新しい未来 2
王太子が王に渡した香の中には、禁じられた非合法の薬草や、王の病に対し悪影響を及ぼす薬草が含まれていることが確認された。
事実確認のため出廷を求められた王の専属医が、騎士たちの隙をついて脱走し、後日、逃亡途中のところを野犬に食い殺された姿で発見されたことで、関与は確実なものであったと判断された。
そして禁止されている薬草の出所を洗ううち、とある侯爵家が捜査上に浮かび上がった。
その侯爵家の運営している女子修道院で、禁止されている薬草が育てられているのではないか、という疑惑が持ち上がったためである。
しかし捜査局は、最も疑わしい侯爵を捕らえることはできなかった。
邸を訪問した際、自らナイフを握った手で首を切り、出血死しているのが発見されたためだ。
傍らには、『犯した罪は、自らの命で償う』とだけ記された、遺書と思しき便箋が置かれていた。
女子修道院も調べられ、併設された薬草園では、探していた薬草が群生しているのを発見したものの、騎士たちがやってきたころには既にもぬけの殻になっていたため、修道女たちを捕らえ、話を聞くことはできなかった。
早急な解決が求められたため、修道女たちを探すところまで、手を伸ばすことは叶わなかった。
また、手記に記された内容の真偽を確認するため、それを書いたアンジェリカを良く知るであろう、彼女の侍女を探したが、こちらも発見することはできなかった。
他にも数名、行方を眩ませた者がいたものの、公爵家の他の使用人にも話を聞くと、誰もが公爵邸内で行われていたことは事実で、アンジェリカには申し訳ないことをしたと、涙ながらに謝罪する者すらおり、もしかすると彼女の勘違いという部分もあるかもしれない、ということも考慮したうえで、他にも証拠が続々と出てきたことなども合わせ、手記に記された内容は、概ね真実であると捉えられた。
アンジェリカの手記が公表されてしばらく経つと、一連の捜査結果に基づき、王太子、王妃、公爵家一同の処刑が決定された。
王太子は、毒を直接王へ手渡し、王位を我が物にせんと、実の父を弑逆しようとした罪により。
王妃は、禁止されている薬草を栽培し、流通させていたのが生家の侯爵家であったこと、彼女の父が罪を認める内容の遺書を残していたこと、また邸から見つかった帳簿などの証拠により関与が認められ、そもそも王の暗殺計画は彼女が主導していたものと判断された。
そして一連の騒動の元となった、公爵令嬢アンジェリカが襲撃され、亡くなってしまった事件も、真相に近づいた彼女を、王妃の手の者が殺めたのではないかという疑惑が広がり、王妃は実の息子の想い人すら手にかける残忍な人物であると、当の息子本人から糾弾されることとなった。
アンジェリカの父である公爵は、アンジェリカの母への毒殺について、しばらく証拠不十分であったが、こちらもやはり侯爵家から発見された帳簿により、当時から薬草を購入していたことが明らかになった。
また領地からは国外産の武器が大量に発見され、私兵として傭兵を雇っていたことまで判明し、反逆の意思ありと判断されたことが決定打となった。
これにより、一族は連座でその罪を贖うこととなり、公爵家は取り潰しとなる。
だが、それらの罪での処刑を待たずして、アンジェリカの弟であるローレンスと、異母妹であるシャーリーは命を落とした。
アンジェリカの手記により、第二王子との同性愛が指摘されたローレンスは、「騎士道に背くようなことは、断じてしていない」と述べ、自らの足で、強く審問を求める教会へ向かった。
しかし彼は、教会側の『取り調べ』にしばらく耐えたものの、最終的には自らの罪を認めた。
そのため、他の誰よりも先んじて処刑台が作られ、王都の住民たちから石を投げつけられ、最後には火あぶりとなった。
アンジェリカの手記が公表された後、シャーリーは身体を検められ、その身が純潔ではないと宣言された。
このときにはまだ妊娠しているかまでは判断できなかったものの、相当な非難を浴び、それにより彼女は心が病んでしまったと言われている。
彼女はある夜、どこからか持ち込まれた毒を呷り、翌朝冷たくなっているところを発見された。
実際のところは、本当に王太子の子を身籠っていられると困る人々により、毒殺されたのだが……彼女の死が不審なものであるということは、不思議なことに、誰も指摘することはなかった。
その後に王太子をはじめとした、幾人もの処刑が行われた。
最終的には誰もが首を落とされ、晒された。
――そうしてアンジェリカの復讐は、本人の想定を超えた、上々の成果を収めたのであった。
ローレンスが教会で罪を認めたことにより、第二王子も引き渡すよう教会側は強く求めたが、王がそれを許さなかった。
しかし、長期間にわたる心労や病の悪化により、王は後継者を指名することなく、この世を去った。
そのため、誰を次期王にすべきか、王宮内でも意見が分かれ、王位を巡る議論が繰り返され、いつしか教会や民衆も含めた、泥沼の争いへと発展していった。
こんな美味しい状況を、周囲の国々が黙って静観しているはずもなかったが……動き出そうとしたところで、それぞれ国内での問題が浮上して、それどころではない状況に追い込まれた。
それには、国を跨ぐほどの巨大な犯罪組織が関わっているとも噂されたが――どの国も、その尻尾を捉えることはできなかった。
数年後、内戦を繰り返した挙句、疫病まで大流行し、疲弊に疲弊を重ねたとある国が、謎の集団に侵略されて、遂には支配されてしまったと聞くが――アンジェリカたちの笑い声が止むことは、無かった。
『悪役令嬢が本当に自分勝手な悪女だったら、そう簡単に改心するわけないよね?』っていうお話でした。
時間逆行系の悪役令嬢は、大抵善人寄りの良い子になる印象ですが、そうじゃなかったパターンです。
よりレベルアップして、復讐を遂げました。
「アンジェリカ、性格わっるぅぅぅうー!!!」と思っていただけましたら本望です←
ちょっと悪意が強すぎた気がしなくもない(遠い目)
今回も後書きっぽいことは活動報告に書いています。(超長いです)
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ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!!!(土下座)
2022/04/02 本編のアンジェリカ視点の連載を開始しました。
次ページから始まりますので、こちらもお付き合いいただけましたら幸いです。