17話 変態、黒歴史思い出しメンタルオワタ
どうでもいいキャラ紹介
更科夏輝、固有スキル【変態】。好きな食べ物、うどん。きつねうどんのおあげは最後に食べるようになりました。
『くれくらのダンジョン突入動画~!』
黒仮面の赤い鎧を着た男が画面の向こうに向かって叫んでいる。
『さあ、ということで今回は、で、【獣の森】RTAということで、やってみたいと思います! 僕の知る限り、獣の森のダンジョン核到達最速記録は【黒影】の30分14秒。ということで、今回は30分切るのを目標にやってやりたいと思います。ということで、【狂気の仮面道化】いきます!』
クレイジークラウンと名乗った男が地面に置いていたであろうカメラを背負ったバッグに取り付ける。
クレイジークラウンを後ろから見たようなその光景は、少しだけカメラの角度が傾いていた。
「ということで、よーいどん!」
クレイジークラウンは太ももを自身の胴体位膨らませると地面を抉るように蹴って飛び出す。
その飛び出た勢いで魔物を何体か吹き飛ばす。
『あれ? 何か轢いたかな? ということで、続けま~す!』
同じように太ももを膨らませ異常な距離を跳びながらクレイジークラウンは進んでいく。
行く先を阻む魔物達にものともせず、鋼化した拳で殴り飛ばして進んでいく。
大木が目の前にあれば、身体を地面と平行にし、足を大木に置いて、再び蹴って跳んでいく。
『いやあ! いいペースですね! ということで、これだと25分くらいでいけちゃうかも~!』
よほどの太さでなければ枝を殴って砕き、岩を蹴って進むクレイジークラウンは何かに解放されたように笑いながら突き進む。
『あっはっはっは!!! 気持ちいい~!』
そして、森の最奥ダンジョン核が見えた時、巨大な影が迫る。
『出た出た! って、え?』
クレイジークラウンが影の方を見ると、青い毛の生えた人狼がクレイジークラウンの方を見て舌なめずりをしている。
『噓でしょ! ここのダンジョン核の守護者は、灰色狼のはずじゃ……はあ~、また“イレギュラー”かよ~』
クレイジークラウンががっくりとうなだれると、カメラも当然グンと引き上げられるように動き地面に向かって上半身を投げ出しているクレイジークラウンが見える。
そして、クレイジークラウンを覆うような影がどんどんと大きくなる。
クレイジークラウンは、再び太ももに力を入れ、前へと跳びだし、落ちてきた青毛の人狼の攻撃を避ける。
『ということで、予定を変更して、“イレギュラーと戦ってみた”をお届けしま~す。ということで、じゃあ、やろう、か!』
クレイジークラウンがカメラに向かって話しかけるのを無視して青毛の人狼はクレイジークラウンに襲い掛かる。
クレイジークラウンは、青毛人狼の恐るべき速さの連撃を躱せずすべてを喰らってしまう。
『あばばばばばば! ……な~んてね』
何事もなかったかのように平然としているクレイジークラウンに今度は青毛人狼が目を大きく見開く。
そして、その一瞬を見逃さず、風鬼の腕で風を吹かしながらクレイジークラウンが青毛人狼の腹に一撃をたたき込む。
吹っ飛ばされたはずの青毛人狼は、背後の大木に足をつきしっかりと足を溜める。
『自分で後ろに跳んでダメージを軽減したか……やるね』
青毛人狼が今度はこちらの番と言わんばかりに、青い魔力を爪に奔らせ、襲い掛かってくる。
『ふははははは! まだだ! もっともっと僕を楽しませろ!』
笑いながらクレイジークラウンは殴り合いをつづける。
そして、最後に立っていたのは……クレイジークラウンだった。
『……強かったよ。また、地獄で会おうぜ。ということで、クレイジークラウンでした』
この【RTAかと思ったら……!】という動画は当時中学生の中で爆発的人気を得た。
クレイジークラウンが記録を大きく塗り替えるアタックを見せていたにも関わらず、突如イレギュラーが登場し、それをソロで倒すという偉業は結構話題になった。
この『ということで』多めの仮面の男、狂気の仮面道化が俺、更科夏輝の昔の恥ずかしい黒歴史である。
13歳で変態の烙印を押された俺はグレた。
とは言っても、ただダンジョンに無許可で潜って動画撮影をするという中学生らしい反抗期程度で、動画あげ始めた当時、悪戯動画みたいな扱いだった。
ただし、俺の固有スキル【変態】が驚くほどに有能スキルだったために、数々のダンジョンを攻略、魔物を撃破、レアアイテムゲットを繰り返したために、15までの二年弱動画はかなりの盛り上がりを見せ、中学生の俺は調子に乗っていた。
しかし、ある時気づく。
なにやってんだ俺、と。
重度の厨二病は改善の兆しが見えた15歳の頃、俺は急激に狂気の仮面道化が恥ずかしくなってきた。
なんだ、クレイジークラウンって。略して、くれくらって自分で言ってた。
当時めっちゃかっこいいと思ってつけたが、改めて見てみると、凄く厨二病らしいネーミングな気がして、穴があったら入りたくなった。
ちなみに、変態を直接名前に入れるのが恥ずかしくなった厨二夏輝は【クレイジー】と言い換えることでカッコいいし、気づく人は気づくのではと世紀の大発明をしたような顔をしていた当時の俺、穴に入りなさい。
で、ばれたらまずいので仮面を着けて、当時好きだった【道化】という言葉を使って、辞書とネットで調べて命名、生まれたのが【狂気の仮面道化】、クレイジークラウンだ穴に入れてその上に庭付き二階建てのおうちをやはり建てようそうしよう。
とにかく、当時高校生直前の俺は死ぬほど悶えた。
そして、俺は全ての動画を削除した。
が、あまりにも厨二病患者たちを中心に盛り上がっていたクレイジークラウン旋風により、切り抜き動画等で暫くは拡散され続けたし、なんだったら、今もふと探してみると見つかったりして枕に顔をうずめ恥ずかしくて恥ずかしくて悶える。
その後、とある事件により俺は完全に狂気の仮面道化の名を捨て、冒険者の道も諦め、普通の暮らしを目指す。
が、狂気の仮面道化が帰ってきてしまった。
だって、しょうがないじゃないか。妹のためなんだもの。
それくらいクレイジークラウンは高性能変態だった。
仮面は、あるアイテムを記憶し複製したもので顔面を変態しているのだけど何故かそのアイテムの【魔力吸収】が本物には劣るが発動されているし、身体を覆う紅い外殻の鎧は、紅の蜥蜴飛蝗という蜥蜴と飛蝗を混ぜたような魔物を記憶して変態した硬さと筋肉の強化を同時に成立させた俺史上最強の肉体なのだ。
魔力消費は激しいが、四の五の言ってられない。
とにかく早く秋菜を助けにいかなければ!
俺は太ももを異常なまでにふくらませ跳ぶ。
地面が抉れ着地した場所に罅が入る。
途中で出会う魔物は殴って吹っ飛ばし障害物は蹴ってどかす。
突き当りの壁を踏んで蹴って跳ねて進む。
「はっ、ははははは!」
全てをぶっ飛ばしながら笑いながら跳んでいく様は正に狂気だろう。
何に対し笑っているのか怒っているのか悲しんでいるのか楽しんでいるのか。
俺は、戻ってきてしまった。
狂気の仮面道化なんか目じゃない狂気の世界、ダンジョンに。
けど、迷わない。
俺は、俺の守りたいものを絶対に守る。
もうこれ以上失くしたりしない。
ダァアアアアンン! と地面を踏みしめる音が急に開けただだっ広い空間に鳴り響く。
全員が、黒仮面の紅い鎧の男を見ていた。
助けたい妹が。
別に助けなくてもいいかと思ってる自称幼馴染が。
助けたくないかもしれない男達が。
そして、
「グギャアアアアアアアア!」
大声で吠える巨大で醜悪なゴブリンが、こちらを見ていた。
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