◆◆◆◆◆ 結
「今日は大自然の中でやんすね。気持ちいいでやんす」
錫杖の取説妖怪、バットリがのんきなことを言っている。
二人の鬼、日輪と月光はそれぞれ鉄鼠、火車と戦っている。
晴海は爆裂呪符で後方支援をしていた。
「二匹いると攻撃が絞りにくいわね。バットリ、何か策はある」
「そうでやんすね。一匹に攻撃を絞るにはどちらかを止めないといけないでやんしょ。拘束の呪符はどうでやんしょ」
ポシェットを開き呪符を探る晴海、一枚の呪符と取り出した。
傘の柄にはりつけ真言を唱えた。
「オンキリキリバザラウンバッタ、えい!」
鉄鼠に狙いをつけて拘束呪符を放った。
柄の先から無数の糸が放たれ、鉄鼠に巻き付いた。
「日輪、月光、二人で火車をとらえて」
動きを止められた鉄鼠を後目に日輪も火車の方へ向かった。
晴海は鉄鼠に向かい、解呪の呪符を貼り付けようとした途端
「滋襟、逃げるぞ」
と火車が言うと身にまとっている炎が荷車のようになった。
糸で拘束された鉄鼠を拾いあげて車に乗せ南ゲート目がけて走り出した。
晴海たちが追いかけようとすると鉄鼠が口から無数のネズミを吐き出して晴海たちに向かってきた。
「ネズミ駆除にはこれね」
今度は傘の柄に火炎呪符を張り
「オンキリキリバザラウンバッタ!」
火炎放射で迫りくるネズミの群れを蹴散らした。
すでに火車は見えなくなっていた。
「逃げられちゃいましたね。重要参考人だったのに」
「久太郎仕方ないわよ。二兎追うもの一兎をも得ずね。吐夢と滋襟ね。次に会ったら必ず仕留めてやるわ」
「晴海様、権化森のところに戻って根角のことを聞きましょう」
「そうね。あのタヌキ親父、まだ何か隠しているかもしれないわね」
二人が病室に戻ると権化森はいなかった。
「権化森議員はどこへ行った」
久遠は警備の男に聞いたが、突然発作が起きて集中治療室に運ばれていったそうだった。
「口封じされたのね。あの秘書が何かしたのかもしれないわ」
「やっと見付けた糸口だったんだけどな。寺に帰りましょうか」
「何言ってんのよ。せっかくだから泊っていくわよ。楽しそうじゃない。それに明日になれば権化森も回復してるかもしれないじゃない」
「それじゃそうしましょうか。宿泊の施設に行きましょう」
チェックインを済ませロビーで久遠と晴海は今日の出来事を整理していた。
「それじゃあ、あの二人のメダルは特別製だというんですか」
「力が強すぎるのよ。蜘蛛女や河童男に比べて妖力が桁違いに大きかったわ。普通のメダルは銅色だったけど、あいつらのメダルは銀色だった。もしかしたら普通のお祓いでは無理かもしれない」
「ええっ!そんなに強敵だったんですか」
「今の私じゃ一体を相手にするのが精いっぱいかもしれない。落ち込んじゃうな」
いつになく弱気な晴海であった。
「今日はここの温泉で疲れを癒して、美味しいものでも食べて元気になってくださいよ」
「ありがとう。その前にテニスコートがあったわね。できる久太郎」
「まかせてくださいよ。大学時代サークルに入ってましたから」
「じゃあ決まり、いくわよ。ストレス発散よ」
そして二人はテニスをしてお風呂に浸かり、夕食となった。
「一番高いメニューじゃないのいいの久太郎」
「舎利弗本部長から仰せつかっているので大丈夫です。晴海様にはいいものを食べさせてやれと」
「さすが舎利弗のおじさま」
満面の笑みでステーキを食べている。
「ごちそうさま、それじゃ久太郎お休みなさい。明日権化森から何か聞き出しましょう」
「おやすみなさい。晴海様」
次の日、病棟へ向かうと権化森は何とか回復を果たしていた。
医者からは数分の時間ならと念を押されたが聴取ができる状態の様だった。
秘書の根角滋襟は去年から選挙協力をしてくれたネオベゼルの家の猫田吐夢の紹介で権化森の下で働き始めたそうである。
ネオベゼルの家とは国有地の贈賄事件前からの付き合いがあった。
これ以上は何も聞きだせそうになかったので事務所の捜索の許可をもらい病室を後にした。
「これで少しは前に進めましたね。帰りましょうか」
「まだ、プールに入ってからよ。水着持ってきてるんだから」
「わかりましたよ。晴海様、お供しますよ」
土曜日のプールは家族ずれなどでいっぱいであった。
晴海は胸元にフリルの付いた真っ赤なワンピースの水着であった。
「やっぱり夏はプールよね。何か飲み物買ってきてよ久太郎」
「はいはい、お待ちあれ」
プールサイドのベンチに座って晴海はプールを見つめていた。
「あら、晴美ちゃん、今日はお祓いの仕事はないの」
「げっげ、銭形!」
そこにはナイスバディな。元町の骨董屋の店主、銭形響子が立っていた。
「かわいい水着にお似合いよ」
「ふん!大きなお世話よ。今に見ていなさい」
これ見よがしに胸元を強調した水着の銭形へ言い返した。
「おまたせ、クリームソーダでよかったかな」
戻ってきた久遠は銭形に気がつきその体に見とれてしまった。
「あら、彼氏なの、私は銭形響子、晴海ちゃんのお客よ」
「久遠久太郎です。別に彼氏じゃありませんよ」
「早くどっかに行ってよ」
「ごゆっくり、またお仕事お願いね」
銭形は去っていった。
「きれいな人ですね。お客ってどう言うことですか」
「骨董屋よ。商品に憑いた付喪神をお払いしてやってるのよ」
「へえ、どこで商売を」
「っもう、元町よ。早くクリームソーダ渡してよ」
かなりいらいらしている晴海に久太郎は困ってしまっていると。
二人の前をまたナイスバディな女性が通り過ぎていく。
「ハルちゃーん!どこー」
またしても久太郎がじっと見つめていた。
「もう!久太郎、どこ見てんのよ。通報されちゃうよ」
「あっ、ごめんなさい。白鳥先生が使っている。温泉旅館の女将だったんで」
「そういえば、先生は今度いつ来るの」
「7月の終わりごろにまたこちらに来られるとかおっしゃっていましたが」
「先生に相談しないとこれからの戦い方を」
「白鳥先生が捕まったらご連絡いたします」
「頼んだわよ久太郎」
晴海は次なる段階へと指南を白鳥に頼むつもりだった。




