新しい仲間
「おじいちゃん!大切なこと忘れてたでしょう」
寺に帰るなり晴山に詰め寄る晴海
「はて、何のことだろううな」
とぼけた顔で首を傾げていた。
「青龍の竜宮!」
「おっ、そうじゃそうじゃ、わしは行ったことはないが、先代がそんなことを言っておったの」
「まったく、のんきなんだかボケているのか。しっかりしてよおじいちゃん、もう伝え忘れてることないの」
「ちょっとうっかりしてただけじゃよ。わしのすべてはもう伝え終わっておる」
「まだなんかありそうだけど、まあいいわ、なにか思い出したら教えてね」
晴海は部屋に入るとさっそく服を脱いで買ってきた新しい下着を身に着けた。
にやけて鏡に見いっている。
「この修行の一番の成果ね」
晴海の携帯が鳴った。
「はい、おじさま。こんにちは、なんでしょうか」
県警の舎利弗刑事本部長からの電話であった。
「はい、わかりました。準備して待ってます」
舎利弗からの話は、これから食事をしながら紹介したい人物がいるということで、久遠が迎えに来るということであった。
「おじいちゃん、ちょっと出かけることになるから一人で夕飯食べててね」
「戻ってすぐに出かけるとは忙しいのう。宿題はちゃんとやっているのか」
「それは問題ないわよ。久太郎に手伝ってもらうから」
「こら、自分でやらんか!」
「いいわよ早起きしてやります」
「すみません、久遠です。お迎えに参りました」
玄関先で久遠が叫んでいる。
「ハーイ、今行きまーす」
車に乗り込むと
「ねえ、どこへ行くの久太郎」
「県警近くの料亭です」
「あら、素敵、一度行ってみたかったの料亭」
「舎利弗本部長が大事な時に使われているお店です」
「これから会う人ってそんなに偉い人なの?」
「うちの科捜研の新人の研究員らしいよ。僕もよく知らないんだ」
「ふーん、科学捜査研究室か、難しそうな人かな」
料亭に着くと先に来ている舎利弗の部屋に案内された。
そこには舎利弗ともう一人、妙な痩せた少年がいた。
「やあ、晴海さん、突然呼び出してすまなかったね」
舎利弗が口を開いた。
「こんばんは、おじさま、かまいませんよ。おじさまのお願いなら」
「よかった、実は特務捜査課零係の発足式を開くことにしたんだ。彼は科捜研に配属された。宝蔵院天鼓君だ。この四人が零係のメンバーだ」
「どうも初めまして宝蔵院ですぅ」
小さな声で挨拶をした宝蔵院は頭の大きい丸メガネの少年だった。
「彼はまだ晴海さんと同い年だがアメリカのマサチューセッツ大学を卒業している天才少年なんだ。これから科捜研から零係専任で我々のお手伝いをしてもらうことになったんだ」
「あらすごいわね。初めまして私は水無瀬晴海、よろしくね」
天鼓は顔を真っ赤にして晴海から目をそらした。
「水無瀬さんは覚えていないかもしれませんが、同じ小学校だったんです。二年生のころにはアメリカに渡ってしまいましたが、あの頃同様まぶしく輝いていますね。こんな変な顔のやつからそんなこと言われたら気分悪いですよね。すいません」
「ごめんなさい、全然覚えてないわ。でも男は顔じゃないわよ。天鼓君はすごい才能を持っているじゃない。それを誇るべきよ。その能力はみんなのためになるじゃない」
「ありがとう水無瀬さん、昔、こんな見た目と根暗な性格でいじめられていた時にたった一人の友達の晴明君に同じようなことを言われて大学行くことを決めたんだ」
「ふーん、素敵なお友達ね。晴明君って?いたかなぁ。クラスの八雲くんってそんな名前だったっけ。まあいいわ晴海って呼んで頂戴ね。同い年なんだから」
「いや、恐れ多いですよ。水無瀬さんでお願いします」
ますます小さく身をかがめめているが、晴海に褒められて照れる天鼓だった。
「ところで宝蔵院君は何が専門なんだい」
天鼓の正面に座る久遠が尋ねた。
「M.I.T.で博士号を取ったのは、化学、物理、数学、心理学と考古学などなんですが、超常現象と古代の遺物を研究しています。それでこの仕事の話をいただいたんです」
「本当にすごいな。僕なんかがいる場所ないな」
「久太郎はいいのよ。雑用係がいないと困るじゃない」
「ひどいな。晴海様は」
「はっはっは、私はビールをいただくがみんなはお水で乾杯をして、さあ料理をいただこう」
乾杯後、懐石料理が運ばれ晴海の目が輝いた。
「素敵見ているだけで美味しそう。この茶わん蒸しフォアグラが入っているわ」
料理を満喫する晴海に舎利弗が
「宝蔵院君がぜひとも晴海さんの能力を解析してみたいと言っているんだよ。明日時間を取ってもらえるかな」
「私も詳しく知ってみたいので大歓迎ですよ。新しい力も手に入れたし」
「ほう、わしも楽しみだな。場所は宝蔵院君の研究室だ。10時ごろ久遠が迎えに行くから用意しておいてくれ」
「はい、このサーモンのお刺身、いくらが載っているわ宝石みたい」
今まで食べたことものないような和食に舌鼓を討つ晴海であった。
宝蔵院は一品一品を調べるように丹念に食べていた。
「ところで水無瀬さんはいつもその妖怪を連れて歩いているの?」
宝蔵院が晴海に問いかけた。
「見えるの天鼓君!塗壁くんは私の収納ボックスなの」
「君と同様、小さい頃から妖怪や霊が見えるんです。みんなから気味悪がられていましたけど」
「素敵だわ。私初めてよ。同じように見える人、これからも仲良くやっていきましょうね」
ますます顔を赤くして照れる宝蔵院だった。
デザートの果物を食べ料亭を出ると、舎利弗は久遠に晴海を寺まで送るように言った後、三宮の街へ消えていった。
「天鼓君も乗っていかないの?」
「僕はこの近所に住んでいるから歩いて帰るよ」
「じゃあ、明日よろしくね。お休みなさい」
手を振りウインクして久遠の車に乗った。
「おやすみなさい」
車が見えなくなるまで立ちつくす宝蔵院だった。
翌朝、時間通り久遠は晴海を迎えに来た。
「晴海様、大きなカバンを持ってますけど、泊りがけじゃないですよ」
「せっかくだから天鼓君に宿題見てもらおうと思って持ってきたのよ」
「ちゃっかりしてますね」
「いいでしょ。あなたのところの仕事が忙しいんだから」
「それはすみませんでしたね。僕も少しは見てあげましょうか」
「いらないわ久太郎の脳みそは」
と言っている間に天鼓の研究所に着いた。
「すごい!お城みたいというよりお城じゃないの警察も粋なことするわね」
そこにはヨーロッパの古城が建っていた。
「これは天鼓君の私物なんですよ」
「えー大金持ちなの彼の家」
「彼の持っている特許のおかげですよ。一つの自治体の予算並みに稼いでいるそうです」
「タイムとかの表紙飾るんじゃないそのうち」
「もうすでになってますよ。晴海様」
感心するばかりの晴海だった。
門扉が自動的に開いて車を招き入れた。
「こっちのようですね」
久遠は車を止めて大きな入口に向かった。その入り口も勝手に開き二人を招き入れた。
白衣を着た宝蔵院が待ち構えていた。
「時間通りだね。ようこそ僕の研究所へ」
「おはよう、天鼓君。どこかで見ていたの勝手に入口が開いていったけど」
「顔認証で開くようになっているんだよ。前に開けっ放しにしてたらアベックが変な施設と思い勝手によく入ってきたんで取り付けたんだ」
「こんな街道沿いに突然お城が見えたらそんなこともありそうですね」
久遠が納得したようだ。
「さあ、実験を始めようか」




