51話 変態、あやしい勧誘されて動揺マジオワタ
「御剣学園に……?」
「はい」
東江さんは真っ直ぐ俺を見て言う。
「なん、で……?」
「失礼ながら、狂気の仮面道化様の、いや、更科夏輝の話をみんなから聞かせてもらいました」
東江さんはアホ達を見ながら口を開く。
「これは私の勝手な意見です。生まれながらに罰を受けなければいけない人生なんてくそっくらえじゃないですか?」
なんのはなしだ? 彼女は何を言っている?
「勝手な推測です。更科夏輝は【変態】という固有スキルを持って生まれてきた以上、異常者として生きなければならないと思っていませんか?」
ん? なんだ……なんだろうか……コレは。
「そして、異常者として生きる以上、世界を乱す存在である以上、罰を受けるべき存在であると考えていませんか?」
コレは俺の話だ。だけど、オレの話なのか?
「自分は苦しむべき存在で、嫌われるべき存在で、死ぬべき存在だと考えていませんか?」
俺は、おれは、オレは。
「もっとシンプルに言います。自分は変だから死にたいと思っていませんか」
…………そうだ。たぶん、そうだ。
俺は、思っていた。ずっと、思っていた。
変態なんて気持ち悪い。死ねばいいのに。
って思ってた。でも、
「でも、変だから死ななきゃいけないなんて納得いかないでしょう!!!!」
そうなんだ。俺は死にたくなかった。
誰かに。
「私は、捨て子でした。しかも、ダンジョンに捨てられて。親も多分モンスターなら食ってくれる。消えてくれると思ったんでしょうね。私は、親ガチャでいうなら最低ランクでした。そんな最低の血を引いてダンジョンで育った女なんてもう最低の最低じゃないですか」
東江さんは、涙をぽろぽろ零しながらそれでも必死に話を続けた。
「その上、精霊に育てられて魔力の影響で髪が真っ青になって、私、自分変だなって変なのに生きてるなって……友達も一人しか、一人だけどおってくれて……友達も変な奴扱いされたけどおってくれて……私とずっと一緒にいてくれて……!」
東江さんが震えながら話し続ける。そこに一人の黄色髪の女の子が近づき手を握る。
彼女が東江さんの親友なのだろうか。
「ウチが青やきん、まっ黄色の髪にしてくれて……でも、そんな迷惑かけてまでええんかなって思って……うど、うどんも、ウチが考えたせいで、あかりまで悪口言われとるみたいで……!」
その時、どん! という音が鳴り響く。
あかりさんらしき黄色髪の女の子が思いっきり東江さんの背中をぶっ叩いた。
東江さんも目を真っ赤にしたまま見開いている。
「言いたいこと脱線しとる。あんたの悪い癖よ。今、言いたいこと言いまい」
あかりさんの言葉に東江さんが笑う。
そして、俺を見て言う。
「私は! 貴方の言葉で救われました! だから、貴方が少しでも困っとるんなら力になりたい! そんで、御剣は絶対に夏輝の居場所にウチがするからはよ来まい!」
隣から壁ドンされないかな?
こんな時も俺は変な思考に走ってしまう。
分かってる。逃げてるだけだ。ふざけた考えでうやむやにして考えるのをやめたいだけだ。
やめて、楽になりたいだけだ。
今は、違うだろ。
「あの、」
言葉が出ない。俺は、ずっと、臆病なままだ。
「ああ、『来まい』って来なさいって意味ね。香川の方言。来なさいって言ってんの。うちの親友が、断らんよね?」
無邪気な笑みであかりさんがこちらを見てくる。
いいコンビだな。
俺の肩の力が抜けていく。
「ありがとう、ございます。でも、御剣にって……」
「はいは~い。そこからは私が説明しちゃいましょう」
金と黒の左右ツートーンの【聖魔女】星名光が手を挙げてやってくる。
「ナツキくんは、教会ってどういうイメージですか?」
「ええと、なんか、荘厳? 静粛? 神聖? 固いイメージというか」
俺はしどろもどろになりながら答える。下手に答えると大変な事になるかもだし!
「うんうん、そうですね。まあ、私の所は実際とてもおかたいです。私もこの髪にしたら死ぬほど怒られて修行と言う名の拷問を受けました、うふふ」
自分の髪を指さしながらあっけらかんと答える彼女。
けれど、彼女の実家の教会はテレビにも出たことあるから知ってる。めっちゃ厳しい。
拷問って……。
「では。学校ってどういうイメージです?」
「あー……」
困ったな。
「きっと、良くないイメージでしょう?」
「そう、ですね」
「それはね、多分、ナツキくんが、自分を変だと思ってるからだと思うんです。学校って色んな子がいるけど、当然まだ弱い子達ばかりだからグループを作るし、上下をつけて安心したがるんですね。でも、変であれば既にハンデ持ちな雰囲気ですよね。だって、グループというのは同じであることが基本なんだから。そして、出来るだけ自分のグループを大きくしたいから、変なのは入れたくないし下にしたい。自分を正義にしたい。まあ、この辺はどんな分野でも同じですね」
光さんはぽんぽんと軽そうに喋るが俺の腹の中にはズシリと重たいもんが乗っかっていく。
「でも、じゃあ、変が普通の学校なら、どう?」
綺麗な指を一本ぴんと俺の目の前に立てて光さんが笑う。
指がちょうど髪色の分け目に重なり、金と黒の光さんに見つめられる。
「御剣はそういう学校なの。変であることが前提。まあ、だから、ちょっと、教師もヤバい人が多いんですけど、それはまあ、ある程度のチツジョには必要ですから」
なんかしどろもどろになり始める。いや、こっちも不安になるんですけど。
「とにかく! 私はキミならあの学校を楽しめると思ってるんです! そして、私もキミと楽しみたいと思ってるんです! だって、キミは私に笑うことを教えてくれたから」
強引に俺の手を取りにかっと笑う光さん。
この人が笑うことを知らなかったなんて信じられない。
そして、それを狂気の仮面道化が教えたなんて……いや、まあ、ある意味笑えるか、あれは……。
俺が喉元までせり上がってくる己の黒歴史をごくりと飲み込むと、膝を抱えて俺をのぞき込んでいる【神の子】鈩君が視界に入る。
「僕はですね~、まあ過疎化のひどい地域で生まれまして~、まあ、村的なところだったんですが、うちはいわゆるよそ者だったんですね。で、村八分っていうんですか、まあ、そんな風な扱いを受けまして~、でも、僕が固有スキル【神託】に目覚めてからは、手の平返したように僕と僕の家族を崇め奉りまくりまして、でも、子供は分かんないじゃないですか。なんでいきなりアイツだけ贔屓されたのかみたいな。で、学校では超村八分になりまして、不登校になったんですね。神の言葉は聞けても友達は出来ないんですよ。いやまあ、神託通りにすれば出来たらしいですけど、それって本当に友達? みたいな」
のんびりした口調で鈩君は話してくれるが、実際は壮絶だったんだろう。目の奥にはどろりとした感情が渦巻いているように見える。
「そんな時、父がネットを薦めてくれて、顔の見えない友人ならって。んで、知り合いとかいっぱいできたんですけど、なんか、ちょっと、違うなって。そんな時に出会ったのが君だったんだ~」
鈩君は俺を見る。さっきとはまったく違う澄んだ瞳。
確かに、こんな瞳なら神が宿っていてもおかしくないかも。
「僕は狂気の仮面道化に夢中になった。同じように夢中になった人たちと話をした。なんにも生産性のない話を延々とした。人からすれば下らない時間。ただただ純粋に笑いあう時間、世界。そう、世界。そこに僕の欲しい世界はあったんだよ。ただただ馬鹿馬鹿しくも一生懸命生きる世界。その世界を作ってくれたのが君だから、やっぱり君は僕の神なんだ」
狂信的とは言えない穏やかで柔らかく落ち着いた声。
身体に沁みていくこの感情はなんだろう。
「僕はね、神をしあわせにしたい。いや、一緒にしあわせになりたい。神と素敵な世界を作りたい。だからね、一緒にやらない? 僕たちの世界創造を」
みんな、厨二病がひどすぎる。
そんな臭い事ばっか言って異臭騒ぎが起きたらどうすんだ!
臭いが目と鼻に沁みるんだよ。
俺は、俺だけが不幸だと思っていたのかもしれない。
けれど、みんな何かを抱えてて、同じように、いや、俺以上に苦しんでいる変な人たちがいたんだ。
知ってたけど、知らなかったんだ。
「でも、」
「夏輝! 俺達ももう転校するって決めたからな! な! いいんちょ!」
「ああ、もう後戻りは出来ないな……!」
アホと眼鏡がここぞとばかりにやってくる手に持ったピッツアを寄越せ。
「あえて言ってやる! お前の為に転校する! 俺の親友に青春を楽しんでほしいから俺達は転校する!」
「……あ、う、お、おう! その通りだー!」
いう事全部言われたのか眼鏡。
んで、ピッツアくれんのかよ、お前ら。
んで、ピッツアで乾杯って……おい。
「ナツ……」
振り返ると、いつの間にか氷室さんが居た。
憑き物が落ちたように穏やかな笑みでまるで女神のようだった。
「なんで自分ばかり恵まれてしまっているのだろう。いいのだろうか、と考えているな。いいんだよ。これがお前が、【変態】のお前が必死に自分と戦ってきた結果なんだよ」
嫌だった。
嫌だったんだ。
変態なんて。
なんで俺だけ。
凄いスキルとか関係ない。
俺は、普通でよかったんだ。
普通に家族と一緒で。
普通に友達と一緒で。
普通に恋人と一緒で。
一緒が良かったんだ。
でも、違ったんだ。
おれだけ
おれだけ
おれだけ!
おれだけ!!!
俺は俺を殺したかった。
消したかった。
なくしたかった。
変態なんてヤバい存在じゃない。
みんなと一緒にいていい俺が欲しかった。
俺は俺が嫌いだった。
でも、
でもみんなは?
いや、みんなじゃない。
父さん母さん姉さん妹、冬輝、そして、此処に居る、此処に居てくれる人たちは?
俺は……誰なんだ?
違う。
違う!
聞くな。決めろ。自分で決めろ。
周りに従うだけの普通は嫌だろ!
俺はひとりだ! そう、みんなと同じ、たったひとりの俺なんだ!
「お、れは……みんなと一緒に、居たい……! 俺も、行くぞ。御剣に……!」
歓声。だけど、それは大騒ぎではなく、小さな、柔らかな、安堵と慈愛に満ちた声だった。
「おい、こんな時どんな顔したらいいか分からないだろう? 笑えばいいと思うぞ」
「……見たんですね」
「友達だからな」
笑ってしまった。不覚。
そうだ。氷室さんと話したあの時言ったじゃないか。
取り戻そうって。
俺も俺を諦めない。
俺の青春ってやつを。
「ありがとう、レイ」
「「「「「「「「「「レイ?」」」」」」」」」」
あ、やべ。
「さっきから気になってたんだけど、ねえ、夏輝。アタシの事愛さんって言うよね? でも、氷室さんのこと今なんて言った? レイ? んで、氷室さん夏輝のことなんて言った?」
「ナツって言ってた……! あにがいつの間にか露出痴女に好感度上げられてあだ名呼びに……やだー! うえーん! あに、いっしょにおうちかえろー! もう決めた! ツーショをとる! ツーショとりまくるー!」
「夏輝……ハルって呼んでいいのよ? わ、わたしだってその気になれば肌色くらい、う、うぅうう~で、できないぃいいいいい! 恥ずかしい! 恥ずかしい!」
「わたしのことジュリジュリってよんでください。おねえちゃんにあげたのよりもっとすごいのを着ますから! ケモミミもつけます!」
「ウ、ウチは狂気の仮面従者とお呼びください!」
「あーはっはっは! 負けメス犬共め! 私が一歩リードだ! あだ名は友達の証だからな! いえーい! ずっともずっともー!」
「おい! 夏輝、おれもあだ名で……いや、待て……もしかして、アホは、あだな、なのか?」
「眼鏡、いや、狂気の眼鏡? なんでもいいあだ名を僕に刻んでくれ!」
こうして、狂気の仮面道化復活の祝祭は終わっていく。
『人は誰も仮面を被り生きている! 日々を平穏に過ごす為に妥協の仮面を……だが、私は! ならば、私は! 狂気の仮面を被り、この狂った世界を壊し尽くす! 狂気の仮面道化! クレイジークラウンだ!』
おい、映像止めろ。
そして、俺とクレイジークラウンの復活が、ここから始まり動き出す。
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育成組話をギリギリまで削りました。十二人の話をいつか出来るのか出来ないのかたぶん出来ないのだ……!
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