2、遥かなる太陽
『契約者名 Ein=Plattenhardt
生年月日 856年10月4日
希望役職 なし
適正役職
ランク
下記の注意事項をご清覧いただき……』
「なんだこれ、めんどくせぇ」
「ちゃんと記入してくださいよ。何か漏れがあったら怒られるのはギルドなんですから。ほら、適正とランク」
ヘーゼルは将来お小言ババアになること間違いなしだな。旦那は苦労するぞ。
ツケで楽しく怠惰な生活を楽しんでいた俺だったが、ついにギルドにキレられて補助人契約なんていうふざけた契約を結ばされているわけだ。
しかしまあなんというか、ギルドのシステムも年々面倒になっていくな。
冒険者なんて所詮みんな馬鹿か銭ゲバしかいないんだから適当でいいんだよこんなもん。
「ほれ、書けたぞ」
「承りました。改めて補助人契約、おめでとうございます!」
「ほぼ脅迫だけどな」
「自業自得ですけどね」
何も言い返せない。だってその通りなんだもん。
はいロジハラ!
「早速補助人が欲しいっていうパーティがいるので、チュートリアルみたいな感じで行ってきてください」
「あ? そんな適当な感じなの? わざわざこんなもんまで書かせて? お? これだから役場仕事はよぉ。人にはさんざんやらせといて自分たちはずさんな、いってぇ!!」
ヘーゼルは気持ち悪いくらいにっこり笑っているが、明らかに右手が振り切れている。
人をぶん殴った後にそんな顔ができるのは大物だ。尊敬に値する。マジリスぺ。
「余計なことだけ口が回るんだから。どうせ説明したって聞かないのに」
ぶつぶつ文句を言いながら、ヘーゼルは俺に手を出せというジェスチャーをする。
そして次の瞬間。
「どぅおぁー!! てめぇ何しやがる!」
彼女が俺の手の甲に右手を重ねると、そこには小鳥の紋章が現れた。
控えめに言ってクソダサい。
「これが補助人契約者の証です。かわいいデザインですよねー」
「ねーじゃねーわ。なんだこれ、ふざけてんのか? こんなもんおしゃぶりしておむつ履きながら歩いてるみたいなもんじゃねーか」
「安心してください。契約解除を申請していただければすぐに消せます」
「解除します」
「却下します」
「悪徳商法かなんかか?」
なんだこれ、ひよこか?
駆け出しのひよっこって煽りか?
使い古されてんだよそのネタは。
「手の甲に契約の証入れられるのは補助人とSランクだけですよ。いぇーい」
「入れられるっていうか無理やり刻み込まれたんだよ。Sランクの紋章は任意だろうが」
「まあまあ。もう依頼人さん待ってますから」
俺は彼女に促されるまま、テーブルの方に座っている奴らの元に向かった。
「お待たせしました! えーっと《遥かなる太陽》の皆さんで間違いないですか?」
リーダーらしき金髪の男が頷く。
おお、中々イカすパーティネームじゃないか。
俺は絶対名乗りたくないけどな。
メンバーは見る限り三人。
自身のなさそうな顔をしたリーダーと、性格の悪そうなつんつんヘアと、かわいらしい女の子。
なんとも無個性な連中だ。
とてもじゃないが、遥かなる太陽なんて名前にふさわしくは見えない。
ま、駆け出しなんて大体そんなもんだ。
「こんにちはヘーゼルさん。こちらが補助人の?」
「ええ」
金髪の男は席を立ち、俺に向かって握手を求める。
なんだこいつ。ナイスガイか?
「僕はチーロ=ナシメント。こっちの背の高いのがリックス=バロウ、こっちがシェナ=デクライン」
見た目通りの穏やかな口調で話す金髪の後ろで、シェナちゃんがにこりと微笑む。
かわいい。
リックスとやらがこちらをにらみつけてるのなんて全く気にならない程度には可愛い。
ぼーっと突っ立っている俺の背中をヘーゼルが小突く。
挨拶を返せということだろう。そのくらい俺だってわかるっての。
俺はゆっくりと右手を差し出し、チーロの手をがっちりと握る。
「俺はセバスチャン=アンドロメダ」
「この方はアイン=プラッテンハルトさん」
「齢17歳の駆け出し冒険家!」
「御年24歳の実績あるベテランです」
「品行方正信頼抜群最強助っ人ここに見参!」
「悪逆無道信頼皆無の最強助っ人です」
「お前は俺に働いてほしいんじゃないのか。なぜ信頼を失墜させるようなことをする」
「虚偽の発言を連発するからですよ」
「あはは……。にぎやかな人だね」
ほらな、ヘーゼルのせいで俺のクールキャラは早くも崩壊ですよ。コラプスですよ。
「では早速アインさんに今回の依頼の内容や作戦、彼にやって欲しい役割を伝えてあげてください。アインさんは補助人契約を結んで初めてのクエストになるので、今回は私も打ち合わせに同席させていただきますね」
「分かりました。では早速……」
「ちょっと待て」