涙の飴玉 -tear drops-
目が覚める。体を起こす。
ゴトゴトと、何か硬いものが落ちていくような感覚。
けれどそれは、私が寝ていたベッドの上に落下音ごと飲み込まれた。
それを拾い上げて、ひと噛みする。
あまりの硬さに、とても食えたものではなかった。
舌が触れ、その黒色から連想する珈琲とは比べ物にならない苦味に、吐き出したくなるように舌を突き出す。
一瞬の痛みと赤色の雫を伴って、それは再び落ちた。
舌の上には、先程とは違う、鉄のような苦味が広がる。
体内から出ていこうとする血を、飲み込んでまた戻す。
ベッドの上に転げ落ちた、そのでこぼこした形からは想像できない飴玉は、拾い上げた。
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波模様の入ったガラス容器に、黒い飴玉が増える。
まるで、汚染された海が洪水を起こしているように見える。
毎日毎日、ひとつずつ増えていく。
凪いだ海のような、綺麗な形をしておらず、例えるならまるでウニのようにとげとげしている。
思春期に入って、感情が増えると、寝ている間にその感情が飴玉となって、涙を流すように出てくる。
楽しい飴玉や喜びは、そのまま口に入れ心へと戻す。
悲しい飴玉や不安は、そのまま捨ててしまう。
私達はそうやって、心身ともに健康体でいられる。
感情やストレスを、簡単にコントロールすることができる。
けれどたまに、どんなに外に出しても、なかなか消えないという事例がある。
延々と、綺麗とは言えない飴玉が出てくる、それはもう、ある種の病気として見られていた。
私は、自分から流れ出た飴玉を眺める。
真っ黒で、でこぼこで、それがいくつも透明なガラス容器に入っている。
原因は分かっている、友だちと喧嘩別れをしたことだ。
きっと向こうは、いらない感情だ。と言わんばかりに飴玉を捨てたことだろう。
私は、感情を捨てても捨てても、なぜあんなことをしてしまったのか、と考え続けている。
感情はしっかり捨てているはずなのに、心は執着している。
このガラス容器が、そのまま私の心の底みたいに、溜まっている。
こんな私を、あの子も、医者も、世の中の人はみんな、異常だと恐れるのだ。
自分だって分からない。
どうしてあの子に執着してしまうんだろう。
感情は身体の外に置き去りにしているはずなのに、私の心の中にはあの子のことでいっぱいだった。
なぜあんなことを、本当はどうしたかった、今でもこうしたい。
そんなことばかりがあふれて、捨てても捨ててもあふれて、塊となって出ていく。
こんなのがお菓子だと言うなら、まるで金平糖みたい。とひとつ取り出し、力いっぱい噛み砕いた。
何にも比べようのない苦さが、舌の上に、口の中に広がっていく。
それを飲み込んだ瞬間、私はその感情に呑まれるように、涙が出た。
噛み砕いたのと、全く同じ飴玉の、涙が。