猫又の幼子、時雨堂にて。(店主たちの衝撃)
2話目
からん、からん。
鈴が客を連れてきたことを知らせた。
店主が趣味の中断に対してほんの少しだけ残念に思いつつも来ているであろう仔を思い出して笑みを零した。
出雲の集まりで動けるのは多分一人だからだ
あの少々お転婆で周りを振り回しながら幸せにしている仔猫はお茶を気に入ってくれるだろうか。
(まぁ、顔を見たことはあってもほんの幼子の頃だし、ほぼ初対面ですねぇ)
考えつつも乳鉢や薬研、干していた薬草を棚に仕舞うように目線を動かせば物は勝手に己の置き場に戻っていき、いつもの応接間に戻っていった。
わくわくとした顔でガラスのティーカップを眺めていた少女は来客を告げる鈴が鳴ったことに少し残念そうになりながらも頭をふるふると振り、気合を入れていた。
店番をしている少年曰く馬鹿正直の少女はまた何があるのかと気合を入れている。
この間は探しものと言われながら最終的に危うい目にあったし、相方を傷つけることがないようにと両頬を手のひらで叩いたのであろう。
そうして応接間を整えた頃に客人と店番、店主と手伝いの全員が揃う。
「失礼します、時雨さん」
ガラリ、と引き戸が開いて見えた姿は店主と少女にとっては衝撃であった。
何せ不貞腐れた表情でどんよりした瞳が更に死んでいる。ついでに言うなら抱えている幼子があばれたのであろう、服装がヨレヨレだ。
三軒ほど隣の酔い上戸の酒好きよりもひどい格好だ。強いて言うならばこれはもう着流し。
耳をピクピクと動かして忙しなく視線を彷徨わせ、己が一番と言うように、あれは何だこれは何だとひっきりなしに尋ねる幼子はもはや店番をしていた男にとっては怪獣だ。
「時雨さん、霊薬を取りに来たお客さんです」
どうにでもなれ、と言葉に気持ちを乗せて八つ当たりに近い何かを店番は店主に食らわせた。
後に店主は言う、「アレは困り果てた末に救いを求めてさじを投げてたね」と。
どんよりとした紅い目は雄弁に語っていた。
(もうやだ。)
「あなたが店主の時雨か?」
要はない、と床に降りて時雨を見上げると首を傾げ催促した。
「霊薬はどこ?」
(子供なのも合わさって気まぐれがすごいなぁ)
時雨は、依頼主である山神を思い出してちょっと震えた。
「似ちゃったかなぁ」
ちょっと胃が痛くなった。
言えない。出来てないというか、材料足りてないなんて。
ふりーだむごーいんぐまいうぇい世間知らず猫又幼女