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だったら あがいてみせましょう!  作者: こばやし羽斗
手に入れろ スローライフ
9/33

街でお買い物


 

 林を抜けると、広い街道が現れた。久方ぶりに見るまともな道だった。

 馬車が通る関係だろうか、土の上にくっきりとした轍ができ上っている。

 しばらく歩くと道の両側は麦畑が広がって来た。小さい集落が点在して、小高い丘の上には風車も見える。

 さらにど歩くと、道の先にベージュ色の城壁が見えて来た。

 

(外国の風景みたいだなあ)

 

 外国も何も異世界な訳だが、広がる麦畑の中の一本道と、その向こうに見える城壁で囲われた街の景色は、テレビで見たヨーロッパの昔の街並みのようだった。

 

 わくわくと、自然足並みが早くなるが、

 

「そう言えばお前についてだが」

 

 とギーズが声を掛けて来た。

 

「俺の姉貴の娘ってことにしとくからな」

 

 と言われた。

 ロハスという、遠い街にいるお姉さんの娘と言う設定らしい。

 茉莉花的には何でもよかったので頷いておく。

 

 近づいて改めて見ると、城壁はかなり高い。下手したら3階建ての家くらいありそうだ。

 日本の城は周りにお濠があるが、こちらの城は、何もないところ突然高い城壁が建っている。街も城壁の中だ。

 

 城壁の手前で道が二手に分かれていて、片方の道はさらに先に、片方はそのまま門に向かって伸びている。門に向かう道の手前の土手に、小さな看板が刺さっていた。

 

「コンフィ…?」

 

 街の名前だろうか?と、書かれた文字を読むと、

 

「お前字が読めるのか?」

 

 と意外そうな顔をされた。

 

「うん、少しだけど」

 

 と答えると、

 

「そうか」

 

 と、何か考え込むような顔をされた。

 

 

 門は、4階建ての建物になっていた。大人の2倍以上はある両開きの門扉が開け放たれて、両脇には、剣を下げて、胸当てと肩当ての簡易鎧を身に付けた男たちが立っている。

 見るからに厳つい雰囲気だが、ギーズが近づくと、

 

「ようギーズ、今日は良い獲物あるかい?」

 

「見かけない嬢ちゃんだね、連れかい?」

 

 と、慣れた様子で声を掛けてくる。

 

「ああ、姉の子でね。しばらく預かることになったんだ」

 

 言いながら、籠を下ろすと、「鹿肉と、腸詰があるよ」と中を見せる。

 

「おお、いいな」

 

「お前んとこの腸詰、また買ってきて欲しいって、かみさんに頼まれたんだよ」

 

 などと言いながら、めいめい骨付き肉と腸詰を買う。

 市場で買うよりも、直に買う方が安いらしい。

 ほくほくした男たちが、

 

「どうだ、今日は」

 

「いつもの店、行くだろ?」

 

 と、ギーズに向かって、コップを傾けるジェスチャーをする。

 

 ……酒飲みというのは、どこの世界でも似たようなことをするのだろうか。

 

「ああ?俺は子供連れだぞ、んなとこ行くかよ」

 

 と苦い顔をして顎を逸らすギーズに、

 

「おうおう、そうかそうか」

 

「じゃあ、また今度だな」

 

「気を付けてな、お父さん」

 

 ニヤニヤしながら、軽口とともに手を振る男たちを後にして、街の中に入る。

 

 

 城壁の中は、石畳が敷き詰められた3メートル幅くらいの道の両脇に、3階建ての建物がぎっしりと並んでいる。全て城壁と同じベージュ色の石造りで、屋根はくすんだオレンジ色だ。

 

 最初こそ人通りもまばらだったけれど、通りを進んで2つめの角を曲がると、道幅も広めでぐっと賑やかな通りに出た。

 石畳の道の両側に店が立ち並び、それぞれの店のドアの上には、銅板の看板が掲げられている。


 大きめの窓にアクセサリーや櫛などを並べてる店や、ペンや本などを並べている店、店のドアを大きく開け放して、色とりどり菓子や、パンを並べて売っている店もあった。

 宿屋らしい看板を掲げた店からは、美味しい料理の店が漂ってくる。昼の間は酒場件食堂になるようだ。前を通り過ぎようとすると、店の主人らしい男が顔を出して

 

「ようギーズ、今日は寄ってくかい」

 

 と声を掛けられた。

 

「今日は仕事だよ、また今度な」

 

 と軽く手を振りながら応えていると、店の中の常連らしき客からも、

 

「なんだギーズ、飲んでかないのかぁ?」

 

 などと声がかかる。

 意外に顔が広いようだ。

 

(……全部酒の誘いみたいだけど)

 

 他にも、顔見知りらしき相手に引き留められたりしながら、通りを進んだギーズが入って行ったのは、豚の形を象った看板の店だった。

 ひときわ屋根と幌が大きく通りにせり出したその店の中は、露台にハムや腸詰めが並び、屋根の梁に引っかけられた棒からは、肉の塊や腸詰、ハムなんかがいくつもぶら下がっている。

 

(おおお、肉屋さんかぁ―――)

 

 と感動して見ている間にも、奥から出て来た主人が、

 

「ギーズじゃないか。どうだい、いいのはあるかい」

 

「ああ、鹿肉と猪の腸詰だ。鹿肉は昨日仕留めたばかりだ。柔らかいぞ」

 

 などと親し気に挨拶をして商談を始めている。

 

「あれ、そのお嬢ちゃんはどうしたんだい?」

 

 店の奥から顔を出したおかみさんが、ギーズの影に隠れている茉莉花に気付く。

 

「ああ姪っ子だ、姉が怪我してね、面倒見れないってんで、しばらく預かってるんだ」

 

「へえ、可愛い子じゃない。こんな小さい子がいるんだ、あんまり遊んでちゃだめだよ」

 

 とおかみさんが言えば、

 

「違いない」

 

 とご主人も笑うのに、苦い顔をするギーズ。

 

(一体、普段どんな生活をしてるんだろ……)

 

 多少不安になっている間に、商談はまとまったようだ。

 肉とソーセージを渡してお金を受け取っている。

 おかみさんは、

 

「また来ておくれね、これは帰りにお食べ」

 

 頭を撫でながら、紙に包んだャンディーを持たせてくれた。

 

「ありがとう」とお礼を言って、ギーズの後を追って店を出る。

 肉屋を後にして、少し通りを歩いて次の店に入る。

 


 その店は、他の賑やかな店とは少し雰囲気が違っていた。看板には『ローワンの店』と彫られてるだけだ。

 店の中には古びたカウンターがあって、その奥にモノクルを掛けた痩せた男が座っている。

 カウンターの奥の棚には、酒の瓶や、毛皮のマフ、宝石を埋め込んだネックレス、レースの刺繍の施された手袋、金細工の施されたステッキなど、一見取り留めのない、だが値が張りそうな品々が並んでいた。

 

「やあギーズ、調子はどうだい」

 

「変わらねえな、ぼちぼちだ」

 

 と応えると、籠の中から昨日剥いだ鹿の毛皮を取り出す。

 

「ほお、牡鹿だね、なかなか見事だ」

 

 と、男は毛皮を手に取って丹念に調べ始める。何度もひっくり返したり、手触りを確かめたりした後、男が指を8本立てると、ギーズが首を振って両の掌を開く。

 

「10だ」

「いやいや、待ってくれよ、わき腹に傷があるじゃないか」

 

 ギーズの言葉に男が腹の刺し傷を指し示す。

 何度かお互いの主張を確かめ合うようなやりとりの後、結局毛皮は『95000ギオン』ということでまとまったらしい。

 

(ギオン…?)

 

 お金の単位だろうか。

 ギーズの様子を見ると比較的満足のいく結果なようだ。

 

「可愛いお嬢ちゃんだね」

 

 二人のやりとりを横で黙って見ていた茉莉花に目を止めて、男が言うと、

 

「ああ、姪っ子だ」

 

 姉の子を預かっているのだと、これまで何度か繰り返したやり取りのあと。

 

「仕方ない、今日は嬢ちゃんの歓迎祝いだ」

 

 と、モノクルをした男が、手元の箱から数枚のコインを出して、ギーズの手に握らせた。

 

 

 次に向かったのは酒屋でエールのボトルを3本と、強めのアルコールを買った。

 その後も、チーズの塊2つ、石鹸を2つ、手袋、砥石などをあちこちの店で買いそろえてから、パン屋と八百屋で、籠に詰められるだけパンや野菜を買った。

 二人の籠に入りきらない分は、ワトソンの背中にも括りつけられた。

 

 

 買い物を一通り終えて、最後に向かったのは裏通りの古着屋だった。

 

「この子の服を一式見繕ってくれないか」

「おや、可愛い子だねえ。ちょうど良いのがあるよ」

 

 店番のおばさんが、奥の箱の中から女児用の服を出してくる。

 

「こんなのとこんなのがあれば良いんじゃないかい?」

 

 と、ブラウスにベスト、スカート、それとワンピースを選んでくれた。

 広げられた服を見て、

 

(うーん、動きづらそうだなー)

 

 と思っていると。

 茉莉花の渋い顔に気付いたのか、ギーズが、

 

「気に入らねーのか?」

 

 と訊いてくる。

 

「気に入らないというか…」

 

 近くにあった男児用のズボンを指さして、

 

「こういうのがいい」

 

 と希望を言う。

 茉莉花時代もスカートなんて制服以外には着なかった。男児用の服の方が抵抗がないのだ。

 

「ああ?」

 

 とギーズが困惑したような声を上げたけれど、

 

「だってスカートじゃ、動きづらいです」

 

「……うん?」

 

「私ギーズみたいな狩人になりたいんです。でもスカートだと山の中を駆けまわれないし」

 

 だからこっちのズボンが良い、と告げると、

 

「狩人って、お前なあ…」

 

 と困惑した声を上げる。

 

「え、だって最初に言いましたよね?狩りのお手伝いしますって」

 

 言い切る茉莉花と、困惑した顔を見せるギーズに、お店のおばさんがくすくすと笑いだした。

 

「ずいぶんしっかり者のお嬢ちゃんだねえ」

 

 楽しそうな声で言って、奥の棚からもう一枚出してきてくれた。

 

「女の子だしズボンだけだとあとあと困るよ、これはね、スカートみたいに見えるけど、裾がズボンみたいに分かれてるんだよ。これなら動き易いだろうよ」

 

 と、広げてくれたのは、丈夫そうな布で仕立てられたキュロットだった。布に十分な余裕があるので、歩かなければスカートのようにも見える。

 薦められた他の服に比べて生地が厚手で仕立てもいい。多分どこかの令嬢の乗馬用のものだろう。

 合わせてみると、丈も幅も茉莉花にぴったりだ。

 ギーズを振り返ると、微妙な顔をしつつも頷いてくれた。

 

 結局最初に出してもらったシャツとベストに加えてキュロットと、それからギーズお薦めのワンピース、おばさんが見繕ってくれた下着を買って店を出た。

 

 キュロットが高そうだったので、ワンピースまではいらないと言ったのだけど、ギーズが買った方が良いと推したのだ。

 髪の毛の時も思ったことだが、ギーズの中では、女の子はこうあるべきという規範があるのかもしれない。それともギーズがというよりも、この世界の常識なのかもしれなかったが。

 

 籠はパンと野菜でパンパンだったので、買った服は籠の上に紐で括りつけて持ち帰ることになった。

 

 思いのほか買い物に時間がかかったようで、街を出る時にはすっかりと昼を回っていた。

 とりあえず街道を早めに抜けて、途中の草原でお弁当を食べることにした。土手に二人で座って、ワトソンを遊ばせながらチーズのサンドイッチを食べる。天気も良くちょっとしたピクニック気分だった。


 一日歩き通しで疲れたけれど、なかなか楽しい1日だった。

 

  


近々タイトルを変えようと思っています。

興味がある方、良かったら活動報告を見てください。

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