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だったら あがいてみせましょう!  作者: こばやし羽斗
手に入れろ スローライフ
10/33

ゴロゴロの村


 

 街へ行った翌日から、早速トレーニングを始める事にした茉莉花だったが、いざ始めようとして、考えていたスクワットや腹筋、背筋、腸腰筋あたりを鍛えるメニューは、18歳の高校生向けのメニューだということに気付いた。

 

(6歳が同じことやるのは不味いよね…)

 

 道場の小学生がやっていたメニューを思い出しながら、柔軟とか走り込み、素振り、ラダートレーニング、この辺りから徐々に始めていくべきだろう。

 

 とりあえず普段よりも1時間ほど早く起きた後、入念に柔軟をして、小屋の周囲の森の中を走る。落ち葉や大小の石、木の根など、足場が恐ろしく悪い森を走るのはなかなか大変だが、動的バランスを鍛える意味でも効果がありそうだった。

 その後は足さばきの稽古と素振りだ。体感で1時間くらいのものだが最初はこんなものだろう。

 大切なのは積み重ねなのだ。

 

(やり過ぎはよくない…。自重自重)



 

 昨夜、夕食の時。

 

「お前、本当に狩人になりたいのか?」

 

 と訊かれた。

 何を今更という気持ちで、

 

「はい」

 

 と答えると、

 

「なんでまた一体……」

 

 と渋い顔をする。

 そんなに変な事かなと逆に不思議な気分になる。

 

「ギーズは反対なんですか?」

 

「まあ…、あまり女がやる仕事じゃないからな」

 

「女の狩人はいないんですか?」

 

「いないわけじゃなないが…。多くはないだろうよ」

 

「でもせめて、手伝いくらい出来るようになりたいです。足手まといにならないように、身体も鍛えます。だから今度森に連れて行ってください」

 

 と頼むと。

 

「まずは森を回るだけの体力付けてからだな」

 

 と渋い顔で言われた。


 現在のクラリベルの身体に体力が無いのは全くその通りで、昨日も帰り道はかなり足に来ていた。道などない森の中を何時間も駆け回るには体力が圧倒的に不足している。

 

(まあ体力なんて、一朝一夕で付くものでもないしね)

 

 この先どのくらいギーズといられるかは分からない。

 茉莉花としてはずっと居座りたいと思っているけれど、いつ何時追い出されるかもしれないし、もしかしたら仕事や何かで茉莉花の方から出ていく事になるかもしれない。


 ただどんな場合にせよ、体力を付けておいて損はないはずだ。

 

 


 

 街へ行ってから8日ほど経ったある日、夕食の席でギーズが、

 

「明日は村へ行くぞ」

 

 と言い出した。

 

 村は50分ほど歩いたところにあるらしい。

 現在加工小屋には、腸詰の他に、雉などの野鳥が2羽、野兎1羽分の肉がある。これを売りに行くのだ。



 

 翌日、朝の仕事を済ませて出かける支度をする。

 茉莉花は街で買ったブラウスにキュロットだ。今回は頭巾は良いのかと訊く。前回頭巾をかぶらされたのは短い髪の毛を隠すためだったのだ。

 

「いや、今回はいい。村へはこの先何度も行くしな、いちいち隠ちゃおけんだろ」

 

 正直頭巾は暑いので、茉莉花的には否は無い。

 

 

 前回と同様、ワトソンを連れて小屋を出る。

 籠の中には売り物の肉と、茉莉花が採って来たキノコも入っている。最近食べられる種類を3つほど覚えたのだ。

 

 街とは別方向だが、やはり森を抜けて草原を突っ切ると、そのうち麦畑と、ポツリ、ポツリと家並みが見えてきた。

 

 先日行った街と違って、特に塀などに囲まれることは無く、街道沿いや麦畑の中にポツリポツリと建つ家の集合体のような感じだった。村と言っても、どこからどこまでという区切りもあいまいで、この辺りの地域をひっくるめてみんな同じ『村』扱いになるようだ。


 ちなみにこの辺りはゴロゴロとうい地名なので、ゴロゴロの村ということになるらしい。ギーズの小屋も一応ゴロゴロ村に属することになる。

 その中でも、十数軒件の家がメインストリート(?)である街道沿いに集まっていて、そこが一応中心部になっているようだ。

 

 中心部まで来たギーズが、一軒の建物に近づいていく。どうやらそこは村で唯一の店になっているらしい。


 ガラス張りのドアを開けると、店の奥にはカウンターがあって、その向こうの棚には酒の瓶と樽が置いてある。カウンターの手前に椅子が3脚、他に小さなテーブルと椅子が2脚。

 棚が並べられて、パンやチーズ、バターや卵などの食料品が並び、天井からはハムや腸詰が吊るされている。

 食糧以外にも羽ペンや石板、紙の束、巻いた布、毛糸玉なども置いてある。

 小さいながら、最低限のものが揃えられるようになっているようだ。

 

「おう、ギーズじゃないか」

 

 カウンターの中にいた主人が声をかけてくる。

 その声に引かれたのか、店の奥から奥さんが顔を出してくる。

 

「おやいらっしゃい、その子が例の子かい?」

 

「ああ、姪っ子のジャスミンだ」

 

 二人ともギーズの2倍くらいの横幅がありそうだ。けれどどちらも、陽気そうな明るい表情と声をしている。


 ご主人は畑があるので、基本店は主に奥さんが切り盛りをしているが、夕方の、奥さんが家事で忙しい時間帯だけご主人が店番をするのだそうだ。そしてその時間帯だけ、酒を飲むことが出来るらしい。

 村唯一の店にして酒場でもある。

 

 奥さんが近づいてきて、茉莉花の顔を覗き込んでくる。

 

「可哀そうに、火事で髪が焼けちまったんだって?こんなにきれいな髪なのにねえ」

 

 と、短いせいで少しふわふわとしているパープルがかったプラチナの髪を撫でてくれる。

 

「お母さんは火傷して大変だって話だけど、あなんたは大丈夫なのかい?きれいな肌だもんねえ、火傷とかしてないかい?」

 

 と心配そうに訊いてくるのに。

 

「はい」

 

 と答えるだけで精一杯だ。

 

(火事?お母さん?怪我…!?)

 

 ……どうやらそういう設定になっているようだ。

 

(先に言っといてよ~~)

 

 設定間違いがあっては困るので、余計な事は喋らない方が良いようだ。

 

「こっちにしばらくいるんだろ?いくつなんだい?」

 

「6歳です」

 

 ようやく答えられる質問に安心していると。

 

「おや、6歳って云やあ……、ねえお前さん、シードんとこのノーラがそれくらいじゃなかったかい?」

 

 と、カウンター越しにギーズと話しているご主人に声を掛ける。

 

「ああー、ノーラか、そんくらいかもしれんなあ。……シードと言やあ、ギーズが来るの待ってたぞ、ライウィスキーの飲み比べの約束したんだって?」

 

「ああ? あれはシードが勝手に言い出したんだ。アスクッドで負けた方がおごるって話だったのに、あいつめ、飲み比べとか言い出しやがった。俺はちゃんと勝ったんだぞ」

 

 隙あらば酒の話になる男性陣に、奥さんが肩を竦めて、

 

「まったく男どもはしょうがないねえ。こっちへお座り、ミルクでも持ってこようね」

 

 とテーブル席を薦めてくれたので、ありがたく座らせてもらう。

 

「シードには、酒はまた今度って言っといてくれ。マスター、今日は野兎と雉だ。腸詰とキノコも持ってきたぞ」

 

「おおこりゃちょうどいい。ランスから、今度親戚が来るから肉が欲しいって言われてたんだ」

 

 と言いながら、カウンターに並べられた肉やキノコを検分し始める。

 

「こっちはパンとバター、あとは砂糖と小麦粉をくれ、あ、あとそっちの糸も」

 

 ギーズが希望の品を言うと、マスターが言われた品を籠の中に詰めていく。

 街でのやり取りと違って、こちらは物々交換のようだ。欲しいものがある時は自分の所の品を持って、店に交換しに来るらしい。

 

 ミルクを飲んでいる間に、売り買いは無事終わったようだ。

 帰りがけに奥さんが、

 

「ジャスミン、また来ておくれね、今度は遊びにおいで」

 

 と髪を撫でてくれた。

 

 

 戦利品の詰まった籠を背負いながら、元来た道を帰っていく。

 日暮れ時が近づいてきたせいか、畑から家に戻る村人数人とすれ違う。

 そのたびに、ギーズと言葉を交わし、茉莉花を紹介する。

 村人たちは身なりこそ簡素だが、皆血色がよく、表情も明るい。多分それなりに実りのある村なのだろう。

 挨拶した中には、肉を欲しがっていると話題になったランスもいて、ギーズの顔を見ると、

 

「肉を持ってきてくれたかい?」

 

 と早速訊いていた。

 

「ドノバンの店に置いてきたぜ」

 

 と答えると、

 

「クロスグリのジャムを持っていくよ、かみさんが作ったんだ」

 

 と急ぎ足で去って行った。

 その背を見送って。

 

「早まったな、クロスグリのジャムも欲しかった」

 

 とぼやくのが可笑しくて思わず笑う。

 

「さっきのお店、ドノバンの店って言うんですか?」

 

 と訊くと、

 

「ああ、マスターの名前だ、ドノバン。奥方の方はジーンだ。みんなドノバンの店って言ってる。前にジーンにお前の話をしたら、連れてこい連れてこいってうるさかったんだ」

 

 ジーンとドノバンには息子が3人いるが、下の二人は他の街に働きに出て、長男のベンは結婚して隣に住んでいる。ただこちらも子供が男の子で、しかももうかなり大きいのだそうだ。

 

「女の子だって言ったら嬉しそうだったからな、多分これから何かと世話になると思うぞ」

 

「ジーンさん…、ドノバンさん…」

 

 忘れないようにと、名前を呟いていると、

 

「ジーンおばさんて呼んでやれ、多分その方が喜ぶ」

 

 と言われた。

 

 話題にあがっていたノーラをふくめて、村には子供がそこそこいるらしい。

 ただ、春から秋にかけての繁忙期は、子供たちは皆親の手伝いで畑に出たり、近隣の畑の子たちと、小さい子の面倒を見ながら、果物や薬草を摘んだりしているらしい。

 

「ノーラも働いてるんですか?」

 

 6歳の子供が働くなんて、日本ではありえない。

 

「ああ、ノーラんとこは麦畑と果樹園と養蜂もやってるからな、夏のこの時期はかなり忙しい」

 

 子供も重要な働き手である村では、学校も農閑期である冬にしか開かない。

 冬になると都から先生が来て、中心部にある学校を開ける。子供たちは冬の間そこで読み書きを習うそうだ。

 

 日本とは全く違う常識にあっけにとられる。だが、子供が働くのが当たり前と言うのなら―――。

 

(私が狩りを手伝うの全然おかしくないよね!?)

 

 ギーズを説得する材料が、また一つできたことに内心喜ぶ茉莉花だった。

 

 


ゴロゴロは、その昔辺り一帯に、大きな雷が落ちたことが由来だそうです、

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