30話 変態、自慢マンに脅されてブチギレオワタ
『お前もお前の家族も滅茶苦茶にしてやるからな!』
円城はそう言った。
「円城」
俺は努めてにこやかに声をかける。
しかし、円城は化け物をみるかのような目でこちらを見ている。心外だ。
「お前は、自分の吐いた言葉がどうなるか分かっただろう? その上で、お前は言った」
言ってしまった。
「覚悟は出来てるよな?」
マジで。
「あーあーあー」
「お、おい、更科は怒っているのか?」
「おーう、委員長も覚えておいた方がいいぜ。アイツの家族愛は変態レベルだってな」
失礼なこと言うな。アホ。誰が変態だ。俺が変態か。
ただ、そんな家族愛なんてたいそうなもんじゃない。
ただ、ちょっと腹が立っただけだ。
だから、円城。
「お前、潰す」
「潰す? はははは! や、やってみろよ! それより先にオレがお前を潰してやる! もっと金出して、もっと強いやつを数揃えて、お前も家族もボッコボコに……! 結局最後には金だろ!」
「どう思う? アホ」
俺は円城の自慢が始まりそうだったので、アホに話を振る。
「ん~、節約した方がいいんじゃね? だって、お前これからキングボン〇ー生活だぜ?」
「は?」
「だって、ネットでもテレビでもこんだけ叩かれて身元も明らかになったらお前の家の会社だってすぐバレるだろうし、信用ガタ落ち、売り上げ急降下、会社倒産じゃね? ウチも、昨日の件があって即時提携解除に動き出してるし」
「ウチ……あ!」
え? 今思い出したの? 円城。
アホの家は魔法武具のメーカー、マギア・アーツ『フールズ』だ。
元々は刀鍛冶だったらしいんだが、アホのおじいさまの打つ刀がアホほど高い魔力伝導率であることが発見されたこと。刀剣がイケメンなアレの波に乗って大儲けした商才ありまくりのアホのお父さんが古き良き日本の技術を持つ職人を集めて職人集団と企業を立ち上げ、今や押しも押されぬ大企業だ。なお、マギアアーツはフールズが使っている魔法武具の名称で、一般的にはマジックアーツと呼ばれている。
円城の親の会社は魔法『道具』を扱う会社だ。何かしらのつながりがあってもおかしくないか。
「それに、昨日の件は僕が包み隠さず話したから、恐らく君はしばらくの間、冒険者になれないから一攫千金を狙うなんてことも出来ないし、君も分かっているだろうが、学校での立場はないから助けてくれる友人もいないぞ」
委員長が眼鏡をクイしながら口を開く。
ダンジョン研修での失態は恐らくウチの学校で過去最低くらいのものだったんじゃなかろうか。そういう人間は、一定期間冒険者資格試験を受ける権利を失ってしまう。
「そ、そんな……お、オレとダチの証言は……」
「お前らの発言と委員長の発言だったら、みんなも先生も委員長の発言信じるだろ? 日頃の行いだな」
俺がそういうと円城は項垂れ、眼鏡は眼鏡をすっごいクイクイし始める。
円城の『自慢』が音を立てて崩れ落ちていく。
金、家、友人、立場、奴の自慢の元がどんどんと失われていく。
「どうした? お前の自慢は、お前の周りにあるものだけかよ。それがなければお前は何もないってことなのか? 悲しいやつだな」
「く、くっそー――!」
円城が殴りかかってくる。
暴力で解決しようとするのはよくないとおもいます。
俺は身体をあえて【変態】せず、円城の攻撃を受け止める。
「ぐっ……!」
円城が呻きながら拳を抑えている。たぶん殴り方を間違えたのだろう。身体強化魔法に頼り切ってる証拠だ。
「お前の自慢は、お前が努力して勝ち得たものがない」
円城の攻撃! しかし、夏輝にはダメージをあたえられない!
「お前の自慢は、脆くて弱い」
円城の攻撃! しかし、夏輝にはダメージをあたえられない!
「お前は、弱い」
暴力はよくないと思います。
でも、わたしはへんたいなのでよくないこともするとおもいます。
というわけで殴りまーす。
俺は、全身に『煙吐き芋虫』の煙穴を作るよう【変態】し、煙を噴き上げる。あっという間に俺と円城は煙に包まれる。
「殴りまーす」
「ま、待て!」
円城の制止の声を無視し、殴る。
「あぎゃ!」
殴る。
「ぶげっ!」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
「も、もうやべて……」
思いっきり殴る!
という幻を見せた。
煙吐き芋虫は、幻を見せる煙を吐き、相手を弱らせるモンスターだ。
流石に現代社会法治国家ニポンでマジ殴りは難しい。
なので、工夫いたしました。まんまと円城、顔を痛そうに押さえている。
煙が晴れ、エンジョーが悲しそうな瞳で見ているよ。どなどな。
「い、今のは……」
「幻だ。でも、十分恐怖は味わえたかな。だが、ここからが本番だ」
「ちが、違うんだ。オレは騙されたんだ」
「騙された?」
「街で悪魔が囁いてきたんだ。更科が憎くないかって……武藤にモテてる更科をぶっ殺したくないかって」
「なるほど……そいつの口車に乗せられたから、自分は悪くないと……」
「そうなんだよ!」
「んなわけねーだろ、バーカ」
びっくりするわ、この子。
「理由はどうあれ行動したのはお前だろうが」
「いや、でも、悪魔が、モンスターが」
なおも食い下がる円城にアホと眼鏡が詰め寄る。
「アホか。ダンジョンの外に魔物なんかいねーだろ」
「いや、大発生であればあり得る」
「ああ、あの溢れるやつ?」
「ああ、魔力過剰発生により魔物が増えすぎたことと、ダンジョン外への魔力放出が過剰になったことが重なったりすると起こる現象だな。ただ、大発生が起きたならアラートが鳴るはず。この辺で大発生なんて数年前だ。円城が出会ったというのは嘘だろう」
「う、嘘じゃねえ! 嘘じゃねえんだよ!」
「だが、僕の『看破』でも君への何かしらの魔力による介入は見えない」
「嘘だっ!」
円城がひぐらしもまだ鳴いていないのに叫んでいる。
そして、立ち上がるとぶつぶつ詠唱を始めてる。
ああ、もうキレてるな、こんだけダンジョン離れててまともに魔法使えるのは、特例冒険者くらいだぞ、おい。
一生懸命魔力を込めて火を大きくしようとしている円城に、俺は救いの手を差し伸べることにした。
細心の注意を払って俺は右手を油蛙に変態し、うっすら滲む油を円城に向けて飛ばす。
飛んでいった油は見事円城の手の中に、そして、ふぁいあー。円城、炎上(物理)。
「うぎゃああああああ!」
どうだい、あかるくなつただろう。まあ、あの程度の魔力量だから死にはしないだろう。
燃え尽きて、真っ白になってやり直しなさい。いや、燃え尽きたら死ぬか。
命だけは助けてやるから、まあ、精々燃え盛る火の中で頑張って暮らせ。
俺は助けてやらないよ。HEROじゃないからな、HENTAIなんだ。
「うっぐ、ひぐ……」
円城が泣いている。けれど、その炎はお前の涙程度じゃ消えやしないよ。
てめえの罪を数えろコノヤロー。
「俺の大切な家族に手を出してみろ、絶対に許さない……地獄の果てまで追いかけて償わせる」
円城が震えてる。熱いだろうに震えてる。
俺が満足げに笑っていると、背後からとてつもない妖気が……。
振り向くと、そこには、我が姉妹が。
「ふふふ、兄さん」
「夏輝」
喜んでいる、幸せそうに笑っている。
だが、俺は何故だろう。カツアゲされている中学生みたいな気分に襲われる。
「大切なのね」
「大切なんだ」
「あ、あのね……二人」
「「あとでウチでね」」
ナニガカナボクワカンナイヨ。
「さて」
「うん」
「「処刑の時間よ」」
円城が震えている。
俺も震えている。
もうすぐ夏がやってくるのにおっかしいなあ。
いや、夏だからだな。怖い話はつきものだもの。
何か叫び声が聞こえるけれど。
夏だもの。うんうん。
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