破~棄した~破~棄した~♪ 先~生に言ってやろ~♪
「アラン君がイザベラちゃんのこと婚約破棄した~」
「うわ~そんな勝手なことして、どうなっても知らないんだ~」
「……僕は悪くないよ! イザベラちゃんがルイズちゃんのこと苛めたのが悪いんだ!」
「そんなことはしてないと何度も言っているでしょう! アラン君の馬鹿!」
「馬鹿っていうほうが馬鹿なんだよ! イザベラちゃんの嘘つき! ダニエル君が現場を見たって言ってたもん!」
「あの……私、ベラちゃんに虐められてなんかないけど?」
ルイズ本人が否定したことで、皆の視線が一斉に自称目撃者であるダニエルへと向けられる。
「えっ……だって……僕、『こんな当たり前のマナーも知らないなんて恥ずかしくないの?』ってイザベラちゃんがルイズちゃんに悪口言ってるの聞いたよ」
「ベラちゃんは素直じゃないし、口がとっても悪いけど優しいんだよ! こっそり陰口叩いたり笑ったりしないで、淑女としての礼儀作法だって何度も丁寧に教えてくれたんだから!」
「でも……教科書を失くして泣いているルイズちゃんに『そんな大切なものを紛失するなんて自己管理がなってない証拠ですわ』って意地悪言ってたし……」
「だから、ベラちゃんは重度のツンデレなの! その後、陽が暮れるまで一緒に教科書を探してくれたんだから!」
「でも……僕は見たんだ! 階段でイザベラちゃんがルイズちゃんを押すところ! 怖くなって逃げちゃったけど……」
「それは、いつも助けてくれるお礼に、私が生まれたグンマー村に代々伝わるバク宙二回転受け身を教えてたんだよ! 自慢できる特技なんてこれぐらいしかないから。でも結局ベラちゃんは『そんな危ないことしないで!!!』って泣き出しちゃったんだけど」
「……イザベラぢゃん……うだがっでごべんね……」
「いいよアラン君……私こそ、『すぐ他人の言うことを鵜呑みにする主体性ゼロの七光りクソ王子』って言ってごめんね……」
ルイズの思わぬ暴露によりトマトのように赤面したイザベラと、言葉のナイフで治りかけた傷口を抉られ必死に涙を堪えるアランは、仲直りのハグをして互いのほっぺにキスをした。
「……そもそもダニエル君がちゃんと確認しないで勘違いしたうえに、アラン君に言いつけたのが悪いよね。というより姉上がルイズちゃんを虐めていると思ったのなら、その場で止めさせるべきじゃないかな。そうすれば結局ただの誤解だと分かっていただろうし。何より階段で突き落とした現場を目撃したのに怯えて逃げ出すなんて、君はそれでも近衛兵長の息子なのかい?」
「……だっでえ……いざべらぢゃんがごわがっだがらあ~」
「あ~! 今度はクリス君がダニエル君のこと泣かした~!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……これは一体何事ですか……?」
まるで小さな子供のように泣いたり囃したりと騒がしい学園の生徒達。どう見ても今年18才になる最上級生とは思えません。
「どうやら卒業パーティーの飲み物に、精神を幼児退行させる魔法薬と、真実しか話せなくなる自白薬が混入されていたようです」
職員室まで私を呼びに来た衛兵が答えます。
これがもし素面での婚約破棄事件だったとしたら、関係者はただで済まなかったでしょう。彼らには正気を取り戻した後で、ゆっくり事情を聞くことになりますね。記憶が残るとしたら全員一生モノのトラウマを抱えることになるでしょうけれど、いい薬です。
……確か今年の卒業パーティーを生徒主体にして教員を関わらせないようにすることを提案したのは、学園長でした。そして彼の専門は魔法薬学の研究であることも有名です。おそらく今回の騒動は全て……
しかし詮索して藪蛇になったら大変です。この歳で私も彼らのような醜態をさらしたくありませんし、犯人捜しは程々にしておいたほうが良さそうですね。