山の竜宮
空間を抜けるとそこには野原が広がっていた。
「ここはどこなの。ねえ声の人」
晴海は問いかけた。
「こっちだよ」
後ろから声がした。晴海が振りむくとそこには白鳥に似た青い髪の青年が立っていた。
「先生、いや違うわ。あなたは誰なの」
「やあ、驚かせたかな。僕はミシエル、君は水無瀬家の子だね」
「私は水無瀬晴海、満腹寺の娘です」
「永晴くんの娘さんかな」
「ええっ!お父さんを知っているのどうして」
「彼もここへ何度も来ている。十五年ほど前だったかな。厄介ごとに巻き込まれたときも」
「父さんはどうしてこの場所を知っていたの」
「あれ、伝え聞いていないのかい。ここは水無瀬家の修業場だよ」
「もう、おじいちゃん、すっかり忘れてるんだから、こんな大事なこと」
「まあこうしてこれたんだからいいだろ。修行をしたいのか?いまだ若いのにどうしてだい」
「それより父さんのこと教えてください。五年前に母さんと行方不明になってしまったの」
「行方不明なのかい。永晴くんは。心配することはないよ晴海、彼は強いから無事でいるに違いない」
「気を使ってくださって、少し安心したわ。ありがとうございます」
「それで君はどうして力が欲しいんだい」
「今お祓いしていいる妖怪がすごく強いんです。銀のメダルを使って変化するんです」
「ほう、その歳でメダルを使った妖怪を退治できるとはそれだけでもすごいことだよ。銀のメダルか一か月もあればいいかな修業は」
「一か月もここにいるんですか。外で待っている人がいるんですけど」
「ここは竜宮、外と時間の流れが違う」
「竜宮城、出るとおばあちゃんになっちゃうの」
「それは海の竜宮、この山の竜宮は一か月ここで過ごしても外では10分も経っていないよ」
「よかった。では修行をお願いします。ミシエルさん」
一礼して晴海は願い出た。
「よし、礼儀正しくてよろしい。では」
と言って指を鳴らすと晴海は体操服にジャージの姿になった。
「やだ、だっさい。こんなかっこでするんですか。ちょっといいですか。塗壁くん!」
ゴスロリ戦闘服に着替えようと思ったが塗壁があらわれない。
「どうしたんだい。ここに呼び出されたの君一人だよ」
「ちょっと戻って錫杖を取ってきていいですか」
「錫杖だって、もしかして盛俊の錫杖に選ばれたのかい。それもすごいことだよ。水無瀬家で持つことができたのは三人しかいないのに。取りに行ってきなさい」
ミシエルは空間を開いた。
晴海はいったん出た。
白鳥と久遠が驚いて
「いつの間に着替えたんだいその体操服」
「話はあとで10分ほど待っててもどるから」
錫杖を取り出して再び竜宮へ戻ろうとしたが、一か月もあそこにいると考えると
「久太郎、一万円ほどちょっと貸して」
「え、なんでですか」
「ちょっとお泊りセットコンビニで買ってくるから」
お金を受け取ると神社を出ていった。
戻ってくると久遠におつりと領収書を渡して竜宮に戻っていった。
「お待たせしました。お言葉に甘えて」
錫杖を三度打ち鳴らした。
キラキラと晴海が輝きだす。
「水無瀬晴海!修行よろしく願います!」
「へー今の戦闘服はそんな姿のかい。驚いたな。では座禅してもらおうか」
「えー座禅ですか。組み稽古とかそんなのじゃないの、せっかく着替えたのに」
「まずはチャクラを開くことからだよ。さあ目をつぶって座りなさい。七つのチャクラを開くことによって人体の生命エネルギーの中枢となる部位が活性化する」
晴海は変身を解いて、胡坐をかいて目をつぶった。
ミシエルが晴海の頭に手を当てた。
「僕が少し手助けしよう。感じるんだよ」
晴海の額にもうひとつ目が現れ体中に気が流れていった。
「よーし、そのままの状態を保つように雑念を払い瞑想しなさい」
そうして日が暮れるまで晴海は座禅をつづけた。
ミシエルが肩を叩いた。晴海は瞑想から覚醒した。
「あら、もう真っ暗そんなに座禅していたんですか」
「六時間くらいたったかな。今日はこのくらいにしてごはんにするか」
「お腹ペコペコです」
しばらく歩くと藁ぶきの民家があった。
中に入ると現代風で外見からは想像できなかった。
「あのう、先にお風呂に入りたいんですけど」
「もう沸かしてあるよ」
バスタオルを渡された。お風呂場はユニットバスであった。
お風呂を上がり家の中を見て回る晴海、台所も今風で冷蔵庫や電子レンジまであった。
「お先お風呂いただきました。でもここはどうなっているんですか。まるで現代と昔がまぜこぜになっているんですけど」
「永晴くんのアイディアでいろいろと改築をしたんだよ。便利に使えるように、電気も外からとっている」
「ごはんは自炊ですか。作りますよ」
「それはありがたい。自由に冷蔵庫のものを使っていいから」
台所を確認すると調味料などはほぼそろっていた。
「どうしてこんなにいろいろ揃っているんですか」
「趣味で料理を作ったりしてるんだ。楽しいね。ごはんの準備は一日おきでしようか」
「ミシエルさんの料理も食べてみたいわ。そうしましょう」
晴海は炊飯器をセットして、おかずを作り始めた。後ろではミシエルが見ている。
「いい匂いがしてきたな。何を作ってるんだい」
「肉じゃがです。おじいちゃんも気に入っているんです」
「楽しみだな」
そして、テーブルに総菜が並んだ。肉じゃがに卵焼き、ほうれんそうのお浸しなど小鉢をたくさん作っていた。
「明日の朝用に多めに作っておきました。
「じゃ、いただこうか」
「いただきます」
二人は夕食を取り始めた。
「美味しいよ。でも僕も負けないからね。明日楽しみしておいてよ」
「うわ、楽しみだな。ミシエルさんの料理」
「明日は本格的に修行を始めるから覚悟しておいてくださいよ」
「楽しみだわ。頑張るわよ」
そして修行初日が終わっていった。




