52話 変態、ガイドさんに案内されてエンカオワタ
「さて、旦那様」
うあ。
「どちらから参りましょうか? 二人の手が初めて触れあった(予定)図書室? 旦那様がクラスマッチで私の為に本気を出してくれた(予定)体育館? いつも二人でお昼を食べてる(予定)中庭? ああ、でも、まずは、研究棟跡地の公園を通ってしまうルートだけはお教えしましょうか? 大丈夫です。そこを通らずとも、二人が初めて口づけした(予定)A棟屋上へは行けますから……!」
うばぁあああ!
いきなり脳内を破壊されるところだった。
俺と、ドM読者以外なら死んでるぞ。
ふんわりした金髪のまるでおフランス人形な妄想爆発お嬢様こと、御剣帆乃夏さんが微笑んでる。くそう……美人だ……!
そう、俺は今、御剣学園に来ている。
行くとは行ったものの心配性更科夏輝。
学校見学に参りました。
いきなり、妄想変態お嬢様にエンカ参りました。
あれ? もしかして、魔入りました! 更科くんになってる?
ここ、悪魔の学校?
妄想での思い出の地案内とか地獄か?
「夏輝、正気に戻りなさい」
俺を現実に呼び戻す姉、春菜の声。
振り返れば、バスガイド姿の姉。
正気に戻るのあんたや。
どうにもウチの家系はクレイジークラウンだのコスプレだのアニメキャラだの演じるのが化けるのが好きなようだ。
もしかしたら、アイツもそうだったんだろうか……。
「というわけで、御剣さん。今日は姉と一緒なので大丈夫です。ありがとうございます」
「そうでしたか……。でも、御剣への入学を前向きに検討してくださっているようでうれしいです。貴方にとって素敵な学園生活が送れるよう、現生徒会長である私が全力を尽くしますわ」
「その意気よ。御剣生徒会長」
「ありがとうございます。更科元生徒会長」
どうなってやがるこの学校は。変態しか生徒会長になれないのか。
現生徒会長と、二年前の生徒会長……去年の生徒会長にエンカしないことを願おう。
御剣さんが本当に所作だけはマジで美しすぎる上にまともで、とっても優雅に去って行く。
金持ちで美女で性格も一部を除き完璧。その一部が全てを台無しにするというパワーバランス。
恐るべきHP(変態パワー)!
それはさておき、今日は姉が親友と一緒に学内を案内してくれるそうだ。
週末ということもあるがあっという間の段取り、流石は元変態生徒会長である。
そして、気合が入っている。バスガイドからしてもお分かりだろう。
俺も平日しっかりお休みさせていただいたので、元気だ。
ちょっとバスガイドと妄想で削られたが、まるまる治療の為に平日全部休みだったから元気だ。
とはいえ、もう去る学校だけど、少しは寂しいものがある。
理々は、元気だろうか。
治療院を退院してから、自宅療養中もウチに来ることはなかった。
いや、まあ、来るはずないか。
何考えてるんだ俺は。
「ごめんごめん! おまたせー!」
明るい茶色ポニーテール美人が大きく手を振りながらやってくる。よし、貴様も変態だ。そうに違いない。
「ごめんね、春菜。お詫びに、靴、もしくは、身体なめようか?」
よし、変態だった。
早かった。最速判明で気持ちがいい。
しかも、矢印が姉だ。
「舐めてもいいけど、舐めたら私に夏輝を舐めさせてね」
なんでやねん。
「いいよー」
なんでやねん。
「まったく、こんな大事な日に遅刻とかふざけてるの?」
「あははー、ごめんごめん! 弟くんの目を盗んでいちゃつくポイント考えてたら朝だった」
なんでやねん。
だが、それでいい。
「ていうか、弟くん! ありがとう!」
なんでやねん。
ほぼ初対面ですよね。
「弟くん案内するんならバスガイドとか弟くん喜ぶんじゃない? って言ったらほんとにバスガイドの格好してくれたんだもん」
なんでやねん。
これ、あんたの差し金かい。
「正面ごらんください、姉です」
知っとるわい。
「ああ、ごめんね。アタシの自己紹介がまだだったね。三条翼、あなたのお姉さんの特別な人よ」
「ありがとうございます」
私は偏見を持ちません。どうぞお幸せに。
「んん~、いいのかにゃ? そんな態度で」
「え?」
「キミのお姉さんをごらんくださ~い」
耳元で囁く美人ASMRにゾクゾクしながら姉を見ると何かを書いていた。
とても達筆に書いていた。達筆過ぎてワシには読めぬ。
「あれはね、夏輝に気にしてもらえる為の案って書いてあるの。それでね、一番上が、セクシーポリ……」
「助けてオマワリサーン!」
「あははは! いやあ、おっかしい。本当に春菜ってあなたに構ってもらえないだけでああなっちゃうのね。いやあ、いいもん見たわ」
「学校では違うんですか」
「ああ、ああいう案のリストは見せてもらうけど、実際に書いてるトコロを見るのは初めて。あんなに必死な顔で書いてるんだって知って……あっはっは! やっぱ春菜って変!」
「翼……笑い過ぎよ」
姉はひとしきり書いて落ち着いたのか、立ち上がって三条さんを窘めるような目で見る。
「あ! 生徒会長だ~!」
遠くから部活中だろうかランニングしてる女の子達が声を掛けてくる。
「元よ。貴方達、探索部の子ね」
「はい! さっすが、元生徒会長! 覚えてくれてたんですね」
「勿論よ、探索部には沢山助けられたからね」
「えっへへ~、そういってくれると嬉しいですね~。あ、元副会長も!」
「おいっす~!」
「ところで、元生徒会長、なんでバスガイドの恰好を?」
「弟を学校案内しようと思って」
「それでバスガイド!? あははは! 生徒会長おもしろ~い! あ、いけない! じゃあ、失礼します!」
「部活がんばって」
姉が小さく手を振って女の子達を見送る。
これである。
例えば俺のような冴えないのがバスガイドの恰好をすればどうしたはしゃいでんのかすべってるぞとなる。だが、姉のような美人がやるとお茶目になるのだ。やってらんねえ。
冴えない冴えるの前にお前がバスガイドかよって? うるせえ。今はそういう話じゃねえ。
ともかく、才色兼備の姉がやるとなんでも様になるのだ。
「夏輝、喉乾いてない? 一口だけいる?」
何故一口なのか? 才色兼備の姉がやるとそんな疑問を挟む余地もない。
一口でいいじゃないか。飲まんけど。
「さあて、んじゃ、いこっか?」
三条さんに促されて俺達は歩き出す。
「今の探索部って? 探検部みたいな」
「あっはっは! 違うよ、弟君。ここは冒険のミツルギだよ? 探索部は探索スキルを高める為の部活なのさ」
「翼、今日は私がガイド。貴方は補佐でしょう?」
「……弟君がいるとこんなにひどいのね。よよよ……ガイドさん、どうぞ」
「おほん、いい、夏輝。御剣には冒険者育成の為の部活があるの。大別する時は、運動部、文化部、冒険部に分かれるの。で、その部でも兼部が可能。だから、人によっては、甲子園を目指しながら、冒険者志望でスキルを高めている子もいたわ」
「そんなの出来るの?」
「まあ、アメリカとかじゃあ、兼部なんて元々普通だったし、甲子園に行く為の練習が結構冒険にもつながるとか……どう、ですか? ガイドさん」
「そうね。スキル習得を含めて、冒険者になる人間は幅広い知識や能力を持っていた方が自由度が上がるというデータが学会で発表されたとウチの大学院の先輩も言ってたわ」
「先輩?」
「夏輝探知アプリ作った人」
ソイツゥウウウウウウウ! だれか、知らんがソイツめぇえええ!
「お? 弟君? 神辺先輩に興味津々?」
「っていうか、その頭脳を無駄な所に使わないで欲しいと言ってほしいです」
「直接言いに行く?」
「……なんか、誘導しようとしてません?」
「そんな事ないよ~。ねえ、春菜」
「え、ええ、じぇんじぇん、しょんなことないわ!」
「姉がバレバレの嘘ついてるんですけど」
「マジで弟君の前ではこうなのね……ああ、そうなのよ! 神辺先輩がね! 君に興味を持ってて! 是非会いたいって! 凄い人なんだよ! 魔術アプリも最新のものはかなり神辺先輩の発明だし」
なるほど……天才か……変態の匂いがするな。
「そんなに会わせたいってことは何か取引とかしてるんじゃ」
「いやいや、神辺先輩が興味を持つって珍しいから……」
「姉さん」
「み、右に見えますのは、ワタシのし、親友でし」
「三条さん」
「……親友って言ってくれたから満足した。まあ、そうなのよ。それぞれちょっと報酬をね。ただ、行かなくてもいいよ、これはマジで」
三条さんの表情が変わる。真剣だ。
神辺先輩とはそんなに危険な人なんだろうか。
「実はね、神辺先輩のいる研究棟の目の前が、御魂公園なのよ」
ああ、そういうことか。だから、行かなくてもいいと。
それを聞いて、俺は行くことにした。いや、行く理由が出来てほっとしているのかもしれない。
「いきます」
「夏輝……大丈夫?」
「心配してくれてありがと、姉さん。でも、行かないと」
二年前の大発生が起きたあの場所に。
俺達、兄弟の別れの場所に。
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