猫又の幼子、時雨堂にて。(店番の災難)
冷えが足元にやってくるようになった神在月。
いつものように老若男女ならぬ百鬼夜行と神と偶に人間が訪ねてくる時雨堂は静かだった。
店主は最近趣味になった薬草茶を色々とかけ合わせては薬効を試すという、長い人生では役に立つであろう暇潰しをしているし、興味を惹かれた相方はそれに付き添って奥の部屋に向かった。匂いがこちらまでやってきているのが辛い。
いつものようにしている仕事はすでに終わり、昼寝をするには眠気が来ない。相方の様にやる気に満ち溢れている訳でもない己は暇だった。
(誰か来ないだろうか。)
別室は薬草の匂いが立ち込めており、鼻が利きやすい身としてはあの部屋に立ち入りたくはない。
ふと、そんなときだった。
からん、からん。店主が報酬に貰った扉の選別の鈴が音を鳴らす。
『何者ですか、客ですか?あなたの望みをこたえなさい。』
店に入れるか入れないかを判別する合言葉、常連や話を聞いてきたという客は正しい言葉を返すが、今回の客は正直者だった。
「吾は大山の神に仕える者なり、いつもの霊薬を貰いに参った神使見習いのねこだ!」
(ここまで正直に言ったやつ初めてあったな。)
何故だろう。相方の馬鹿正直加減を思い出した。
『存在と用件を受け入れる。時雨堂へようこそ。』
締めの言葉を放つと鈴は扉の先にいるものを受け入れて店に客がやってきた。
だが、
どう見ても幼子だ。人で言うなれば四歳児。
己の股下よりも小さい。
考えあぐねていると幼子――いや、客人は物珍しそうにキョロキョロとしていた。耳は忙しなく動き、尻尾は二又に別れ、ぴんと立っている。
「おい、お前薬はどこだ?早く持ち帰って大主様とかかさまにみてもらうのだ。あとあのびいどろの鳥はなんだ?早く帰りたいが店主がいないなら早く帰れない。色々と教えろ!」
着物の裾を掴んで揺らすように駄々をこねる。やめてほしい。
「店主は奥の部屋におられるので呼んできますね。暫しお待ちください。」
これで離せ。
「仕方ない。ついていってやる。奥には何があるんだ?」
綺羅星の如く目を光らせて両腕を広げてこちらを見ている…つまり、抱っこをせがまれた。
幼子の抱っこなど生まれてこの方、したことがない己はほとほと困り果てた。
何というか、幼子は何も行動も思考も読めないからだ。
しかし、てこでも動かないと顔にでかでかと書いているこの使いの仔猫は抱っこをした上で解説を行い、あの匂いが立ち込める部屋まで連れて行かねばならないと?
(頼む、勘弁してくれ)
思わず、関係するであろうあの山の神にどうにかしてくれと祈ってしまいそうだった。
祈ったら最後、それを聞き届けながらいくらでもあとから思い出しては笑い出すあの女神の顔が思い浮かんだのだった。
憂鬱さに男は思わずため息を吐いた。
読んでいただきありがとうございます。初書き小説のシリーズ物です。
自分の好きなものを詰め込んで書いてます。(和風ファンタジー、巻き込まれ、人外と人間、因縁など)二次創作待ってます!
己の!好みに!飢えてるから!