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戦闘シュミレーション

「実験!何よ。私をモルモットにするの気なの天鼓君」

 ()()というその言葉にカチンときた晴海。

「ごめんなさい。ついいつもの癖で言っちゃいましたが測定の間違えでした」

 申し訳なさそうに委縮してしまった宝蔵院。

「まあまあ、晴海様、あまり上げ足を取らないで気分よく測定しましょうよ」

「わかったわよ、久太郎、天鼓君ごめんね。何から始めればいいの」

「まずは基本の測定です。体重とか身長とか各部位のサイズなんかです。あっちの部屋でこのスーツに着替えてください」

 晴海は変わった素材でできたボディースーツを渡された。

「うわ、これ着るのちょっと恥ずかしいな」

「水無瀬さんの完璧なボディーラインにはぴったりですよ。恥ずかしがらずにお願いします。各種測定は着るだけでわかりますから」

 この前の修業で少し自信が持てた晴海は意を決して着替えることにした。


 しばらくして頭から足の先まで特殊素材タイツで覆われた晴海が現れた。

「やっぱり恥ずかしいわ。すごくぴっちりしていて」

 といいバスタオルを巻いてしまった。

「まあ、いいでしょうこちらへどうぞ」

 案内された部屋は体育館ほどの広さの真っ白な空間の部屋であった。

「では測定を始めます。久遠さんはお手伝いお願いします」

 管制室のような所から宝蔵院の声がスピーカーから聴こえた。

「まずは握力から、そこの測定器を左右それぞれの手でつかんでください」

 晴海はテーブルの上に置かれた握力計を握った。

「オーケーです。次は上体起こし、久遠さん足を押さえてください」

 敷かれたマットの上にあおむけに寝転がり足を久遠が押さえる。

 笛の音が鳴り晴海が真剣に上体を起こし上げ始めた。

 30秒が経ち再び笛の音が鳴る。

「次は反復横とびでーす」

 三本のラインを二十秒間またいだ。

「ハーイ少し休憩しましょう」

 久遠はスポーツドリンクを晴海に渡した。

「結構疲れるわね。いい数字出てるんじゃない。自信あるのよ」

「はい、平均値より少し上をいっています」

「やりますね。晴海様、何か準備していたんですか」

錫杖(しゃくじょう)を持つようになってから毎朝、十キロくらいジョギングしてるのよ」

「立ち幅とびを測定しますからどこでもいいのでジャンプしてください」

 スーツが勝手に測定してくれるようで晴海は自由に飛んでみた。

「次はハンドボール投げです」

 ころころとボールが転がってきた。

「軽くキャッチボールしましょう」

 久遠はボールを拾い晴海に投げた。

「久太郎って結構スポーツマンだよね」

「争いごとが嫌いで運動部には入らなかったけど体育の授業は好きでしたよ」

「だから草食系なのね。彼女いないでしょ」

「募集はしてますよ」

「骨董屋の銭形なんて、結構気に入ってるんじゃないの、鼻の下伸ばしてじろじろ見てたし」

 久遠はボールを受け損ね転々と転がっていった。

「ドンピシャね。今度言っといてあげるよ」

「余計なお世話ですよ。そろそろ測定しましましょう」

 久遠は期待していたようだ。ボール投げが終わると

「次は50メートル走です。そこのランニングマシンを使ってください」

「こんなに広いんだから実際に走ってもいい天鼓君」

「わかりました。ではラインを引きます」

 というと床にラインが現れた。

「久太郎、競争してみようよ」

「足には自信がありますよ」

 久遠もその気になって革靴を脱ぎはだしになった。

 宝蔵院からスタートの合図が発せられた。

「オンユアマーク」

 バーン!

 結果は10メートルほど久遠がリードして終わった。

「ほんと足だけは速いのね。少しは手も早くしなさいよ」

 息を弾ませ膝に手をあてかがんだ晴海が言った。

「次は持久走を測定しますからもう少し休んでいてください」

 スポーツドリンクを久遠から受取ベンチに座って休んだ。

 そしてランニングマシンで一キロ走ると

「水無瀬さん、戦闘服にチェンジしてください」

 やっと力を発揮できるところまで測定は進んだようだ。

「さあ、これからが本番よ!天鼓君見ててよ」

 壁にドンと手をついて錫杖を取り出す晴海、宝蔵院は身を乗り出して見ている。


 錫杖を三回打ち鳴らした。


 キラキラと晴海が輝きだす。錫杖は小さな黒い日傘へ、遊環(ゆかん)の四つが離れ手足に巻き付き、フリルのあるゴスロリの法衣へ厚底の編み込みブーツ姿へ青龍のバングルが左腕に装着された。


「水無瀬晴海!測定挑戦するわよ!」


「今日は何をしてるんでやんしょ。変なもの被ってせっかくの素敵な御髪(おぐし)が台無しでやんす」

 バットリがあらわれた。

「水無瀬さん、その蝙蝠をこっちによこしてください。いろいろ聞きたいので、測定は自動的に測りますのでさっきの順番にこなしてください」

 宝蔵院はバットリに興味を持ったようだ。

 晴海と久遠は二人で測定をこなし、50メートル走は今度は晴海の圧勝だった。


 宝蔵院とバットリが二人の近くまで戻ってきた。

「ありがとうございました。とても興味深いデータを収集することができました」

 満足げな顔で宝蔵院は言った。

「天鼓君、もうこのスーツ着替えてもいい」

「かまいませんが午後から戦闘データを取るときはまた着てくださいね」

「もうこんな時間か。お昼にしようか。宝蔵院空ご飯の用意はどうする」

「いつもケータリングでファストフード頼んでいるんですけどそれでいいですか」

「昨日の懐石料理もよかったけど、やっぱりファストフードくらいがちょうどいいわ」

 晴海はリクエストを告げ着替えに行った。

「どんな結果だったんだい」

「ランチを食べながら報告します。お待ちください」

 晴海が戻ってくると食堂まで案内された。そこは一般的なダイニングキッチンだった。

「コーヒーを入れますでちょっと待ってください」

 ポットの湯が沸くまで晴海は質問をした。

「ここって本当のお城なの」

「ええ、ヨーロッパのお城を移築しました。なぜかこんなところに住みたいと思うようになったんです。便利なように中はだいぶ改造しましたけど、まだ入っていない部屋もあるんです」

「へーでも別にお家もあるんでしょ。昨日歩いて帰った」

「最近はほとんどここで暮らしてますけど、さあコーヒー入りましたよ」

「美味しいよ、宝蔵院君、だいぶ研究したんだろうコーヒーも」

「ベトナムにコーヒー農園を作って産業を振興しているんでついでです」

「こんな城だけにお金使っているかと思ってがっかりしたけど、さすがね天鼓君、コーヒー美味しいよ」

 食堂に誰か入ってきた。

「これってロボットですか?」

 久遠が尋ねたのは縄文模様の入った土偶のような姿の人形がケータリングで届いたハンバーガーを持って入ってきたからだ。

「この城のコンピュータのAIに体作って身の回りの世話をしてもらっているんだ」

「なんだかすごいわね。このデザインは何か参考にしたの?」

「古い文献にあった姿をまねたんだ。さあ早く食べて次の測定しようよ」


 午後も同じ場所で測定が開始された。

「水無瀬さん、そのゴーグルをつけてください」

 スピーカーから宝蔵院は指令を出していた。

 ゴスロリ姿でスタンバイしていた晴海はゴーグルをつけてみた。

「すごいわ、これメタバースっていうのかしら。自然の景色が広がったわ」

「僕も付けてもいいですか」

「久遠さんどうぞ。同じ景色が見れますから」

 久遠がゴーグル越しに見た風景は実にリアリティな情景で晴海の姿はスーツもゴーグルもない、いつも通りであった。

「データにあった蜘蛛女だします。いつも通りの方法でやっつけください。ただし戦闘鬼はまだ対応できないのでなしということで」

 晴海は呪符で蜘蛛女と応戦をした。

 青龍の祠で修業をしたことで初めての対戦の時よりも簡単に勝負がついてしまった。

「すばらしいです。次は戦闘鬼、日輪さんと月光さん、召喚してください。久遠さん、二人にゴーグルを渡して装着してもらってください」

 晴海は遊環(ゆかん)にキスをして呼び出した。

「そのゴーグル付けてくれる」

 命令をした。

「次行きます。河童最強形態です」

 これまた初戦とは違い圧倒的な力で晴海が勝利をした。

「天鼓君、簡単に倒しすぎちゃった」

「いいえ、いいデータが取れました。ゴーグルをはずして休んでください」


 パッドを片手に宝蔵院が晴海に元に近寄り、あちらこちらをまじまじと眺めた。

「想定していたデータよりも段違いの能力でした。エクセレントです」

 晴海もミシエルとの修行の成果がこんなにあったのかと驚いていた。

「今日はこれくらいで結構です、今から解析をしますので水無瀬さんも久遠さんもありがとうございました」

「もう帰っていいのもう少し暴れてもいいのよ」

「いえ、もう充分です。この部屋も結構壊れてしまいましたから」

「じゃあ、宝蔵院君、僕らはこれで失礼するよ。お疲れ様」

「あっ、バットリ君は残していけないかな」

「いいわよ。バットリ、天鼓君のお手伝いしなさい」

「わかったでがんす。終わったら飛んで帰るでやんす」

「じゃあね。天鼓君がんばってね」


 晴海と久遠は寺まで帰っていった。

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