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56話 変態、双子の違い見せつけられて嫉妬オワタ

そう言えば、『夏輝』はそこまで理々との接点はなかった。

『夏輝』はインドアだし、理々に会う機会も家族ぐるみのホームパーティーか、家でゲームしてるくらい。

『冬輝』の方が理々とは会っていただろう。

そうだ。お気に入りの公園があって、そこには小さな川があって、そこで遊ぶのが理々は好きだった。


なんで、『俺』は知っている?


俺は……。


「ふむ、その鑑定レンズは本物かい? 何故君がそれを持っている?」

「い、今は、持ってない、です……昔、知らない人から貰ったの……! でも、絶対本物よ……だって、何故かはしらないけど、その鑑定レンズを円城君が持ってた、から」

「円城? ほうほう、その子はあれかね? 更科君の画像をSNSで拡散させた」

「そう……円城君見せびらかしてたから。私も、見たの、というか、円城君が凄く見せてきたからしっかり見たんです。……その鑑定レンズ、に、小さく傷が入ってた……私が、冬輝の鑑定しちゃったときに、びっくりして、落とした、から……」

「……それを証明出来る人はいるかい?」

「いない、と思います」

「ふむ……さて、聞いてもいいかな? 更科君。君は、どっちだい?」


『オ前、どっチの、俺だ?』







あの日、俺は理々と一緒に出掛けられることに浮かれていた。

夏輝が一緒だと知って、ショックだった。

何に?

理々が夏輝も呼んだことに。それにショックを受けている自分に。

気付けば指で叩いてた。よくない癖だ。家族にはすぐばれるこの癖。

俺が苛々し始めると出る唯一俺だけの癖。

夏輝はそういうのがなかった。強いていうなら、唇を噛む癖。

我慢している時の癖。

俺にはない癖。

苛々していると我慢してる。

それは似ているようで違う。

俺は俺の思い通りにならないと苛々する。

でも、夏輝は誰かの為に我慢する。


『僕は、やっぱりいいよ』


ハッとして夏輝を見る。

微笑みながら、だけど、ほんの小さく唇を噛んでいる。普通なら見えない。

でも、双子だから分かる違和感。俺には分かる。

それに、理々が服の裾を小さく掴んでいる。これは彼女の癖。

何かに耐えている時の……。


『行こうぜ』


俺は言ってしまっていた。


『いや、でも、お腹の調子が……』

『今時、漫画でも通じねえよ。そんな言い訳。どうしてもヤバかったらトイレいけ。【鋼の勇者】の講演会、行きたかったんだろ。いってスッキリしようぜ。トイレも気持ちも』


また唇を噛む。今度は何を我慢してるのか。やっぱりトイレか。んなわけねえか。


『……わかった。行くよ。行こう。ごめん、変な時間とらせて』

『兄貴、どっか行くの?』


秋菜が奥からラフな格好で出てくる。理々を見つけると眉を顰める。


『ああ、僕達、【鋼の勇者】の講演会に行ってくる。三人で。っていうか、秋菜恰好』

『ふ~ん、私も、それ、行っていい?』

『え? でも、秋菜恰好……』

『遅れて行くから。準備時間かかるし、先行っていいよ。帰り一緒に帰ろ。どっか寄ってもいいし』


秋菜とは思えない発言。小さいときは、ちょっと出かけるのもいやがっていたのに。

一人で外に出る。何のために? 決まってる。


『いや、でも、今回のはチケットが……あ、そっか。運がいいね。秋菜、チケット余ってるよ。姉さんから貰ったヤツ』


夏輝がチケットを取り出し、秋菜に渡す。


『おっけ。じゃあ、ばっちり準備して行くから、ほんと待たなくていいから。講演会終わったら連絡するから待ち合わせで』

『はは、そんなに行きたかったのかよ』

『はあ!? べ、別に勘違いしないでよね! 無茶苦茶行きたいわけじゃあ』

『いやいや、いいって。分かるって、やっぱ【勇者】の講演会なんてプレミアムチケットだしな。行きたいよな』

『……フユ兄貴、行ってらっしゃい、がんばって。ナツ兄貴、○ね』

『なんだこの格差兄弟!?』


バタンとドアが閉じられ秋菜がいなくなる。

秋菜は俺を応援してくれている。だけど、なんだろうこの、気持ちは。

意味は分かる。


俺は外に出ることが多かった。夏輝は家にいることが多かった。

俺は秋菜が一番下で女の子で両親が可愛がるのを見て多分拗ねてたんだろう。

俺は成長するにつれ外に出ることが多くなっていった。

夏輝は外に出る回数が少なくなっていった。

両親は忙しい。姉も優秀で色んな事に挑戦していた。

夏輝が一番秋菜と一緒にいたかもしれない。


だから、仕方がないことだ。

俺と夏輝で妹の雰囲気が違うのは。

秋菜は悪くない。俺を別にないがしろにしてるわけじゃないし、むしろ、丁寧に兄として優しく扱ってくれている。夏輝には素っ気ない。

双子だからって全部一緒なわけじゃない。それが当たり前だ。普通なんだ。

なんら変なことじゃない。

姉だってそうだ。

今日出る時に、洗面所で念入りに準備している俺に、

『頑張ってね』と微笑みながら声を掛けてくれた。

俺が理々を誘いたいからとチケットも用意してくれた。

かっこいい姉だ。

そうだ。そう言えば、夏輝も姉にチケットを受け取っていた。

『あ、あの、姉さん? あのね、誰と行くかっていうと』

『興味ない』

姉は冷たく言い放っていた。興味はあるくせに。聞きたくないだけのくせに。


ウチの家族は変だ。

姉も妹もそれは兄弟に抱いていい感情じゃないだろう。変じゃないか?

でも、じゃあ、俺が今抱いているこの感情も変じゃないか?

ただ一つはっきりと言えること。

俺は、姉と妹を変えたこの男に嫉妬してるってこと。

それだけは間違いない。


御剣学園までの道中。夏輝は静かだった。

いや、ずっと多分気配を消していたんだろう。

俺と理々は夢中になってお喋りをしてたけど、夏輝はほとんど入ってくることはなかった。

ちらっと見ると、街の看板や面白い物を写真に撮っていた。

あとで、秋菜に送ってあげるんだろう。

理々も時折夏輝の方を気にしていたが、夏輝の楽しそうな様子を見て、ほっとしたように会話を続けていた。


そして、御剣学園に到着し、会場へと向かう。そこからは大変だった。


『おい、リリ。あんまウロチョロすんなよ』

『えー、だって、自分たちの行く学校だよ! しっかりチェックしておかないと! うわー、流石私立。食堂めっちゃお洒落。ねえ、甘い物食べていかない?』

『そんな時間はねえよ』

『え~、じゃあ、あとで。ねえ、夏輝も甘い物好きでしょ!』

『ああ、うん。でも、秋菜多分疲れて我が儘言うと思うから。僕はアイツ連れて帰るから二人で行ってきなよ』


まただ。


『えー、でも、憧れの御剣学園の味だよ?! 食べといて、こう入試へのモチベーションとか』

『ごめん、理々。言わなかったっけ? 僕は、四方山にいくんだよ』

『……え、なんで?』

『いやあ! 目覚めたんだよ! 僕! 実は漫画の編集者になりたいんだって!』

『じゃあ、ミツルギには? 行かないの? なんで、昔三人で約束したじゃん。二人が勇者で、私はそれを支えるマネージャーで』


当時流行ってた月曜9時のドラマで、勇者候補と普通の女の子の恋を描いたものがあった。

ヒーロー役の男が偶然出会ったそのヒロイン役の子は、家事が出来て、金銭面・健康面・精神面ありとあらゆる、戦闘以外の場面で活躍し勇者候補の男を成長させていくというドラマだ。そのドラマに影響された理々が約束したのだ。


『ごめんな。でも、僕は勇者にはなれそうにないから。だから、今日講演会を聞いて、なんかスッキリしたくて』

『……なんで編集者? 漫画家じゃないの?』

『僕の絵が秋菜と違って超絶画伯なの知ってるだろ?』

『ミツルギの普通科に行くのは?』

『ぶっちゃけ、辛いよ。なりたかったものになっていく人たちを見るのは』

『そっか』


そう、夏輝は諦めかけていた。ダンジョンでの戦いが激しくなるにつれ、どんどん夏輝はダンジョンに入るのを嫌がっていった。最近どんどん狂気の仮面道化(クレイジークラウン)の動画のアップが遅れていってるのはそのせいだ。


『冬輝は?』

『俺は、行くよ。俺は、やっぱり冒険者になりたいから』

『そっか。うん、じゃあ、二人で頑張ろう! 夏輝を悔しがらせてやろう! やーいやーい! 夏輝やーい』

『いや、まだ何も悔しくないんですけど! っていうかまず入学しろ! 願書を取り寄せろ! 出せ! そして、合格して美人の冒険者友達との楽しそうな写真を送ってきなさい! そしたら、ハンカチ噛んで悔しがってやる!』

『あははは! 変なこと言ってる~! りょーかーい』


夏輝は基本ふざけない。

冗談言う時は、大抵空気を変えたいときだ。

そして、そのタイミングが絶妙だ。

俺はほっとしたように笑う夏輝を見る。

けど、夏輝は俺を見ていない。見ているのは、俺より向こう遠くの方だった。


『うわ~ん! やっぱチケットないと入れないですよねえ~!』


大声で困っている女の子を夏輝は見ていた。見つけていた。


『どっかで落としちゃったみたいで~、なんとかなりません!? じゃあ、せめて、一目だけでも勇者様を見させてもらえません? 運命の人だったらビビッと来ると思うんで』


ショートカットのスポーティーな女の子が無茶を言っている。

ただ、本気なのだろう。涙を必死にこらえてお願いしている。

その必死さに受付の人も押され気味だ。


『あの~、もしかして、落としたのってこのチケットじゃないです?』


気付けば夏輝がその女の子に近づいて声を掛けていた。


『え?』

『いや、別にあやしいものじゃないんですよ! 実は、このチケット、それこそ拾ったものでして。ほら、僕は僕でチケット持ってますから! だから、もしかして、これそうなんじゃないかと、いや、はっきりしたことは言えないんですけど。僕も拾っただけなので!』


これだ。俺は思わず頬を緩める。兄貴はこうなんだ。

多分、兄貴はチケットを三枚姉から貰っていたのだろう。俺と、理々と、自分の分。

三枚なのに嫉妬する姉もどうかと思うが、最初に言わないアイツもどうなんだ。

で、最終的に、一枚は秋菜に。もう一枚も困っているあの子にあげようというのだ。

しかも、自分に恩を着せたくないから偶然を装って。兄貴には笑うしかない。


『違います』


え?


『え?』

『私のチケットの番号と違うので、これは私ではないです。これがなくて困っている子がいると思うんで、受付のお姉さん、預かっておいてもらえませんか?』


は?


『は?』

『は?』


全員が頭にはてなを浮かべる。いや、誰もが多分間違ってはいない。けど、違うんだ。


『拾ってくれてありがとうございました! 落とした人も同じように一度はここに来て喜んでくれるといいですね! 私も世の中捨てたもんじゃないなあと思って希望が出てきました! ちょっと探していきます!』


ショートカットの女の子が飛び出そうとするのを夏輝が慌てて止める。


『何?! なんですか!?』

『あああー! もう! これは、僕のチケットなんです! でも、余ってて! ちょっとかっこつけて気を使わせずにすめばいいなあと思って言ったんです! 余計な配慮でした!』

『え……でも、なんでチケットが余って』

『一緒に行こうと思ってたのがもう持ってたんです』

『本当に?』

『疑り深いなあ!』


二人が揉め始めると受付のお姉さんがくすくすと笑いだす。


『多分、その男の子のいう事は本当ですよ。君、更科生徒会長の弟さんよね?』

『あ、はい』

『今日学校で言われたのよ。弟が二人行くと思うので、よろしくお願いしますって。チケット手配したのも私だしね。だから、大丈夫よ、お嬢さん』

『え……ええと、よくわかんないけど、大丈夫、なんですね? うわああ! ごめんなさい! あたし! 色々疑って!』

『いや! 別に気にしないでください! 余計なおせっかいなので』

『ありがとう!』

『で、申し訳ないんだけど、君達のせいで列が止まってるから、進んでくれないかな』

『うわあ! ご、ごめんなさ~い!』


ショートカットの女の子が待っている人たちに気付き慌てて会場へ入っていく。

夏輝は事情を説明し、一旦列から離れ、俺達の所に来る。


『いやあ、マジで変なことになった。ビビった~。ごめんごめん、じゃあ、行こう』


その時の夏輝の笑顔が眩しくて俺は思わず俯いてしまった。

夏輝は本当に勇者を諦めるんだろうか。ただ、『あのスキル』なだけで。

あれだけ人をしっかり見る力があって、変える力があって、愛されていて。

正に勇者だ。

『夏輝』は勇者になるべき人間だ。


なのに、ならない?


だったら。


俺は自分の中に浮かんだ思いを必死で振り払う。

けれど、その思いは消えなくて。

そして、よりによって最悪の時にそれは膨れあがってしまう。


右半身を抉り取られた夏輝がいる。

左半身が抉り取られた俺がいる。


『夏輝』


夏輝は凄い。


『こんな時だけど、いや、こんな時だから聞いてほしいことがあるんだ』


夏輝になれたら。


『俺の固有スキルならきっとどちらかは生き残れる』


夏輝になりたい。


『俺の固有スキルは……』


夏輝に。


『【変態】なんだ』


そして、俺は、夏輝に、なった。


お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


よければよければ、他の作者様の作品も積極的に感想や☆評価していただけると、私自身も色んな作品に出会えてなおなお有難いです……。


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[一言] 夏輝であった夏輝と夏輝になりたかった冬輝…
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