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3、金髪とつんつん、そして美女

 つんつんヘアの男が口をはさむ。たしか、リックスだったか?


「待てよ。俺たちはこれから色付きの任務に挑むんだぞ? シロートに技術指導してる時間はない」

「リックス!」

「なんでそんなこと言うの!? ごめんなさい、アインさん。彼、初めての色付きを前にして気が立ってるんです」

「あはは……。そうですよね。でもその心構え、大事ですよ! 色付きは今までとはレベルが違いますから」


 こっちをちらちら見るなよヘーゼルちゃん。そんなに気を使わなくても怒りませんよ。なんせ僕は24ちゃいのベテラン冒険者らしいからね。

というかお前の発言の方がプレッシャーになってんだよ。

色付きはレベルが違うって言った瞬間ゴクリと唾を呑む音が聞こえたよ。


 色付きというのはEランク以上の依頼のことだ。

依頼には危険度や重要度を考慮して、パーティと同じようにAからGのランクがつけられる。

ギルドに来る以来の多くはFかGランクのもので、量が多い分扱いは雑になる。

依頼内容は白黒で張り出され、手書きで書き足されることがあるほどだ。

ま、Gランクなんかただの雑用だし。

一方E以上の依頼は報酬が跳ね上がる代わりに、危険度も跳ね上がる。らしい。

高難易度高報酬の依頼は当然FやGレベルの依頼に比べて少なくなり、扱いも良くなる。

その分かりやすい例が依頼内容のカラー印刷。

Eランクなら緑、Dランクなら紫と依頼書の枠線の色が変わる。

これを通称・色付きと呼び、ギルドはこの色付き依頼の獲得数と処理数を、冒険者ヴァンダルは達成数を誇りにし、マウントを取る。


 そんな状態で起こるのはバカなギルドとアホな冒険者ヴァンダルによる無謀な企てだ。

高難度のクエストだけを冒険者ヴァンダルに勧め、ハイリターンを狙って身の丈に合わない戦地に身を投げ出す。

するとどうだろう、あら不思議!

どこからともなく死体の山が!となるわけだ。

冒険者ヴァンダルとかいう流浪人どものこととはいえ流石にそれはまずいのではと国が動き、ただの格付け要素でしかなかったパーティランクが大きな意味を持つようになった。


 簡単に言えば、ランクによって受けられる依頼の難易度が制限されたわけだ。

内容はこうだ。


『公式に冒険者ヴァンダルギルド登録されているパーティが冒険者ヴァンダルギルドを通して依頼を受ける際、パーティランクと同一以下までの依頼を受けることができる。ただしFもしくはGランクの依頼において、パーティランクによる上記の制限は適応されない。Eランクの依頼において、Fランクの依頼を十二以上達成したパーティに関して、パーティランクによる上記の制限は適応されない』


 まあ何が言いたいかというと、基本的にパーティランクと同じかそれ以下の難易度の依頼しか受けられないが、それなりに数をこなせばパーティランクが低くても“色付き”のEランククエストを受けることができるというわけだ。


 話を聞く限りこのプロシュート・ポリスとかいう連中はFランクのクエストを規定数こなしたばっかりってとこだろう。


「ごめんなさいアインさん。リックスも悪気があったわけでは」


 いや悪気はあったろうよ。


「構いませんよ。雑魚の鳴き声なんてギルドで聞きなれてますから」

「ああ!?」

「どうどう。そう声を荒げるなよファックス君」

「リックスだ! 雑魚ってのは俺たちのことか? ああ?」

「いやいや、君単体のことを雑魚と言ったんだよタックス君」

「てめぇ……。表出やがれ! ぶん殴ってやる!」

「やめなよリックス! 落ち着いて!」


 荒ぶるつんつんヘアをチーロとシェナが必死に止める。

……おい、胸当たってねぇか?


「わ、わー。俺もおこったぞー? 止めないと暴れちゃうぞー? シェナちゃーん、おーい」

「……何してるんですか」


 とてつもなく冷たい視線が俺に突き刺さったと思ったら、隣でヘーゼルが伏目でこちらを見つめていた。

科学には明るくないが、絶対零度というのはこういうことを言うのだろう。

ま、冷たい視線で俺が傷つくと思ったら大間違いだぞ? なー! 世界中の同志たち!


「とにかく俺は認めねぇぞこんな奴。補助人を入れるなら他のやつにしてくれ。それが無理なら三人でできるEランクを探そう」

「賢明な判断とは言えないな」

「あ?」


 すぐかっかするんだから。これだからバカの相手は疲れる。


「君たち三人じゃEランクの依頼は無理。命が惜しけりゃやめとけ。これは意地悪でも何でもない、ただの警告だ」

「うるせぇ! 俺らの頑張りも知らずに好きかって言いやがって」

「Fランクを頑張らなきゃいけない時点で……」


 言いかけたところでヘーゼルが俺の口に手を当てて、それ以上はやめろとストップをかける。手遅れだと思うけどな。


 それにしても女性の手というのはどうしてこういい香りがするのだろうか。

指先こそ書類仕事のインクの香りだが、それもまた趣なり。


「言い方はクソですが」

「クソ」

「私もアインさんの言う通りだと思います」

「なっ! ヘーゼルさんまで……。なんでだよ! 俺たちは早く……」


 興奮するつんつんを制するリーダーのチーロ。

興奮しすぎて話をさえぎられるなんて情けないやつだな、ガハハ。


「おっしゃりたいことは分かりますが僕たちも冒険者ヴァンダルの端くれです。ミミズ程のものですがプライドもあります。なぜ僕たちがEランクの依頼を達成できないのか、明確に教えていただけないでしょうか」


 なんだよ。穏やかなふりして随分はらわた煮えくり返ってるみたいだな。

あまり怖い顔をするなよ、ちびるぞ?


「そう怒らないでくださいな。現時点ではってだけで将来はDランクくらいならいけるんじゃないですかねぇ」

「それは明確な答えではない」

「実力と経験が足りない」


 静まり返るギルド。バカな呑兵衛たちがいない昼の時間とはいえここまでの静寂は珍しい。


「……それは何もかも足りないと」

「わざわざ言わないと分からないなんて、脳みそも足りないのか」


 俺がそういい終わったと同時に体が上に引っ張り上げられる。

どうやらつんつんが胸ぐらをつかんできたらしい。

だがすぐに体は元の位置に戻る。


「もういい。こんな奴相手にするだけ時間の無駄だ。ヘーゼルさん、申し訳ないが補助人プロスペクト契約の話はなしだ。文句ないだろ、チーロ」


 彼も黙って首を縦に振り、席を立った。

シェナちゃんはこちらを気にしてちらちら視線を送るが、てとてと二人の後を追った。

かわゆい。


「よし! 終わり! 報酬よこせ! 痛い! ごめん!」

「はぁ……。どうしてこう、とげのある言い方しかできないんですか」

「俺が何か間違ったことをしたか? カネの鈍い光で現実が見えなくなった馬鹿どもに忠告してやっただけだ。どうやら俺の願いは届かなかったみたいだけどな。親の心子知らずってか」

「いつ親になったんですか……。彼らには彼らの事情があるんですよ。ちゃんと最後まで見守ってくださいね」

「見守るったって完全に嫌われたぞ? 今更パーティに入れてくれるわけないだろ」

「大丈夫です。考えがあります」

「後ろから見守ってこいとか言わないよな」

「さすがアインさん! ご名答! ジーニアス!」

「かっこいい?」

「かっこいい!」

「最高?」

「最高!」

「惚れちゃう?」

「そろそろいいですか」

「はい。すんません」

「ではよろしくお願いします。ちゃんとやってくれないと、上に報告しちゃいますからね」


 全く、厄介な女に捕まったもんだ。

だがそれも一興、楽しんで見せてこそ真の男よ。

決して脅されてるからしょうがなく行くわけじゃないですよ、ええ。


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