
「近いのね。どこもこの商店街に面してるじゃない。とりあえずこのカメラの画像を見てみましょう」
「えっ、今すぐにですか。県警の本部まで戻らないと」
「いいのよ見てて」
カバンからメダルを取り出すと
「オンキリキリバザラウンバッタ」
エイとばかりにメダルを防犯カメラに投げつけた。
防犯カメラが動物のように動き出した。
「な、なんですか」
「付喪神にしただけよ」
「つくもがみ?なんですかそれは」
「疑似付喪神だけど道具が妖怪になるのよ。おい!君、映像見せて頂戴」
二人の目の前に防犯カメラの画像が浮かび上がった。
「うあ、便利ですね」
「ここの犯行現場の時間は」
メモ帳を見て
「二日前の午後八時ごろです」
「だって、その時間を見せて」
映し出された画像のアーケードの上にエロ蜘蛛男らしい人物が写っていた。
「こんな鮮明にとらえているんですね」
「久太郎、防犯カメラの画像まだ調べてないの」
「いや時間がなくてまだ」
「もうだめね。ほら、この顔」
「うわ本当に複眼だ。口には牙が生えている。手足も八本あるじゃないか」
「やっぱり、憑人、妖怪に取り憑かれた人みたいね」
「こんなことってあるんですね」
「つべこべ言わずに捜査を続けるわよ。案内しなさい」
晴海、久太郎コンビの誕生だ。