浦島太郎の失敗
※本作品には何の芸術性や哲学的メッセージはなく、読むだけ時間の無駄としか言いようのない作品に仕上がっております。しかしながら、読者の方にほんのひと時でも笑顔をお届けできれば幸いです。作者
「老後の生活に、二千万円が必要・・・。」
とある政治家A氏の発言が、日本に衝撃を与えた。危機感を持った老人の一人に、浦島太郎がいた。
浦島太郎、七十四歳。香川生まれ香川育ちの平凡な老人だが、元自衛隊の特殊部隊を「自称」している、妄想癖の強い老害でもある。
ある雨の夜、浦島太郎は知り合いである三丁目の鈴木の家に潜入していた。鈴木は近所でも有名な金持ちで、純金製のウルトラマンの像を家に飾っているらしい。浦島は彼から老後資金を奪おうとしていた。電気が消えて真っ暗な家の中でも、迷うことはない。浦島は、何度か鈴木の家に入れてもらったことがある。そして、その時に、誇らしげに札束を見せてきたこともしっかり覚えている。ちなみに、昨日の夕食のメニューは覚えていない。
「誰だ!?」
階段の上に人影を見た。あれは鈴木の妻だ。家に何度か来たとはいえ、鈴木の妻の正体はよくわかっていない。厄介な敵に遭遇した。
「浦島さん、本当に我が家を襲ってきたのね。」
「ばれていたのか・・・。」
「予告状出したくせに何を言っているわけ?」
そういえばそうだった。へたくそな字に納得がいかず、何度も書き直したことを忘れていた。
「お前が鈴木の妻か・・・。」
「はい。」
浦島はばれないように、ひっそりと拳銃に手をかけた。鈴木本人とは何度か話しているが、鈴木の妻との面識は薄い。
「俺はあんたのことをよく知らない。ちょっと教えてもらえないか?」
「秘密部隊・・・KFCのスパイのトップ。」
「KFC!?なんだその組織は!?」
少し間があって、彼女は答えた。
「・・・ケンタッキー・フライド・チキン。」
「なめてるのか貴様!」
「お?ビビってんのかチキン野郎?」
「チキン野郎はお前だ、死ね!」
浦島は、さっと抜いた拳銃の引き金を引いた。鈴木の妻は、踏みつぶされたカエルのような悲鳴を上げて、階段から転げ落ちた。火薬の焦げ臭いにおいが部屋に広がった。
発砲音を聞きつけて、さすがに鈴木も飛び起きた。
「なんだ!?なにがあった!?」
「鈴木・・・。」
「お前は、浦島!?本当に来たのか・・・。」
「ああ、予告状のとおりだ。」
「予告状に書いていたのは昨日だが?」
「あれ・・・?」
こんな状態の浦島だが、お金は欲しい。
鈴木は、どこからともなく拳銃のようなものを構えた。鈴木が持っているものは、引き金とグリップが極めて大きな特殊な形状をしていたので、浦島は興味を持った。
「変わった形の拳銃だな。かなりでかいマガジンを積んでいるのか。」
「ああ、そうだ。」
お互いが銃口を向けあって譲らない。二人の男の間に、重い沈黙が続いた。
「・・・その銃の名前を教えてもらえないか?」
しびれを切らした浦島が、軽い話で沈黙を破った。鈴木は答えた。
「カビキラー☆」
「問答無用!」
浦島は迷うことなく引き金を引いた。鈴木の手から、スプレータイプのカビキラーが落ちた。床に打ち付けられたボトルは、鈍い音とともに倒れた。浦島は、倒れた鈴木のもとに歩み寄った。
「なぜおまえは、カビキラーで拳銃に勝てると思った・・・?勇気だけは認めてやろう。」
カビキラーは、配合された強力浸透成分によってカビを根から枯れさせる強力な防カビ剤だ。SCジョンソン社が販売しており、楽天市場ではおおむね300円+送料で入手できる。
(ちなみにこの作品は、ジョンソン社とは何の関係もないので、宣伝しても一円も入ってこない。ステマでもなんでもないただのギャグ解説。ちなみにお金をくれてもいい。By作者)
さて、邪魔者は消えた。しかしながら、鈴木の家に金があることはわかっていたものの、それが家のどこなのか詳しくは知らない。浦島は広い家の中を探し回った。そしてついに、怪しいタンスを探し当てた。その引き出しを開くと、つややかな漆が塗られた高級そうな箱があった。確か、この中に札束が入っていたような気がする。アルミ製のでかいキャリーケースが見つからなかったのは残念だが、この中にもきっと相当数の一万円札が入っているに違いない。
「これで老後の生活も安心だ。」
そのとおり。もし箱に金が入っていなくても、刑務所でそれなりのご飯は食べられる。
その箱に札束が入っていると確信した浦島は、にやりと笑い蓋に手をかけた。するとその時、蓋と箱の隙間から煙が噴き出し始めた。異変を感じて蓋を吹き飛ばし、中を確認したのは間違いだった。
「うわああああああああああああああああ!!!」