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だったら あがいてみせましょう!  作者: こばやし羽斗
手に入れろ スローライフ
19/33

魔獣狩り 1



「私も行く!!」

 

 

 思わず強い口調になってしまった。だけど仕方がない、こういうことは、きっぱりと言い切らないと。

 案の定ギーズは、茉莉花の言葉に眉を顰める。

 

「だめだ、いつもの狩りとは違う。言っただろう、相手は牛を食い殺すような相手なんだぞ」

 

「それでも行く。私弓もナイフも上達したでしょ? 絶対役に立つよ、足手まといになんかなりません」

 

 本当の事だ。この1年で弓と、ナイフを使った近接戦の腕はかなり進歩した。

 確かに力ではギーズに負けるけれど、身体が小さくて身が軽い分、近接戦では有利な時だってある。

 

「その辺の鹿やイノシシ相手ならともかく、ナイフなんかで倒せるか。相手は炎や毒を使って攻撃してくるんだぞ」

 

「どんな攻撃をしてくるか分からないなら、なおさら1人より2人で対応した方が良いです! 戦い方にも幅が出るし、フォローもできます!」

 

 獲物を追う時にしろ、仕留める時にしろ、一人より二人いた方が断然攻撃方法に幅がでる。

 それに、何よりも。

 茉莉花は自分をギーズの弟子だと思っている。

 弟子は師匠の仕事のフォローをするべきだ。

 

「よく知らない村の人たちとは戦えなくても、私とだったらお互いの呼吸や癖も分かってるし、フォローし合えますよね?」

 

 畳みかけるように言って、それに……、と付け加える。

 

「危険回避の訓練もやってます。ヤバい時にはちゃんと引きますから」

 

 だから、連れてってください。と言うと、ギーズは重く長いため息を付いた。

 

「……分かった、だが足手まといになるようなら即追い帰すからな」

 

 ギーズの言葉に思わず小さくガッツポーズをした。

 

 

 *****

 

 

 

 その後は慌ただしかった。

 何しろ何日かかるか分からない上に、二人とも行くのだ。

 

 茉莉花は携帯食として、カラス麦と薬草を練り込んだ固焼きパンをたくさん焼いた。

 他にも、備蓄の食糧のうちパンやチーズ、干し肉、干したハーブ、ドライフルーツなど、日持ちするものは携帯食として持っていく。

 

 食糧以外にも小振りの鍋や、ランタン、木の器など、持って行くものをまとめて籠に詰める。

 

 

 

 翌朝、最後の片づけと荷造りをして、身支度を整える。

 茉莉花は少し長めのキュロットにブーツ、背中には弓を背負い、ベルトには道具が入ったポーチと短剣を差す。

 この2年の間にすっかりと伸びた髪はポニーテールにして、念のためにフードを被ろうとすると、

 

「これを被ってけ」

 

 と、濃緑のマントを渡される。

 

「魔獣の繊維を織り込んで作ったマントだ。燃えにくく断熱効果も高い。とにかく丈夫だから、獣の爪くらいでは破れない」

 

「へえ…」

 

 早速纏ってみる。膝丈までの長さだ。長いものは歩きづらくなりそうだが、このくらいならちょうどいい。

 色は緑だけど、光にかざすと微妙に表面が紫色の光沢がある。

 普段ギーズが羽織っているマントも、色こそ違うけどこんな光沢だ。本人に目を向けると、見慣れた焦げ茶のマントの表面に微妙に光沢があった。

 

 そのギーズだが、いつもの長衣にベルトを締めズボンといつもの格好に、こげ茶のマントを目深にかぶっている。長いもじゃもじゃの前髪と相まって、相変わらず目元が良く見えない。

 背中には見慣れた弓を背負い、そして、いつも腰に差しているナイフ代わりの短剣の代わりに、今回は長剣を携えている。

 

 これまで、ギーズが長剣を使っているところを見たことが無かった。かなり意外でまじまじと見ていると、茉莉花の視線に気付いて、

 

「これか? さすがに相手が魔獣だからな」

 

 と柄に手を添える。

 いつも相手にしている獲物とは、根本的に違うという事なのだろう。

 

 

 

 

 支度を終え、最後に小屋のドアや窓を板で打ち付ける。

 留守中に浮浪者(?)や野生動物などが入り込まないようにするためだ。

 

 準備が出来たら山羊を連れて小屋を出る。

 留守中、世話をジーンおばさんに頼むのだ。旅に持って行けない肉や野菜もついでに持っていく。

 ジーンおばさんは、茉莉花が魔獣退治に付いて行くと聞いて酷く心配した。

 

「本当に大丈夫かい?うちにいてくれてかまわないんだよ?」

 

 何度も言われたけど、

 

「大丈夫だよ、おばさん。ギーズが一緒にいてくれるし。それに私こう見えて逃げ足早いから」

 

 と言うと、

 

「でもねえ…」

 

 とそれでも心配そうに、何度も「やっぱりうちに…」と何度も誘ってくれるのを、安心させるように笑って、

 

「戻ったら真っ先に顔を出すからね」

 

 と言って、村を後にした。

 

 

 

 

 探索は牧場からスタートした。

 昨日、牛の遺体を片付ける前に、ワトソンには遺体の傷口付近の匂いをかがせておいたそうだ。

 今日も念のため現場に行って付近を捜索する。遺体があった付近の石に紫色の短い毛がこびり付いていたのを見つけたので、ワトソンに匂いをかがせて出発した。

 

「この毛、多分ニランゴールだな」

 

 牧場で採集した紫の毛の、手触りを確かめたり太陽に透かしたりしながら、ギーズが言う。

 

「ニランゴール?」

「全身紫の毛で覆われた魔獣だ。魔獣としては、まあ普通の大きさで……、そうだなお前の2倍くらいかな」

 

 2倍って……。

 今現在のクラリベルの身長は前世の基準で言えば、たぶん130センチくらいだ。

 

(その2倍か……)

 

「動きはまあ普通だな、走ったりする時もあるが、図体がでかいからさほどでもない。それから鋭い爪が特徴だ。前足の力が強いから引っかかれたらひとたまりもない。…あと火を噴く」

 

 最後にさらっと出たよ。

 そもそも火を噴く獣というものを知らないので何とも言えないが、

 

(話を聞いた感じでは、紫の毛皮の熊が火を噴くって感じ……?)

 

 そんな雑なイメージを抱いてると。

 

「ニランゴールだけじゃないが」

 

 とギーズ。

 

「魔獣の身体ってのは、普通の動物に無いような特性があるから、高く売れるんだ。例えばニランゴールの毛皮は火に耐性がある。布に織り込むと燃えにくくなる。お前のマントがそうだ」

 

 言われてマントをまじまじと見る。どうやら微妙な光沢がそれらしい。

 

「あとは肝や心臓が薬に使われたりする。それから骨だ、発火石になる。こいつの骨の発火石はあっという間に火が付く」

 

 お前も持ってるだろう?と言われて、思わず腰に下げてるポーチに手を添える。

 ポーチの中には、傷薬や、腹下しなどの各種の薬類や、あて布なんかの他に、皮のケースに入った発火石も入っている。

 

「これって、ニランゴールの骨だったんですか」

 

「そうだ、しかもその骨を砕いたものに火を点けると、爆ぜさせることもできる」

 

 爆ぜさせるって、それってつまりは火薬―――。

 思わずギーズを見ると、あまり感心できる使い方じゃないけどな、と少し苦い顔で付け加える。

 なるほど、それはいろいろと価値がありそうだ。

 まあその使い方はともかく。魔獣は大変でも狩るメリットが十分はあるということだ。

 なんだか頭の中の魔獣が「¥」マークに見えてくる。

 

 ハンター魂に火が点いてしまった。

 

「絶対狩らないとですね!」

 

 グッと拳を握って言うと、

 

「まあ、ほどほどにな」

 

 と、ポンポンと頭を叩かれた。

 

 

 *****

 

 

 

 牧場をスタートして、ひたすらワトソンの後を付いて歩く。

 とりあえず牧場の側の森に入り、北東方面に向かって探索をしていく予定なのだ。

 昨夜の地図を頭に思い浮かべる。

 

 

『村があるのは大体この辺りだが、ここから東側に森が広がっている。森の中をさらに北に行くと山岳地帯になる。その先がピアソン州との州境だ。恐らく魔獣はこの州境の山岳地帯から森伝いに迷い込んだんだろう』

 

『じゃあ、この東の森にから山岳地帯にかけてを探す感じ?』

 

『それしかないだろうな、ワトソンの鼻はかなり信頼できるが…。いかんせん範囲が広いからな』

 

『この辺りから州境までだとどのくらいの距離があるんですか?』

 

 地図の中の村がある辺りとされた地点から、直線距離上にある州境の地点を指さす。

 

『歩いたとして大体5、6日くらいだな、森や山岳地帯を抜けるから下手したらもっとかかるかもしれん』

 

 5、6日、多分ギーズの足ならば1日に20キロは歩けるだろう。ということは100キロ以上はあるということだ。

 地図では村から領境は近くに見えるが、実際には100キロ以上あるということだ。そんなに? と、驚いてると、

 

 『そうだ、とにかく範囲が広い、かなり距離を歩くことになるだろう、何日かかるか分からん。仕留めるまで帰らないと思え』

 

 

 *****

 

 

 

 ワトソンの鼻だけを頼りに、この広大な森を探すのか……と、内心不安に思っていたけれど、それは杞憂だったとすぐにわかった。

 何しろ、魔獣が通った後はかなり分かりやすかったからだ。

 

 ワトソンに続いて森に向かうと、魔獣の身体のサイズ分だけ、辺りの木々が、傷つけられたり、なぎ倒されて、奥に続いている個所があったのだ。

 その幅2メートル弱と言ったところだろうか。

 木々の中を強引にすり抜けていったのだろう。低木の茂みや木の幹に、牧場で見た紫の体毛がこびりついている。

 

「ギランゴールにしては大きいな、これだけ幅がありゃ、どこを通ったか見つけるのは簡単そうだ」

 

 ギーズが言う通り、魔獣の通り道は森の奥に入ってもハッキリと痕跡が残っていた。

 ひたすら跡を追って森の中に踏み込んでいく。

 時折魔獣に襲われたらしき獣の死骸も見つけたりもした。

 

 昼間はひたすら跡を追って歩き、夜は森の中で野営をする。

 焚火の火を絶やさないようにして、周囲の木にロープを張って作った天幕の中で交代で休むのだ。

 

 食事は小屋から持参した固焼きパン、チーズや干し肉。夜には道中で狩った獲物を焼いたり、山菜と一緒に煮込んだりもした。

 

 ギーズに出会って以来の、3年ぶりの野営だったけれど、あの時味わった気が遠くなるほどの不安と孤独、飢えとは比べ物にならないほど快適な旅だった。

 茉莉花自身当時とは比べ物にならないほど、体力や狩りの技術がついたというのもあるけれど。何よりも。

 帰る家があって、ギーズやワトソンと一緒にいる。

 その事がとてつもない力を与えてくれているのを感じる。

 

 

 

 

 最初の5日間、ひたすらワトソンの後を追ってひたすら森の中を歩き回って。そして6日目の昼過ぎ。

 

 それまで、匂いを辿りながら森の中先頭を歩いていたワトソンが、急に動かなくなってしまったのだ。

 

「ワトソン、どうしたの?」

 

 と訊いても、足を踏んばって動こうとしない。そのくせ前方を見つめたまま、「ウ~~ッ」と唸り声を上げている。見ればしっぽが完全に足の間に入り込んでしまっている。

 

 

 『何か』に、警戒しているのだ。ひどく。

 

 

 瞬時にギーズと茉莉花の間に緊張感が走る。

 と、ギーズが剣を、ジャスミンが短剣に手を掛けたまま、辺りを伺うこと数秒。

 

 ズリズリ…、バキバキ…と、前方から何かを引きずるような音と、小枝や落ち葉を踏み分ける音が聞こえてきた。

 

 太めの木の幹に身を隠ながら息をひそめていると、しばらくして、木々の間から、紫の影が姿を現した。

 

 全身を覆う紫色の毛、大きな頭は、横幅だけで軽く1メートルくらいはありそうだ。

 銀色の不気味な光を放つ両の眼、大きく切れ込んだ口からは鋭い牙が覗いている。

 四つ足で歩いてくるその足は、まるで象のそれと同じくらいに太くて、さらにその先には黒々とした鋭い黒い爪が覗いている。

 

(あの爪で引っかかれたら、ひとたまりも無いな―――)

 

 思わずゴクリ…と唾を飲み込んだ茉莉花に、ギーズが離れて付いてこいと目配せをする。

 ワトソンは動けないので、なるべく離れた場所に誘導するのだろう。

 気配を殺して木々の間をギーズがすり抜けていく。


「ワトソン、じっとしててね」


 根が生えたように動かなくなってしまったワトソンをそっと撫でてから、フォローできるように、茉莉花もそっと後を追う。


 茉莉花の動きを横目でとらえつつ、ギーズが弓を構える。

 

 ヒュン…ッ、と空気を裂く音とともに放たれた矢が、魔獣の右の眼に見事突き刺さる。

 

 ギュオオオオ…ッ!

 

 魔獣が咆哮を上げた。

 




意外に旅を楽しんでる茉莉花です。

次は魔獣と戦います。


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