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鉄鼠と火車 起

 担任から晴海は校長室へと行くよに呼び出され、もしかしてお祓い仕事がばれてしまったのかと緊張してドアをノックした。

「失礼します水無瀬晴海(みなせはるみ)入ります」

 そこには県警の舎利弗(とどろき)刑事本部長と坂之上(さかのうえ)校長が向かい合い座っていた。

「いや突然すまないね晴海さん、事情を校長に説明していたんだよ」

「水無瀬さん、刑事部長さんから話は伺ったよ。わが校としても名誉なことでみんなに披露したいところだが内密にということで残念なことだよ」

「校長、くれぐれもこの件は最高機密でお願いしますよ。晴海さん自身の保護のためにも」

「ところでその特別任務が何かは教えてもらえんのでしょうか」

「それは言えません。よろしくご了承ください。晴海さんが危険に及びますので」

 坂之上校長は残念そうな顔をして晴海に言った。

「水無瀬さん、事情は呑み込めた。わが校としても全面的にバックアップ体制を取らせてもらうよ。任務の際は公休として扱わせてもらうから、表向きはクラブ活動の対外活動ということにするから心得ておいてくれ」

「校長先生、ありがとうございます」

 にっこりと笑ったのは「やった、ずる休みし放題だ」と、心の中で思っていたからだ。

「くれぐれも気を付けて任務を遂行してくれることを望んでいるよ。怪我の無いように」

「それは我々も同じですよ。万全の態勢でお守りします」


「ところで水無瀬さん、今は何も部活動をしていないそうじゃないか。そこでだ。新しい部を作って部活動を便宜上してくれないかな。部室も用意しよう」

「それならオカルト研究部、作っていいですか」

「いいじゃないか、晴海さん、ぴったりだよ。校長そういうことでよろしく願います」

「ふーん、オカルト研究部ねぇ。まあいいだろう許可しよう。部の顧問は私ということで」

「ありがとうございます。でも校長先生いオカルトに興味なんってあるんですか」

「これでも大学時代はゼミで民俗学のフィールドワークをしていたからな。妖怪や民間信仰には詳しいぞ」

「へー意外、今度父の本貸してあげますね」

「それはありがたい、ゴラン書店の本だな」

「わお、やっぱり知っているんだ。さすがですわね」

「それではこの辺で失礼させていただきます。くれぐれもトップシークレットでお願いしますよ」

「任せてください。舎利弗さん、水無瀬さんも教室に戻っていいよ」

「では失礼します」

 校長室を出た晴海と舎利弗は

「晴海さん、アドレスを交換しておこう」

 携帯を取り出した待ち受けは晴海のゴスロリ姿だった。

 QRコードを表示して晴海の携帯を登録した。

「久遠が何かしでかしたらすぐに連絡をくれたらいい」

「すぐ、チクらせていただきます」

「さっそくでなんだが任務がある。詳しくは久遠が家に行くから聞いてくれ」

「はい、あっ、このあいだのお肉とっても美味しかったです。ありがとうございました」

「それはよかった。実家が肉屋でな。弟が継いでいるから遠慮しないでいつでも食べたかった言っておくれ」

「舎利弗おじさま、晴海うれしい」

 舎利弗の顔はにやけっぱなしだった。


 電車を降りて寺に向かう晴海、後ろからクラクションに鳴りふりむくと久遠が運転している車だった。

「晴海様、乗ってください。寺まで送ります」

「あら、待っててくれたの気が利くじゃない」

 晴海は後ろの座席に滑り込んだ。

「もうすぐ夏休みですね。何かご予定はあるんですか」

「そんなのあるわけにじゃない。おじいちゃんと二人暮らしなのよ。お盆は忙しいし、旅行なんていけないのよ。せいぜい友達と神戸の街まで下りるくらいよ」

「ごめんね。悪いこと聞いちゃったみたいだね」

「久太郎、どこかに連れて行ってよ。楽しいところ」

「僕なんかと一緒でいいのかい」

「もちろん、全部おごってもらうけど」

「安月給で行ける所なら大丈夫だよ。大阪のテーマパークでいいかな」

「やった―!約束よ」

「つきましたよ晴海様、中で事件のお話をしましょう」


 セミの声が響き渡ってはいるが大きな御神木と木々に包まれ境内は静寂な空気が漂っていた。

 般若心経の読経が聞こえる。満腹寺の書斎では久遠の報告が始まっていた。


「あまり気が進む依頼じゃないんだ」

 久遠の声のトーンが沈みがちだった。

「妖怪が関与しているなら仕方ないんじゃないの。で、どんな事件なの」

「民自党の国会議員、権化森(ごんげもり)喜一郎の護衛なんだ」

「なんかニュースで見たわね。贈収賄事件の容疑で雲隠れしちゃった人じゃないの」

「じつはこの近くの喜びの村の中の病院に隠れているんだよ」

「よろこびの村、温泉やテニスコートのある複合施設じゃないの。そんなところに隠れているの」

「施設の中の病院に入院しているんだ。まさか都会の大病院にいると思わせて地元の施設にいるとは考えにくいだろ」

「なんで私たちがその議員さんを守らないといけないのマスコミが探しているからならお門違いだけど」

「ところが脅迫状が妖怪メダル付きで送られてきているんだよ」

「ネオゼブルの家と関係があったの権化森議員は!」

「今、議員事務所に当たっているんだけどガードが固くてね。脅迫状の内容は”しゃべるな”だけなんだよ」

「でも、妖怪メダルの意味を理解していることは確かね」

「いまからよろこびの村へ行くから、泊りになると思うから四日分の着替えを用意してください。車で待ってます」

「明日、金曜日は学校休んでいいの、数学の授業休んでいいのね」

「校長には連絡が行っていますから問題ないです」

「おじいちゃんのご飯どうしよう」

「わしなら問題ないぞ。自分の飯くらいは自分で用意ができるぞ」

 いつの間にか読経を終えて後ろに立っていた。

「冷凍庫にカレーとかいろいろ入っているからチンしてね」


 お泊りの用意を終えてよろこびの村へ向かって行った。

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