浦島太郎、竜宮城でもてなされる
青い空、白い雲。澄み渡る大空に浦島は驚いた。さっきまで真夜中だったはずだ。田中の家ではない。もうどこなのかわからない。恐ろしく狭いコミュニティで老後を過ごしていた浦島にとっては、恐怖そのものだった。
しかし、朗報もあった。川面に映る自分の姿を見ると、青年の姿をしていたのだ。
「会社の同期でトップ3のイケメンと言われた美貌が復活したあ・・・。」
本人は感無量のようだが、零細企業に就職したため、同期は4人であった。
しかし、見た目はどうであれ、ここがどこだかわからないことに変わりはない。浦島はすぐに狼狽し始めた。
「ここはどこだ???どこなんだ???誰か助けてくれー!」
状況を呑み込めないでいると、一人の女性が声をかけてきた。
「どうされましたか?」
「すみません、ここがどこかわからないんです。香川ではないのでしょうか?」
「香川・・・?なんですかそれは?知らない地名ですね。」
女性は不思議そうに浦島を眺めている。
「どうしてここにいるのですか?」
「わたくしは浦島太郎、香川を目指すさすらいの旅人なのですが、道に迷ってしまって・・・。」
浦島は、息を吐くように嘘をついた(数少ない特技である)。浦島は、なんとしてでもこの女性に助けてもらわなければいけないと思っていたので、庇護欲を掻き立てようと必死に演技を続けた。
「若いのに大変ですね。」
「いえいえ、厳しい道を選んでこそ、男は強くなるのです。」
楽な道を探し続けて成り下がった74年の人生を忘れたのだろうか。
しかし、浦島にとって、今までの人生は頭から抜け落ちていた。一瞬、家に置いてきた妻のことが頭に浮かんだが、忘れることを決意した。
「今夜寝るところがないので、止めてもらえませんか?」
意外にも、女性は快く受け入れてくれた。なんと、大きな宮殿に住んでいるというのだ。浦島にとって宮殿とは、もはや焼き肉のたれのイメージしかないが、まさか本物の宮殿に入れることになるとは思ってもいなかった千載一遇のチャンスである。
彼女の名は乙姫。浦島は乙姫に連れられて、宮殿にやってきた。
「ここが私たちの竜宮城です。」
このあたり一帯を治める王様も暮らしている、正真正銘、本物の竜宮城だ。
「よく来たのお。私がこの竜宮城の王じゃ。そなたが旅人の浦島かね。」
ひときわ豪華な服装をしているこの老人男性が、王様のようだ。
「はい、浦島と申します。」
「そうかそうか。よく来なすった。ゆっくり休んでいかれよ。」
「ありがとうございます!」
「今夜は夕食を用意したから、たくさん食べていいぞ。」
「ありがとうございます!」
なんということだろうか。浦島は、竜宮城の晩餐会に参加することになったのだ。
「すげえ・・・。夢みたいだ。」
ここで夢オチを期待したいところだが、誠に残念ながら、晩餐会が始まってしまった。悔しい限りだが仕方ない。彼においしいものを食べさせてあげよう。
「「乾杯!」」
全員でグラスをぶつけ合い、晩餐会が始まった。長い机には、この竜宮城の要職についていると思われる、豪華な服装の人物がずらりと並んでいる。
「すげえ・・・。」
しばらくすると、料理が出てきた。盛り付けの美しさもさることながら、味も絶品であった。食べ終わってしばらくたつと、また次の料理が出てきた。これはフルコースかもしれない。浦島は「おいしい」「うまい」しか言わなくなっていた。しっかりと語彙力が崩壊した浦島だが、きちんと完食して次の料理を待っていた。
何枚か食べているうちに、気になる料理が来た。
「こちら『猫のグラタン~旬の魚介を添えて~』になります」
「猫なんですか?」
浦島はびっくりして、給仕の女性に聞き返してしまった。
「はい、我が国の最高級食材、猫缶を使用しております。」
「猫缶って・・・猫入ってないっすよ???」
「ええっ!?」
給仕の女性は驚きのあまり、皿を落としてしまった。あらゆる方向から冷たい視線が集中する。
「そんな・・・じゃあ猫缶は何なんですか!?」
女性が絶叫するのを聞いて、衛兵が駆け寄ってきた。
「あの・・・猫缶の中身って魚だと思います。」
浦島の衝撃の発言に、もう女性は言葉を発することもできず、泣き崩れてしまった。衛兵が抱え上げて医者のもとに連れて行こうとしたその時だった。
「ん?」
急に会場が暗くなり、どこかで聞いたことのあるポップなBGMが流れ出した。
「なんだ!?」
会場がざわめきだした。間違いない。このメロディーはスリラーだ。
「いや、なんでマイケル・ジャクソンのスリラーがこんなところで流れているんだ!?」
ほどなくして、スポットライトが光りだした。ステージに集中したスポットライトの中心には、なんと王様がいるではないか。なぜかパンツ一丁で裸に限りなく近い。しかも筋肉ムキムキなので、ぱっつんぱっつんのパンツはいまにもはちきれそうだ。おまけに王冠は虹色に光っている。
「あのー、なんすかこれ?」
「いや、わかりません。」
衛兵に聞いてもわからない。さっきの給仕の女性は、とうとうショックのあまり気絶してしまった。
「ん?」
会場の空気がおかしいことを察した王様が、ステージから駆け下りてきた。
「何があった!?」
「王様。それはこちらのセリフです。」
ムキムキの老人男性が虹色に光る王冠をかぶっている。礼装に身を包んだ側近たちが早速王様を問い詰め始めた。
「その虹色に光る王冠は何なんですか?」
「これはRGBのLEDで虹色に光らせたのじゃ。いいだろう?」
「全く思いません。」
「いるか?」
「いりません。今すぐメルカリででも売り払ってください。」
王様はステージの勢いを完全に失い、しゅんとしてしまった。
「で、何があったのじゃ。」
「なんとこの男が、猫缶が猫の肉ではないと言い出したのです!」
「俺?」
突然浦島は羽交い絞めにされ、王様の前に突き出された。
「それは本当か?」
「は、はい。あれは魚です!」
王様は国中の学者を集め、猫缶のことを調査させた。すると一人の学者が猫缶の原材料表示に着目。猫缶に猫の肉が使われていないことが証明され、竜宮城に激震が走った。
「なんということだ!すさまじい知識じゃ・・・。」
たわわなあごひげを携えた老練な学者たちが、そろいにそろってざわめき始めた。
「この神の頭脳にはいい部屋を用意してやらねばならん。今夜はあちらの別荘へ案内しよう。」
王様は部下に命令を出し、浦島は予定より豪華な別荘に泊めてもらえることになった。
「あ、ありがとうございます・・・。」
「この亀に乗っていきなさい。カメが別荘まで送ってくれよう。」
大きなカメも用意され、一気にVIP待遇に変化した。
「すげえ・・・。」
「俺が別荘まで案内するカメ!」
「カメさんよろしく・・・って!こら、暴れるな!」
亀は、浦島を乗せるや否や飛び出した。
「よっしゃー行くカメ!」
「余裕の音だ、馬力が違いますよ。」
「それコマンドーじゃん!てか待てよ、コマンドーだったらこの後・・・」
案の定、壁を破壊して突進した。とんでもない激痛を全身に食らった浦島はもうカンカンだ。
「おいお前!」
「へい。」
亀は見かけによらず、腑抜けた返事をした。
「お前は本当に亀なのか?」
「へい。」
「速すぎないか?」
何かがおかしいと思った浦島は、亀の甲羅を見回した。すると、なんだかよくわからない筒から勢いよく泡が噴出していた。
「おいお前!」
「へい。」
「甲羅についているこの筒は何だ?」
「ウォータージェットでドーピングしたカメ☆」
「てめー殺す気か!?」
「へい。」
「へいじゃねーんだよこの野郎!!とにかく、そこの島で止まれ!」
「へえい。」
浦島らは一旦島に止まることにした。
島に着いた。広い砂浜と南国系の植生が印象的な島だ。
「死ぬかと思った・・・。」
「楽しんでもらえたようで良かったカメ!」
「絶叫アトラクションに乗りに来たんじゃねえんだよ!おれは別荘に行きたかっただけなんだよ!わかるか!?」
「・・・。」
「いや、なんでここで「へい」って言わねえんだよ。」
浦島は疲れていたので休むことにした。せっかくなので、カメと話すことにした。カメは竜宮城の様々な話をしてくれた。あっという間に時間が経ち、お互い眠くなってしまったので砂浜でいつの間にか寝てしまっていた。




