50話 変態、黒歴史の会に出席させられてライフゼロオワタ
【風鬼の谷】
A級ダンジョンではあるが、モンスター自体のステータスはB級下位と言える。では、何故A級なのか。
答えは簡単。環境がA級上位なのだ。
至る方向から常に変化し続ける風が吹く谷。
ぶっちゃけ、進むだけで地獄。
更に、そこに風鬼が現れるから厄介極まれり。
風鬼は鬼族にしては細身で力も弱い。
但し、手足が異常に長くすばしっこい。その上、その長い手足についたエラみたいな穴から風を噴き出し、跳ね回る。
また、その腕自体が風を感知するセンサーのようになっていて、アイツらだけ風に乗って移動するのだ。
そして、風鬼達は冒険者を谷底に落とせば勝ち確なので、圧倒的に冒険者不利。
日本の五大嫌われダンジョンの一つだ。
そんな【風鬼の谷】で暴れる病人が一人。
「はっはっは! コバエちゃん達、そんなに群がるなよ。……潰したくなるだろう」
黒い仮面に紅い鎧。厨二病患者狂気の仮面道化である。
狂気の仮面道化は、自分を睨みつける風鬼達を意に介さず悠然と歩みを進める。
それが癇に障ったのか風鬼達は、一斉に風をまき散らしながら襲い掛かる。
「お前ら、とぶんだよな? 奇遇だな、私もだ……!」
紅の蜥蜴飛蝗の脚に魔力を込め、跳ねる。
本物のクリムゾンリザードホッパーであれば体重の関係でうまく跳ねられないかもしれないが、狂気の仮面道化はそんなの関係ねえとばかりに真っ直ぐに跳ね、正面から襲い掛かろうとした二体の風鬼を抉り殺す。
地面にとんと足を付き振り向くと、風鬼達に動揺が走っている。
「おいおい、まさか逃げるんじゃないよな? 逃げてもいいけど、お前らの魔力、私に寄越してからにしてくれよ……!」
風鬼達は不穏な空気を感じ、更に上へと昇り退避しようとするが、それよりも早く狂気の仮面道化が空へと辿り着く。
「平伏せ、化け物ども。私こそが本物の化け物だ」
無数の蜘蛛糸をばら撒き風鬼達の動きを封じる。
そして、その一体に抱きつくと狂気の仮面道化は囁く。
「安心しろ、私は君たち化け物を愛している。だから……一緒にこの世界を壊そうじゃないか」
そう言いながら、狂気の仮面道化はカメラに背を向け風鬼の一体を抱きしめ続け、そして、最後にはぐしゃりと音を立てて潰してしまう。
「ハッハッハ! 今、彼は私と一つになった! さあ、同胞よ、殺しあおうか」
狂気の仮面道化の腕にエラのような穴が生まれ、風が吹き出す。
そして、自由自在に跳び回る紅い悪魔は、風鬼達を蹂躙した。
ででん!
音が鳴る。そして、映像が止まる。
「問題。この時の狂気の仮面道化の決め……」
ピンポン!
「はい、東江!」
「決め台詞は何? で、『恥じることはない。私が風よりも自由だった。ただ、それだけのことだ』」
「……正解! これで決定! 優勝は、東江!」
「つえー!」
……俺は何を見させられてるんだろうか?
垂れ幕に書かれた『狂気の仮面道化復活の祝祭』。
そして、お菓子とジュースとピッツアで盛り上がる若者達。
俺の周りで手を合わせる子、感動して泣いてる子、じいっと見つめる子。
デッカイ画面に流れる俺の黒歴史。
おれはなにをみさせられてるの~?
青髪の美少女が満面の笑みで駆け寄ってくる。
「狂気の仮面道化様! 私、優勝です!」
「あ、ああ、うん。おめでとう」
「……! やばあ……めっちゃ泣きそう……!」
なんでよ。
「わかるー! うらやましー!」
なんでよ。
二位の【聖魔女】が悔しがっている。なんでよ。
「まあ、でも、グランドチャンピオンの鈩君が相手だったら分からんきん、ウチ、ほんまラッキーだったわ」
【神の子】グランドチャンピオンなの?
なんでよ。
何回やってんのよ。
「いや~、正直、神の御前で冷静に判断できたかどうか……東江凄いよ~」
なんでよ。
【神の子】だよね?
俺、神なの?
俺の子?
なんでよ。
認知しないぞ!
「更科夏輝クイズならかてるのに……!」
「部位匂いあてクイズなら勝てるのに……!」
「はナマナクイズか、高校生活(夏輝)限定クイズなら勝てるのに……!」
右から、変態妹、変態嗅ぎ狼、変態自称幼馴染。
「いやー、見てるだけで楽しかったわ! ピッツアうめえ」
「く……四位か、僕もまだまだだな。ピッツアはうまい」
「夏輝のピッツアの耳……!」
左から、アホ、眼鏡、何故いる姉? っていうか、眼鏡お前四位かよ。
今までの経緯をまとめるとこうらしい。
まず、ほとんどが狂気の仮面道化のファン。なんでよ。
残りもほぼ布教完了。なんでよ。
で、元からファン達は、鈩くんの立ち上げた『くれくらくらぶ』のメンバー。なんでよ。
ちなみに、くれくらくらぶのらぶはLOVEもかかってるらしい。なんだってよ。
『くれくらくらぶ』は読んで字の如く狂気の仮面道化のファンクラブ的なものらしい。なんだよ。
くれくらくらぶのメンバーの何人かが氷室さんから育成組の声を掛けられていた時に、『くれくらくらぶ』に激震走る。なにがよ。
古参『フールズ』君(古巣)の生配信でクレイジークラウン登場。なんなんだよ。
沸きに沸くくれくらくらぶ員。なんなんだよ!
そして、突然の引退宣言。
くれくらくらぶ員は、クレイジークラウン様がいなくなる前に見つけ出す為に、氷室さんの育成組に賛同。上京。なんでよ。
んで、御剣学園で例の妄想暴走モンスターお嬢様(35話参照)にSNSで今話題の固有スキル【変態】がクレイジークラウンなのだ(妄想)と聞く。なんでよ。
そこで伝言ゲームの恐ろしさ、俺が自分で名乗っているということになる。まあ、そうだよ。
自称クレイジークラウンめ、となる。なんでよ。
目の敵。
勝負を挑む。
マジくれくらだった。
土下座からの、崇拝。なんでよ。
「いや~、でも、本当に感動です~、神に会えるなんて~。僕なんて、【神の子】になった後に、くれくら様に出会って、言わば宗旨替えしましたからね~」
なんでよ。
神様、すみません。
「私も、家が教会で、上の姉三人みんな【聖女】だったんですけど、私だけクレイジークラウン様のお陰か【聖魔女】になれましたからね」
なんでよ。
教会及び家族の皆様すみません。
聞けば、大体のメンバーの人生を厨二病で狂わせていた。
マヂごめぇん……。
「ウチも……」
「東江さんも?」
「狂気の仮面道化様、コーソンのうどん食べてみた動画って覚えてます?」
オボエテイル。
コンビニの○ニメイトこと、コーソンは、SNSで話題になる商品を出しまくっている。
その中で数年前に出たうどんを俺が食べ、動画としてアップしたのだ。
冬樹の大反対を押し切ってやった動画だったが、改めて見てすげー滑ってた。
「狂気の仮面道化様の口元が映ったことで話題になった動画でしたが」
そうなんだ。一部でダヨネ。
「その、うどんの発案者がウチと友達で……」
そう、それは高校生のアイディア飯という募集企画で生まれた問題作だった。
その商品の名は『すうどん&すむすび』。
すうどんと具なし味なしのオンリー米おむすびだ。
賛否両論でめちゃくちゃバズった。
「ウチ、地元で学校帰りで食べよったおばちゃんのうどん屋のメニューみたいなのを友達と一緒に考えて……でも、なんか思った以上に叩かれて……!」
そうネット上では『狂ってんのかwww』とか『JKが考えたのがコレとか世も末』とかかなり否共に叩かれ、賛の方もあざ笑うような称賛だった。
俺はネットのこういうのが嫌いだった。
自分の【変態】がネットで曝されたらという恐怖もあったからだろう。なので、俺は精一杯この商品を応援した。
っていうか、200円でうどんとおむすびってめちゃくちゃ最高だった。
コメントでは結構同意してくれる人が多くて嬉しかったのは覚えてる。
まさか、それが東江さんのアイディアだったとは。
「ウチ、それまで狂気の仮面道化様のこと知らんで……でも、それ見て……めっちゃ嬉しくて……ファンになって動画も穴あくほど見ました!」
そっかあ、その位好きなんだあ……道理で、この部屋なわけだ。
等身大クレイジークラウンパネル、自作のクレイジークラウンTシャツ、ポスター、ブロマイド、抱き枕、仮面、鎧(ボード素材)、くれくらスクラップブック数十冊、うちわ、名言千社札、あと、天井の壁紙? もくれくら仕様。あと、全体的に漆黒と紅カラー。黒と赤じゃない。漆黒と紅なんだ……!
うばぁ。
「狂気の仮面道化様、お願いがあります」
真剣な眼差し、もうこれ以上ナニヨ!
夏輝のライフはもうゼロよ!
次回、更科死す! よ!
「御剣学園に来てくれませんか?」
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